【中国】北京法院2022年知的財産権10大事例と商標登録行政10大事例(4月25日)

北京高級人民法院は、4月25日に記者会見を行い、北京法院の2022年知的財産権10大事例と商標登録行政10大事例を発表した。2022年に北京市の裁判所が受理した知的財産権にまつわる民事と行政訴訟事件は72,778件、審理が終結した事件は74,506件である。その終結事件の知的財産権民事事件は51,458件、行政事件23,048件であった。新しい産業で新しい業態やビジネスモデルの出現が知的財産権に対する司法での保護により高いレベルの要求が求められており、今回選定された事例は関連公衆に対する司法保護、新しい知的財産権客体の保護、新しい市場競争行為の規範化など最前線の問題を取り上げている。今回、初めて商標登録行政事件を発表することで、正常な商標登録管理や公平な競争秩序の維持を意図したようである。こうしたことを受けて、北京高級人民法院は2022年に商標却下再審行政事件審判チームを設立し、商標再審行政事件の二審の平均処理期間を35日まで短縮している。また、一審の北京知識産権法院も処理期間短縮のために事件の90%に電子送達、20%に簡易手続きを導入している。

●2022年度知的財産権10大事例

事例1.「ED-71製剤」発明特許侵害事件 (2022)最高法知民终905号、(2021)京73 民初1438 号
 中外製薬株式会社vs温州海鹤药业有限公司
 【2020年特許法改正で導入された医薬品特許リンケージ制度導入後の最初の事件、裁判所は対象特許ZL2005800098777.6の保護範囲に係争ジェネリック医薬品が入らないと確認。上訴棄却。最高人民法院も10大事例に選出。】

事例2.音楽著作権使用許諾契約紛争事件 (2021)京民终929号、(2018)京73民初904号
 中国音像著作权集体管理协会vs天合文化集团有限公司ほか多数
 【AV著作権管理協会は被告にカラオケ事業者からの著作料徴収業務を委託したが、被告と被告が設立した子会社に違約行為や横領が発生し、契約解除と損害賠償を請求し提訴、裁判所は事実確認、全体で9,900万元の損害賠償命令。控訴棄却。】

事例3.“Merck”商標権侵害及び不正競争事件 (2021)京73民终1625号、(2018)京0105民初73620号
 Merck KGAA(默克股份两合公司)vs MSD Animal Health Products Shanghai(默沙东动物保健品(上海)有限公司)
 【ドイツのMerck社とアメリカのMSD社は長い関係にあり、1970年代にMerck商標の全世界での使用に合意し、中国はMerck社に帰属し、5類や44類などに登録商標を保有している。MSD社は中国で動物用耳洗浄剤をMerckブランドで販売し、従業員のメールアドレスのドメイン名も@merck.comであることから、不正競争と商標権侵害で提訴された。消費者に誤認混同を惹起させ、会社名の無断使用となることを認定し、侵害行為の停止、65万元の損害賠償を命令。控訴棄却。】

事例4.“无障碍电影(障害のないAV)”APP情報ネットワーク送信権侵害事件 (2021)京73民终2496号、(2020)京0491民初14935号
 北京爱奇艺科技有限公司vs上海俏佳人文化传媒有限公司
 【「我不是潘金(私は潘金蓮ではない)」映画作品の独占的情報ネットワーク送信権を有する原告が被告の運営する“无障碍影视(障害のないAV)”APPがネット放送することは権利侵害と提訴し、裁判所は適切な検証プロセスを経ていないと侵害認定し、侵害停止と1万元の賠償命令。二審では著作権法24条1項12号の例外規定の「視覚障害者が知覚できる障害のない方法」の条件を満足していないと侵害認定し、侵害行為の停止、1万元の損害賠償を命令。控訴棄却】

