【中国】最高人民法院による知識産権法庭の若干問題に関する規定[法釈2018]22号 (2018年12月27日公布、2019年1月1日施行)

11月2日付ご紹介した最高人民法院の10月27日付の「特許等知的財産権訴訟手続きの若干の問題に関する決定」で設立され、特許権など訴訟専門第二審である最高人民法院内の「知的財産法庭」の設置とその役割を明確にする規定が2018年12月27日付公布された。

本規定は全15条からなり、注目する点は第2条の対象訴訟事件、第4条の当事者の同意を条件とした訴訟内容の公開、第5、6条の訴訟手続きでのビデオ会議や巡回裁判、及び第12、13条の経過措置である。

第2条 知識産権法庭は下記に掲げる事件を審理する; (1)高級人民法院、知識産権法院、中級人民法院が作成した発明特許、実用新案特許、植物新品種、集積回路配置設計、技術秘密、コンピュータプログラム、独占の第一審民事事件の判決や裁定に不服の上訴事件;
(2)北京知識産権法院が発明特許、実用新案特許、意匠特許、植物新品種、集積回路配置設計の登録確認の第一審行政事件判決や裁定に不服の上訴事件;
(3)高級人民法院、知識産権法院、中級人民法院が発明特許、実用新案特許、意匠特許、植物新品種、集積回路配置設計、技術秘密、コンピュータプログラム、独占の行政処罰など第一審行政事件の判決や裁定に不服の上訴事件;
(4)本条第1、2、3項で言う第一審民事と行政事件で全国での重大、複雑な事件;
(5)本条第1、2、3項で言う第一審事件において既に法律効力が発生した判決、裁定、調停書に法に基づき再審請求、控訴、再審など裁判監督手続きが適用された事件;
(6)本条第1、2、3項で言う第一審事件の管轄権争議、罰金、禁固決定に対する再審請求、審理延長請求などの事件;
(7)最高人民法院は知識産権法庭が審理したその他の事件も認定しなければならない。

なお、2019年1月1日付で最高人民法院内の「知的財産法庭」は正式に設置された。また、庭長は羅東川、副庭長は、王闯、周翔、李剣の3名、他に最高人民法院裁判官が6名、北京市高級人民法院と知識産権法院から5名、元専利復審委員会から3名、上海市から2名、浙江省、江蘇省、厦門市、山東省、湖北省、湖南省、広州市から各1名で合計23名の裁判官が配属されている。

参考サイトは下記の通り。

http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-137481.html

http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-137821.html

【中国】最高人民法院による知的財産権紛争での行為保全(仮差止)事件の審理における法律適用に関する若干問題の規定 法釈〔2018〕21号(2018年12月13日公示、2019年1月1日施行)

本規定は、最高人民法院が知的財産権紛争での行為保全請求に関する司法解釈を決定したことは前号でその背景とともにご紹介したが、その全文が2018年12月13日に公示されたため、その仮訳及び注目点とともにご案内する。行為保全は、外国から導入された民事措置の一つであり、2012年の民事訴訟法改正で訴訟前と訴訟中に分けて明確にされたもので、仮差止命令或いは差止仮処分命令と理解することができる。従って、ここでは以下「仮差止」という。

本規定は、全21条から以下の4つの面から整理することができる。
1.手続き規則には、請求主体、管轄裁判所、請求書と記載事項、審査手続き、再審請求などが含まれる。特に、緊急状態での請求は、48時間以内に決定することを規定している。
2.実体的規則には、仮差止の必要性を検討する要素、仮差止措置の有効期限などが含まれる。特に、無審査登録の実用新案や意匠の特許権での評価書の必要性や回復不能の損害にいついて具体的な情況を規定している。
3.被仮差止者保護規則には、仮差止申請における錯誤の認定やその錯誤による損害賠償の管轄権、また仮差止措置の解除について規定している。
4.異なる種類の保全申請が同時にされた場合の処理規則では、仮差止、財産保全また証拠保全が同時請求された場合の合法性の判断や手続き費用の納付などについて規定している。

