【ロシア】特許ライセンス料ゼロの法源の公示(4月4日)

ロシア知的財産庁(Rospatent)は、4月4日付、3月6日付の政令299号「発明、実用新案または意匠を無断で使用することを決定する際に特許所有者に支払われる補償額を決定するための方法論、およびその支払の手続きの第2項の改正」によるロシアの法人および個人に対し非友好的な行動をとる外国の特許権者が保有する特許権(発明、実用新案及び意匠)を使用した場合の実施料を0パーセントとする公示(当方のサイト参照)の合法性について、そのサイトで英語で説明した。

概要は以下の通りであるが、連邦民法第 4 法典第 7 編がロシア知的財産権関連法になり、民法とはその意味である。

 ロシア連邦民法1358条に基づき、発明、実用新案、工業意匠の排他的使用権は特許権者に帰属する。民法の規定によれば、権利者の同意なく特許の対象物を使用する(use)ことは可能であり、民法1360条は、ロシア連邦政府は国家の防衛と安全、国民の生命と健康の保護に関する緊急事態の場合、権利者の同意なく発明、実用新案、工業意匠の使用を決定し、その決定を速やかに権利者に通知し、適切な補償金を支払う権利を有することを規定している。この法的メカニズムは、ロシア連邦の国際協定、特にTRIPS協定(第30条)に基づくものである。
 2021年10月18日付けロシア連邦政府の政令第1767号は、政府が権利者の同意なく発明、実用新案または工業意匠を使用することを決定した場合に権利者に支払われる報酬を決定する方法と支払い手順を承認している。支払方法の第2段には、報酬は発明、実用新案又は意匠の使用権を権利者の同意なく行使したものの実際の収入の0.5%に相当すると規定している。当該レートは、関連する発明、実用新案、工業意匠を使用し生産および販売された商品、実施された成果、または提供されたサービスに基づくものである。
 2022年3月6日付ロシア連邦政府令第299号は、外国の権利者に支払われる報酬に関する支払方法を改正するもので、改正規定によると、権利者がロシアの法人または自然人に対して非友好的な行為を行った場合、当該報酬はゼロとするものである。
 現行の民法1360条に基づく特許権制限手続きは、権利者の同意なく特許の対象物を自由に使用することを意味するものではない。ロシア連邦政府は、ロシア連邦の国際協定に基づき、緊急の場合、必要な条件下で、権利者の同意なく発明、実用新案、工業意匠を使用することを決定することができる。この制度は、ロシアの法律に導入されているだけでなく、他の国でも導入されている。

上記の説明からすると、関連の法規は以下の通り(和訳は日本特許庁の関連資料より抜粋)
第1359条 発明,実用新案又は意匠に係る排他権の侵害に該当しない行為
3)緊急事態(自然災害,大惨事,事故)における発明,実用新案又は意匠の使用。ただし,特許権者に可能な限り速やかに通知され,かつ,合理的な対価が支払われることを条件とする。
第 1360 条  国家安全保障の利益のための発明,実用新案又は意匠の使用
国家安全保障の利益のために,ロシア連邦政府は特許権者の同意なく,発明,実用新案又は
意匠の使用を許可する権利を有する。但し,特許権者に対し,可能な限り早く通知され,か
つ,合理的な対価が支払われることを条件とする。

これは国が強制実施権を行使するとの意思表示であり、強制実施の対象特許が「緊急事態(自然災害,大惨事,事故)」を対象とするものであり、あらゆる技術分野に及ぶのか、その期間はどうするのか、強制実施の運用で例えゼロベースでも事前通知が国際的に標準的な対応となっているところ、ロシア政府がどのように対処するのが不明だが、国有財産化するとまでは言っていないので、その適用の通知を権利者にすることはロシア政府やRospatentの義務でなかろうか、公平に考えて。ロシアのパラドックスの矛盾の正当化には閉口するばかりなり。

本公示は英語サイトのみに掲載されており、ロシア語サイトには掲載がない。なお、ロシア語サイトでは、インターネットニュースで流されたMcDonald商標などの冒認出願事件は出願人が出願後取下げた状況説明の記事や商標出願情報の公表が現行制度での出願番号付与の時点が方式審査などの後になるために早期公表できない事情などを報じている。

参照サイト:https://rospatent.gov.ru/en/news/paper-zero-remuneration-rate