広東高級人民法院は、1月2日付、知的財産侵害刑事事件の典型事例6件を公示した。中国司法では、近年知的財産権侵害事件を刑事事件で処分することで、同様の事件に対する抑制になることを意識的に行っている傾向が見られる。今回の広東高級人民法院の公示はこうした意図があると考えられる。6件のうち1件は営業秘密侵害事件で、日本企業の絡む事件である。
事例1 顔何某氏らの登録商標詐称事件
—小米ブランドの中古テレビの部品交換後、正規品として販売し、商標詐称罪で懲役3年5か月、罰金25万元。
事例2:楊何某氏らによる著作権侵害事件
―ネット上の映画・テレビ作品2万点以上を無断でダウンロードし視聴サービスし、著作権侵害罪で1年4か月の懲役と罰金。
事例3:皮何某氏の商業秘密侵害事件
―離職した従業員による営業秘密侵害に厳罰(下記参照)
事例4:董何某氏らの登録商標詐称事件
―登録商標詐称のN95マスクの製造販売犯罪で懲役5年10か月、罰金895万元。
事例5:王何某氏の登録商標詐称商品販売事件
―アップルのAirPodsブランドの商標詐称イヤホン販売の商標詐称罪で懲役2年6か月、罰金32万元。
事例6:高何某氏の登録商標詐称商品販売事件
―ライブ配信で韓国MLBブランドの商標詐称商品販売アパレルを繰り返し、懲役3年、罰金100万元
事例3 皮何某氏の商業秘密侵害事件
【概要】
2001年10月、日本のウシオ電機の子会社である牛尾香港有限公司は広州に牛尾電機工場を設立し、主に「水銀投影ランプ」製品を生産している。2005年6月から2012年8月まで、被告の皮何某氏は牛尾電機工場の製造部、品質部のマネージャーなどの職務上の便宜を利用し、不正な手段で同工場の「水銀投影ランプ」の生産技術情報を取得した。2015年、皮何某氏は退職後、莱拓浦公司を設立し、牛尾電機工場の「水銀投影ランプ」と同じ製品を生産、販売した。2020年12月8日、公安機関は莱拓浦公司でランプの完成品、半製品、生産設備などを押収し、現場で押収した皮何某氏のノートパソコン、ハードディスクには牛尾電機工場の「水銀投影ランプ」の各重要生産技術情報と同一或いは実質的に同じ技術情報が大量に保存されていた。監査を経て、2017年1月から2019年12月にかけて、莱拓浦公司は同型製品429,737個販売し、同社の販売粗利益に基づき、権利侵害品の粗利益は7400万元強であった。
【裁判結果】
広州市白雲区人民法院は、審理を経て、牛尾電機工場の「水銀投影ランプ」の生産技術情報は鑑定により一般に知られていない技術情報に属し、牛尾電機工場は当該技術秘密に必要な秘密保持措置を採っていたと判断した。皮何某氏被告は会社の生産技術情報に対して従業員は秘密保持義務があることを知っていながら、職務上の地位を利用して不正な手段で当該技術情報を取得し、退職して莱拓浦公司を設立し、当該技術を使って同じ製品を秘密裏に生産して市場に投入し、違法所得額は特に巨大で、特に深刻な結果をもたらしたとして、営業秘密侵害罪で皮何某氏被告に懲役6年、罰金500万元を科した。広州市中級人民法院の2審は原判決を維持した。
【典型的意義】
本件は法律に基づいて営業秘密犯罪を厳罰に処した典型的な事例である。何某氏被告は在任中に巨額の利益を得ながら罪を認めず、悔改を拒否し、刑事責任が重く問われた。人民法院は知的財産権を厳格に保護し、法に基づき香港企業の広東省でのイノベーション創業を明らかに支援した。
基本的に営業秘密侵害事件は刑事事件として取り扱うのが普通であるが、このような厳しい懲役と罰金には注目できる事件である。
参照サイト:http://www.legaldaily.com.cn/index/content/2023-01/03/content_8812598.htm
(広州高級人民法院には掲載なし)