なお、仮差止の規定を定めるにあたり、以下の3つの原則が考慮されている。
(1)迅速かつ確実の原則。合法的な権益保護には迅速な対処が必要である一方、制度の悪用や誤った適用による不正な競争や公共の利益の保護のためにも適正な審査や客観的な責任分担を明確にするべきである。
(2)権利種別ごと施策の原則。対象となる知的財産権は、著作権、商標権、特許権、営業秘密など権利と条件が異なるため、「緊急の情況」、「知的財産権の安定度」、「回復不能の損害」、「知的財産権の種別や特性」など、それぞれ事実認定と慎重な仮差止命令を出すことで企業の正常な事業保護の有効な措置を採るべきである。
(3)予測と実現性の結合判断の原則。本件規定の作成では数多くの内外の事例を検討し論証して規定を明確にしているが、仮差止命令前の尋問や錯誤の場合の認定などが確実なものとするための必要な措置としている。

参考サイトは下記の通り。

http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-135341.html

https://baijiahao.baidu.com/s?id=1619725426206706401&wfr=spider&for=pc

【中国】国務院常務委員会は、特許法改正草案を採択(2018年12月5日)

国家知識産権局は、12月7日付、李強国国務院総理(首相)が常務委員会を招集し、再びイノベーションによる改革を促進し、更に一層イノベーションを刺激し、創造活力を創出させるために、「中華人民共和国特許法改正(草案)」を通じて、財産権を効果的に保護し、権利侵害を強力に打撃することを決定した。

特許法改正については、特許権者の合法的な権益保護をさらに強化し、発明や創造を奨励するメカニズム制度を充実させ、実務において有効に特許を保護する成熟した方法を法律とするため、会議は「中華人民共和国特許法改正案(草案)」を採択した。

草案は、知的財産権の侵害に対する打撃力を強化するため、外国の手法を参考にして、故意侵害や特許虚偽に賠償と罰金額を大幅に増加させ、侵害コストを著しく増加させて、違法行為を抑制することを着目している。また、侵害者による関連資料提供協力義務やネットワークサービス事業者が迅速に権利侵害行為を阻止しない場合の連帯責任を明らかにしている。さらに、草案は発明者や創作者が得るべき職務発明の収益の合理的配分メカニズムの奨励や特許権ライセンス制度の整備を明確にしている。そして、会議は、草案を全国人民代表大会常務委員会で引き続き審議することが確認された。こうしたことから、改正特許法の内容は近日中に公示されると思われる。なお審議送信稿は2015年12月で、No.201510CY参照下さい。

なお、本会議では下記の内容が確認された。会議は、党中央、国務院部署京津冀、上海、広東などの8つの区域で、イノベーション促進改革の取り組みが先行試行されており、去年第1回として13の改革プロジェクトで推進された。

また、会議では、次回は23の改革プロジェクトをより大きな範囲で実施し、イノベーション資源に一層大きな刺激を加え、イノベーション活動の奨励、新しいエネルギーを育成することも決定している。

その全国で推進する主要な事項は下記の通り。

1.科学技術成果物の転化の強化
2.中小科学技術企業のための科学技術金融サービスのイノベーション
3.完全な科研管理による国有設備の開放共有、革新的な意思決定のメカニズムの確立と先行試行プロジェクトの総括、評価、今後の展開などについて、更に推進することを求めている。

参考サイトは下記の通り。 http://www.cnipa.gov.cn/zscqgz/1134384.htm

日中間のPPH特許審査ハイウェイの試行プログラム期間延長(2018年11月1日)

国家知識産権局は、11月1日付、日中双方の長官が ble 4 Accenが「中国国家知識産権局と日本国特許庁の特許審査ハイウェイプログラムの共同合意声明」に署名し、2018年11月1日から2023年10月31日までの5年間の継続延長が決定した。

日中間のPPHプログラムは2011年11月1に開始し現在まで試行延長となっている。

なお、第25回日中知的財産局長会議が11月1日に京都で開催され、申長雨と宗像直子両局長が参加し、日中平和友好条約40周年記念に併せて両局の継続的友好協力関係や具体的なテーマでの交流がなされた。

