深セン市政府は、「深セン経済特区知的財産権保護条例」を市第六次人民代表大会常務委員会第29回会議で2018年12月27日に採択、公布し、2019年3月1日から施行している。中国では、地方政府の定めた知的財産保護条例として、比較的厳しい内容になっており、また地域的にも行政執行が積極的に行われているために、注目をされている。
注目する点は、行政法執行にあたる第三章であり、その抜粋は下記の通り;
第19条は知的財産権事件を調査・処分する場合に、行政が取れる措置をリストアップしているが、被疑侵害行為の物品の差押えは、その後の民事訴訟でも有効に活用できる。
(1)現場検査;
(2)当事者の事業記録、ネット販売記録、手形、財務帳簿、契約などの資料を閲覧、複製、仮差押え或いは封印;
(3)当事者に規定期限内に事件の事実説明と共に、相応の資料提出の要求;
(4)被疑権利侵害製品、物品の差押え、押収、記録、保存;
(5)測定、写真、撮像などの方法での現場踏査;
(6)他人の方法特許権を侵害した疑いがある場合、当事者に現場でのデモンストレーションの要求;但し、秘密漏洩の防止保護措置を講じるとともに、関連証拠を固定しなければならない。
第20条は技術調査官の活用と職責を明示している。
(1)技術事実調査の範囲、順序、方法に意見を具申;
(2)証拠調査に参加するとともに、その方法、手順などに意見を具申;
(3)市主管部門が案件を処理する技術事実根拠とする技術審査意見を具申;
(4)市主管部門が命じるその他の技術調査業務。
第21条は知的財産権行政法執行過程において、技術的支援が必要な場合、産業協会、知的財産権サービス機構などに現場での証拠調査に協力を求めことができる。
第22条は、逸失利益の算定について明確にしている。
(1)権利侵害製品がすでに全部販売されている場合、価値は実際の販売価格に基づいて算定する;
(2)権利侵害製品が部分的に販売され、部分的に未販売(製造、保管、運送中を含む)の場合、既に販売されている権利侵害製品の価値は実際の販売価格に基き算定し、未販売の権利侵害製品の価値はすでに販売されている権利侵害製品の実売平均価格に基づき算定する;
(3)権利侵害製品が未販売(製造、保管、運送中を含む)の場合、価格は表示価格により算定する。価格表示が或いは価格が明らかに製品の価値と一致しない場合、被権利侵害製品の市場中値に基づき算定する。
(4)権利侵害製品に実際の販売価格がない或いは実際の販売価格を調査できない場合、被権利侵害製品の市場中値に基づき算定する。
第23条は部品或いは組立部品の場合の逸失利益の算定を明確にしている。
(1)権利者の生産、製造、加工でのコスト(原価)により違法事業額を算定する。
(2)海外のみで販売される場合、FOB(本船渡条件)価格に基づき違法事業額を算定する。
(3)権利侵害者が異なる時期に権利侵害行為を繰返す場合、累計して算定する。
第24条は逸失利益の算定の基礎になる市場中値の決定について、明確にしている。
(1)同一市場で複数の業者が同種の被権利侵害製品を販売している場合、その中のいくつかの業者の販売価格を抽出し、その平均値で市場中値を確定する。
(2)市場に同種の被権利侵害製品が販売されていない場合、従来市場で販売された同種の被権利侵害製品の中値に基づき確定する。
(3)ライセンス方法で販売する場合、ライセンス料で確定する。
第25条は被疑侵害者が知的財産権侵害事件を調査に協力的でない場合の処罰を明確にしている。
第26条は、投訴後の仮差止手順について明確にし、被疑侵害者が対応しない場合の罰則を明確にしている。仮差止命令を拒否した場合違法事業額の2倍の罰金。算定できない場合、或いは違法事業額が5万元以下の場合、3万元以上10万元以下の罰金。
第27条は再犯に対する処罰を明確にしている。行政処罰決定書の発効日から5年以内に再度同一の知的財産権を侵害し、或いは5年以内に3回以上他人の知的財産権を侵害した場合、法律法規に規定の相応の罰金の2倍の処罰。
仮訳は中国知財資料を参照ください。