国家知識産権局は3月29日付で「第2回知的財産権行政法執行指導事例」を発表し、各地方政府の知識産権局などに通知したことを3月31日(国知発保字〔2022〕17号)で公示した。この指導事例(6~8号)の通知は、知的財産権行政法執行業務の指導活動の一環で、知的財産権保護活動の政策の決定と整備を全面的に強化し、法執行の基準を統一し、事件処理レベルの向上、強化を目的としている。以下、概略で紹介する。
指導事例第6号:浙江省温州市知識産権局での「三次元包装機の伝動装置」の特許権侵害再犯事件
背景:2017年12月7日、瑞安市豪運機械有限会社は郭氏が実用新案特許(ZL201620913636.X)「三次元包装機の伝動装置」を侵害したと温州市知識産権局に投訴した。2018年11月12日、温州市知識産権局は郭氏に権利侵害品の生産、販売を停止するよう行政裁定で命じたが、郭氏は不服での行政訴訟を提起しなかった。2019年7月1日、瑞安市豪運機械有限会社は再び郭氏の生産販売した同類製品が同じ特許権を侵害していると投訴した。2019年9月4日、温州市知識産権局は郭氏に直ちに権利侵害行為を停止し、権利侵害品を廃棄するよう命じる行政裁定を下した。行政裁定に不服の郭氏は行政訴訟を提起したが、2020年3月24日、浙江省寧波市中級人民法院は郭氏の請求を棄却した。郭氏は最高人民法院に上訴後、取下げた。2021年2月26日、温州市知識産権局は郭氏の同一特許権被疑侵害再犯行為を立件調査し、関連の行政裁決と裁判文書に基づき、郭氏の被疑権利侵害行為は侵害再犯行為を構成すると認定した。
処罰:温州市市場監督管理局は、郭氏の侵害再犯行為は浙江省専利条例51条に規定される侵害再犯行為を構成するとして、同条例46条の規定に基づき、侵害行為の停止、罰金を科す行政処罰を命じた。
意義:現行の特許法と特許法実施細則は特許侵害再犯行為を規定していない。部門規定の特許行政法執行弁法20条は、再犯行為に対して、特許業務管理部門は請求に基づき速やかに侵害行為停止命令の決定を直接行うことができると規定している。現在、北京、天津、河北、浙江、福建、河南、湖北、広東、重慶、四川、貴州、新疆などでは地方政府の条例で再犯行為に対する行政処罰を明確に規定している。行政の裁定や裁判の判決後に被疑侵害社や被告が侵害行為を停止せずに継続したり再犯したりした場合、再犯行為の規定を適用し行政処罰を行うことができる。
指導事例第7号:山東省威海市市場監督管理局でのビール瓶回収・再利用による「青島ビール」登録商標専用権侵害事件
背景:2020年3月、青島啤酒(栄成)有限会社は威海某会社が「青島ビールTSINGTAO」登録商標専用権を侵害していると威海市市場監督管理局に投訴した。青島啤酒股份有限公司は32類の「ビール」などの商品に「青島啤酒」第1304176号と「TSINGTAO」第1351701号の商標を登録している。青島啤酒股份有限公司が生産に使用しているビール瓶のネック部分には「青島啤酒」と「TSINGTAO」の浮彫りされた文字がある。被疑侵害者は業界の慣例に従い長年に回収した古い瓶を自社のビール製品の容器として使用し、そのうち600 mlの古い瓶のネック部分に「青岛啤酒TSINGTAO」の浮彫りされた文字のある瓶が含まれているが、使用中に自社の商標と包装で販売したものの、ネック部分の「青島啤酒 TSINGTAO」の浮彫りされた文字を十分に隠しきらずに使用していた。
処罰:被疑侵害者はビールの生産販売の過程で、回収した瓶の「青島啤酒TSINGTAO」の浮彫りされた文字のある回収したビール瓶を自社のビール容器に使用し、瓶の元の紙のラベルを洗浄した後、自分の商標と包装を貼って販売したが、ビール瓶のネック部分の「青島啤酒 TSINGTAO」を十分に隠していなかった。これは関連公衆に製品の出所或いは被疑侵害者と啤酒股份有限公司との間に特定の関連があるかように誤認させやすく、「青島啤酒」、「TSINGTAO」の登録商標専用権に損害を与えたため、商標法57条1項(7)号に規定される登録商標専用権侵害行為を構成すると認定した。威海市市場監督管理局は被疑侵害者に速やか侵害行為の停止、行政処罰を命じた。
意義:本件は他人の登録商標のある容器を回収して再利用するときの登録商標専用権の保護に関する。国の資源循環利用政策と業界慣例に基づき、ガラス容器の回収再利用は許可されることであるが、法に基づき使用しなければならない。他人の容器を回収して再充填販売を行う場合、権利者の商品と同一或いは類似する商品であることが多く、容器から除去しづらい浮彫りされた文字などの標識は十分に隠さずに市場に再投入されると関連公衆に商品の出所や商品の生産者と容器に記載された商標権利者との間に特定の関係があるのでは誤認させ、登録商標権利者の合法的権益を侵害しやすいため制止と是正がされなければならない。本件では、回収した古いビール瓶を利用したビールの販売を明確に認定したが、商標の標識を有効に隠さなかった行為は商標侵害行為に属し、類似事件での認定が難しく性質的に根拠条項が明確でない問題を解決した。
指導事例第8号:上海市知的財産権局での意匠特許侵害紛争調停及び司法確認事件
背景:2020年5月25日、美克国際家庭用品股份有限公司は上海某会社が販売の申し出をした複数の製品が自社の複数の意匠特許権を侵害した疑いがあることを発見し、上海市知識産権局に行政裁決を申立てた。6月1日、上海市知識産権局は一連の事件を受理し、双方当事者の調停意思に基づき調停を主宰した。9月29日、双方当事者は特許侵害紛争行政調停協議書に署名した。10月20日、双方当事者はこの協議書について、上海知識産権法院に司法確認を申立てた。上海知識産権法院は当事者が提出した申立資料、調停協議の形式と内容について法に基づき審査し、調停協議書が有効性を確認し、一方当事者による履行拒否や部分的不履行の場合に、他方当事者は直接人民法院に強制執行を申立てることができる内容の民事裁定書を発行した。
意義:地方政府の知識産権局は政府の公信力と高い専門性を備えるため、第三者として行政調停業務を主宰し、当事者双方による和解を促進し、調停書締結に有効に機能する。しかし、調停書は性質的に民事契約に属し、強制執行力がないため、後日の当事者が調停内容の執行を拒否すれば、行政資源の浪費、行政機関の公信力の毀損、同時に権利者の権利維持コストを増加につながるのである。司法での確認手続きを経て調停書に強制執行力を与えることで執行難の問題を解決した。また、司法による確認は一審終審を確認し、保護効率を向上させ、行政保護と司法保護の有機的な連携を具体化したと言える。現在、北京、上海、福建、湖南、四川、陝西などは地方政府の条例で権利侵害紛争調停協議の司法確認制度を明確にしている。最高人民法院は多くの司法政策文書で司法確認活動の展開を奨励し、例えば2016年に発表された司法政策「人民法院が多元化紛争解決メカニズムの改革をさらに深化させることに関する意見」の中で、行政機関の調停を経て達成した民事契約の性質のある調停書について、当事者が調停組織の所在地の基層人民法院または人民法庭にその効力の確認を申立てることができることを明確に規定している。
参照サイト:https://www.cnipa.gov.cn/art/2022/3/31/art_546_174339.html