参考サイトは下記の通り。

http://www.gov.cn/zhengce/content/2018-11/19/content_5341736.htm

https://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/japan_china_highway.htm

http://www.cnipa.gov.cn/zscqgz/1133274.htm

【中国】 特許等知的財産権訴訟第二審手続き変更の決定の公示、2019年1月1日施行 コメント

ここでは、今回の訴訟手続きの変更について、全国人民代表大会常務委員会での最高人民法院の説明や発表後の質疑から簡単に解説する。

 上記のチャートは中国の司法制度の組織と審判フローである。裁判所の編成としては、最高人民法院(北京)をトップに、地方の省クラス以下に「高級人民法院」、「中級人民法院」、「基層人民法院」とピラミッド構成になっている。商標や著作権の事件は、基層人民法院が第一審となる。特許などのやや判断の難しい案件や商標や著作権での高額損害賠償事件などは中級人民法院が第一審となり、その上級の高級人民法院が第二審で、上訴や抗告事件を担当する二審制が基本である。再審請求は、その上級審になるため、特許侵害訴訟では最高人民法院が担当する。

 これまでの特許侵害訴訟などに対応する司法改革では、2016年から第一審を担当する中級人民法院クラスを組織替えしてきた。つまり、2016年10月に北京、上海、広州に知識産権法院を設立し、当該特別市地域に複数ある裁判廷をまとめることで、当該地区での統一した司法判断と法律の適用を開始した。その後、2017年1月以降、知的財産訴訟の多い省や特別市においても、同様に特定裁判所の知財廷で統一した適用ができるように統合を進め、現在までに16の知財廷が設置された。これらに漏れている省や特別地区では従来と変わらず、中級人民法院が第一審を担当している。

今回の「決定」では、各地の高級人民法院で第二審を担当することをやめて、最高人民法院の中に第7巡回法廷を新設し、最高知識産権法院(或いは、法廷)との名称で、第一審の上訴事件を担当するようにするとの内容である。従って、北京、上海、広州の各知識産権法院、16都市の中級人民法院知財廷、及びその他の地域の中級人民法院が担当した第一審、及び、高額の損害賠償請求事件や指定事件として高級人民法院が担当した第一審に対する上訴や抗告事件が新設される最高知識産権法院で処理されることになる。第二審に対する再審請求も同様に最高人民法院が担当する。

これまでの素案の公表や「決定」の発表後の質疑などから、現状では以下のようなことが分かっている。

(1)対象の事件

 対象事件は、民事事件と行政事件としており、その対象は、中国でのこれまでの裁判実務に基づくと、商標や著作権ではなく、技術的専門性が比較的高いのは特許、植物新品種、集積回路配置設計、営業秘密、コンピュータソフトウェア、独占などの知的財産権事件であり、職能、編成、人員などの要素を総合的に考慮して、それらを対象とするとしている。

 第1条は、意匠特許を対象としていない。これは、発明特許や実用新案特許と比べて技術的専門性が高くないと判断されており、第二審は案件の継続性などからその地区の高級人民法院が担当する。一方、第2条の行政事件では、発明特許、実用新案特許及び意匠特許事件の第二審は同様に最高知識産権法院で行われる。

(2)裁判審理等級

これまで、特許などの技術など専門性の高い民事と行政事件の第一審は中級人民裁判所が管轄している。そして、第一審の審判に不服の場合、当該地の高級人民法院が第二審を担当している。最高知識産権法院が設立され第二審を担当するようになれば、高級人民法院は第二審を管轄してはならないことになる。

 このため、2014年8月31日の「全国人民代表大会常務委員会の北京、上海、広州の知識産権法院の設立の決定」第4条の規定についても、今回の「決定」により変更されるであろう。

 また、北京知識産権法院は民事事件以外に、特許、植物新品種、集積回路配置設計などの3種類の権利付与行政事件の不服事件及び営業秘密、コンピュータソフトウェア、独占などその他の行政事件も担当しており、それらの上訴事件は最高知識産権法院が担当することになる。

 第二審の最高知識産権法院での判断に誤りなどがあり、再審請求や抗告があった場合は、現行法に基づき最高人民法院の審判監督廷で審理が受けられる。

(3)他国状況の参考

 今回の「決定」での草案にあたっては、世界10か国に既に知的財産権の専門裁判所が設置しており、いずれの場合も、「国レベル、高等裁判所レベル、特許専門レベル」の裁判所設立モデルがあり、それを参考に採用した。そして、3年間の試行の後に結果を全国人民代表大会常務委員会に報告するとしている。

(4)その他の事項

 最高人民法院は2018年、今年の年末までに、司法解釈や作業プログラムを制定し、最高知識産権法院設立、知的財産裁判所の管轄などの問題、事件の受理、裁判監督プログラムなどの問題を細化し、明確化するとしている

