【中国】最高人民法院による民法典の条文整理

最高人民法院は、民法典の1260条文を整理し、新設条項と実質的改正のある条項が全体の31.2%を占めているとしている。以下のいくつかの観点からまとめた。

(1)民法典に現行法条文をそのまま転用したのは約457条と全体の約36.3%を占める。
 そのまま転用とは、文字や句読点を含めて、改訂がないことを言う。内容から見ると、「民法総則」は立法から日が経っていないので、大多数の条文は原文のまま転用されている。「物権法」は約半数近く、契約法と権利侵害責任法は25%程度がそのまま転用されている。一方、民法典には廃止される法律の一部を移すだけでなく、少数の条文も他の存続する条文中に移された条文もある。例えば、民法典第340条は土地請負法第37条の規定が転用されている。

(2)民法典で現行法及び関連司法解釈と比べ「実質的改訂がない」と解釈されるのは約409条と全体の約32.5%を占める。
 「実質的改定がない」とは、表現上の修正のみで、現行法及び関連司法解釈の構成要件、法律効果などの実質的内容が変更されていないことをいう。例えば、純粋なテキストの修正、例えば「但し」を「但し是」に変更;本来の意味を変えない句読点の修正;条内の法条引用番号の修正;条文の統合;表現の修正、特に司法解釈の表現方法を法文に適用;不完全な列挙事例の補足;総則編の転用、特に契約編の中の一部の条文を総則編で転用;一部の説明的な用語に加筆;その他の非実質的な修正である。
 人格権編を除いて、各編には現行法及び司法解釈に基づいて行った実質的でない改訂が比較的多数ある。また、一部の条文には司法解釈を移した規定があり、例えば、第561条(債務者給付が全部の債務を返済するのに足りない場合の履行順序規定)は、契約法司法解釈(二)の第21条に由来する。

(3)民法典で現行法及び関連司法解釈に実質的な改訂を行ったのは約246条と全体の約19.5%を占める。
 実質的な改訂とは、現行法及び関連司法解釈の規定に対して行われた改訂が、条文の構成要件、法律効果或いはその他の内容を実質的に変更したか、或いは既存の規定の一部の内容をさらに説明する修正のことをいう。
 例えば、担保法第19条の「当事者に保証方法に対する約定がなく、或いは約定が明確でない場合、連帯責任により保証責任を負う。」が民法典第686条第2項では、「当事者が保証契約において保証方法の約定がない或いは約定が明確でない場合、一般保証に従って保証責任を負う。」と改訂された。
 更に民法典第641条(所有権留保一般規定)は、契約法第134条の留保規定に基づき、販売者の目的物にする所有権の保留が未登記であると善意の第三者に対抗できないことを明確にしている。

(4)民法典の条文で新設の条文は約148条と全体の約11.7%を占める。
 具体的には、人格権編で多くの条文が新設されており、体系的に確認する必要があろう。
 次に、契約編には相当数の条文が新らしく追加されており、主に第一部通則中の債務の責任分担と連帯責任、債権買取契約と不動産サービス契約及び事務管理(無因行為)と不当利益の規定、などである。
 また、物権編、婚姻家庭編、相続編及び権利侵害責任編には少数の条文が新たに追加されている。

一方、各編から内容を確認すると以下の通り。

総則編は10章、204条からなり、すべての条文は現行の民法総則から転用或いは改訂されたものである。このうち、183条は完全に民法総則の規定を転用し、21条は民法総則の規定を改訂したものであが、概ね、実質的開廷がない条文となっている。

物権編は5つの分編、20章、258条からなり、大部分の条文は現行の物権法から転用或いは改訂されたものである。このうち、115条は物権法或いはその他の部門規定を転用している。131条は物権法、その他の部門規定、及び物権法司法解釈一の規定を改訂したものである。また、99条は実質的でない改訂である。なお、32条は実質的な改訂であり、建築物区分所有権、抵当権、質権に集中している。そして、12条は新設で、主に居住権と用益物権に関する規定が新たに設けられた。

契約編は3つの分編、29章、526条からなり、大部分の条文は現行の契約法から転用或いは改訂されたものである。このうち、120条は完全に契約法の規定を転用している。336条は現行の契約法、担保法、共同企業法などの部門法律及び売買契約司法解釈などの関連する司法解釈の規定に基づいて改訂されている。224条は実質的でない改訂である。また、112条が実質的な改訂で、通則編、保証契約、運送契約、技術契約及び共同契約などに集中している。そして、70条は新設で、主に通則の債務の責任分担と連帯責任、不動産サービス契約及び事務管理(無因行為)と不当利益の規定、などである。

人格権編は6章、51条からなり、中国には人格権法がなかったため、この編の大部分の条項は新設条項である。このうち、8条だけが現行の民法通則、人体臓器移植条例、婚姻法の関連規定に基づいて改訂された。いずれも実質的な改訂がされており、主客体の範囲、権利の内容及び関連する法概念の定義を調整している。それ以外の43条はいずれも新設条項で、共同で人格権編を構成している。

権利侵害責任編は10章、95条からなる。この大部分は現行の権利侵害責任法、人身損害賠償司法解釈、精神損害賠償司法解釈、情報ネットワーク権利侵害司法解釈、道路交通事故司法解釈」から転用或いは改訂されたもので、一部の条項は電子商取引法の関連規定を参照している。このうち、20条は完全に現行の権利侵害責任法の規定を転用している。次に、67条が現行の権利侵害責任法、人身損害賠償司法解釈、精神損害賠償司法解釈、情報ネットワーク権利侵害司法解釈、道路交通事故司法解釈及び電子商取引法の規定に基づいて改訂されたものである。このうち、23条は実質的でない改訂である。また、44条は実質的な改訂であり、主に一般的な権利侵害責任の構成要件、被害者と過失の拡大、公正な責任範囲の制限、後見委託と不法行為責任、生態系破壊の権利侵害行為の新設、高所作業経営者の責任軽減、高危険区域管理者の高度警告義務及び証明責任、動物飼育者及び管理者の責任軽減、高空放物線防止の権利侵害責任制度、公道管理者の義務及び侵害責任である。そして、8条が新設され、主に自己賠償リスク(スポーツなどで受けたケガの非補償)、自助行為(被害者の自主的合理的な権益補償行為)、知的財産権懲罰性賠償制度、好意同乗(自動車同乗者の損害賠償軽減)、環境汚染と生態破壊の罰則・賠償制度、生態環境修復責任と侵害賠償制度が新たに追加された。

参照サイト:最高人民法院