 これまでの中国の行政改革や司法性改革などからすると、施行から確実な実施までには比較的時間を要することになると考えるのが普通である。更に、新設される最高知識産権法院は人手不足が予想され、どのように人員を配置するのだろうか。中国での人事異動は大変であり、地方の裁判官が北京に容易に移動するとは考えづらいこともある。また、中国全土の特許侵害訴訟などの第二審を北京で対応することは容易でなく、一般民事事件などで行っている地方巡回裁判やテレビ会議システムを利用した裁判審理なども可能としないと、原告や被告、更に関係する弁護士や証人などの対応や負担が大きくなることもあるので、難しい課題も多いように考えられる。いずれにしても、12月末までに公布される各種通達を十分確認し検討することが求められる。

【中国】 特許等知的財産権訴訟第二審手続き変更の決定の公示、2019年1月1日施行(2018年10月26日)

最高人民法院は、10月27日付、「特許等知的財産権訴訟手続きの若干の問題に関する決定」を公示しました。これは、10月26日午後に開催された第13回全国人民代表大会常務委員会第6回において、最高人民法院が審議を提出した「特許等知的財産権訴訟手続きの若干の問題に関する決定」(以下「決定」)が採択、承認されたもので、中国版CAFCと言ってもよい、特許侵害など比較的技術的に判断が難しい審判の第二審を最高知的財産法院で集中的に行う方針を明確にした。2019年1月1日から施行される。

中国知財訴訟システム

経緯としては、2017年11月の「知的財産裁判分野の改革と革新に関するいくつかの問題に関する意見」に基づき、最高人民法院が検討を重ね、本年10月22日の第13回全国人民代表大会常務委員会第6回会議で本件「決定」の草案の説明を行い、イノベーション主導の発展戦略を展開するには知的財産権事件審判の標準化を進め、科学技術革新法の環境を最適化し、知的財産権強国の建設に有力な司法的保障の提供が必要であり、国レベルの知的財産権事件の第二審のメカニズムを確立するために審議を要請した。

ポイントとしては、以下のような事項である。最高人民法院内に知識産権法院を設立し、全国での技術的専門性の高い特許などの第二審を統一して審理することで、国レベルの知的財産権事件の上告メカニズムを確立し、科学技術革新の奨励と保護を保障する環境整備をする。国内外の企業の知的財産権に対する法律による平等な保護を強化、促進する。法治化、国際化、便利化の経営環境、統一と規範的裁判のレベルを統一し、司法に対する公信力を向上させる。なお、新制度を3年間実施して、全国人民代表大会常務委員会に報告し、その後の見直しを示唆している。

 以下に仮訳を掲載し、ご参考とする。

<仮訳>全国人民代表大会常務委員会の特許等知的財産権事件訴訟手続きの若干の問題に関する決定(2018年10月26日第十三回全国人民代表大会常務委員会第六回採択)

知的財産事件の裁判の標準を統一するために、さらに知的財産権の司法による保護を強化し、科学技術イノベーションの法治環境を最適化し、イノベーション主導の発展戦略の実行を加速するために、特に以下の通り決定した。

第1条 当事者が発明特許、実用新案特許、植物新品種、集積回路配置設計、営業秘密、コンピュータソフトウェア、独占などの技術的専門性が比較的高い知的財産権の民事事件の第一審判決、裁定に不服で上訴する場合、最高人民法院が審理する。

第2条 当事者が特許、植物新品種、集積回路配置設計、営業秘密、コンピュータソフトウェア、独占など技術的専門性が比較的高い知的財産権の行政事件の第一審の判決、裁定に不服で上訴する場合、最高人民法院が審理する。

第3条 すでに法律の効力が発生した上述の事件の第一審裁判、裁定、調停書、合法的再審請求、抗訴などについては、審判監督手続きを適用して、最高人民法院が審理する。最高人民裁判所は、法に基づき下級人民法院に再審を命じることができる。

第4条 本決定は満3年間施行され、最高人民法院は全国人民代表大会常務委員会に本決定の実施状況を報告しなければならない。

第5条 本決定は、2019年1月1日より施行する。

参考サイトは下記の通り。

http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-125391.html

https://www.chinacourt.org/article/detail/2018/10/id/3549561.shtml