事例5.虚偽SNSユーザーインターフェース不正競争事件 (2021)京73 民终2963 号、(2020)京0108 民初8661 号
 深圳市腾讯计算机系统有限公司(テンセント)vs郴州七啸网络科技有限公司ほか
 【原告の運営するWeChatなどのインターフェースのテンプレートや素材などをコピーしユーザーに偽造、不正行為のツールとして不正に提供していると提訴し、裁判所は信義誠実の原則や商業道徳に違反する「黒灰産(ブラックマーケット、ネット詐欺)」行為と認定し、528万元の損害賠償を命令。控訴棄却。最高人民法院も10大事例に選出。】

事例6.“聚丰园(聚豊園)”商標無効宣告行政事件 (2022)京行终3410号
 无锡市聚丰园大酒店有限责任公司vs国家知識産権局、第三者:无锡产业发展集团有限公司
 【「聚丰园」は清朝時代からレストランやホテル事業での知名ないわゆる老字号(老舗)商標であるが不使用などで無権状況になり、元経営者が無断で商標登録したために、継承会社の商標法15条1項(会社代表者の自己名義での出願は無効)に基づく無効宣告の申立てを受けて、無効審決。行政不服訴訟一審は、係争商標が既に登録になっていることから同条の適用を否定、代理代表権の立証も不十分として審決取消、差戻判決。控訴審では代理代表権の存在を認定するとともに、主観的悪意の存在の場合、同条が適用できると裁定。】

事例7.“百灵鸟QQ 营销(ヒバリQQマーケティング)”不正競争事件 (2019)京0107民初23101号
 深圳市腾讯计算机系统有限公司(テンセント)ほかvs北京任网行科技有限公司ほか
 【原告のQQシリーズはSNSプラットフォームとして高い評価を受けており、9類、42類に登録商標を保有している。被告サイトはQQシリーズソフトウェアのダウンロード、ユーザー情報の取得と利用など可能なサービスを提供しているため、商標権侵害と不正競争で提訴。裁判所は誤認混同惹起で商標権侵害、技術的手段を利用した原告の技術保護措置の破壊、情報収集は正常な事業の運行秩序を阻害し、権益を害したと(反不正当競争法12条2項4号)認定し、侵害停止、影響除去、296万元の損害賠償を命令。】

事例8.“古北水镇”不正競争事件 (2021)京73民终4553号、(2020)京0101民初6263号
 北京古北水镇旅游有限公司vs北京小壕科技有限公司
 【原告は観光及び飲食サービスを提供し、社名やその酒類の販売では一定の知名度があるところ、被告は同地域に法人登記し、「古北水镇」を33類、25類に商標登録するとともに、原告に当該商標の使用停止を行政投訴などにより使用停止を要求した。原告は当該商標の無効宣告に成功するとともに、当該社名の知名度や商標未登録を知りながら権利行使をしたとして不正競争で提訴。裁判所は、商号の一定の知名度、先の権利、被告の回避義務、及び原告の権益損害、信義誠実の原則違反(反不正当競争法2条)を認定し、31.5万元の損害賠償を命令。控訴棄却。】

事例9.“冒名顶替(なりすまし)”による営業秘密侵害事件 (2021)京73民终3593号、(2021)京0102民初6218号
 北京心果科技有限公司vs解某氏、万源汇康科技(北京)有限公司
 【元従業員は担当した顧客のプロジェクトが中止されると報告し、退職後に、友人と共同経営する会社を関係会社と顧客に虚偽報告し同プロジェクトを受託契約した。原告は特定顧客情報の開示と使用は営業秘密侵害にあたるとして提訴、裁判所は原告の主張する当該プロジェクトの契約内容や顧客情報は営業秘密に属し、連帯被告は営業秘密と知り得る立場にあると認定し、不正競争行為の停止、影響の除去、355万元の損害賠償を命令。控訴棄却。】

事例10.“冬奥会吉祥物(冬季五輪マスコット)”著作権侵害刑事事件 (2022)京0106 刑初86 号
 北京市丰台区人民检察院vs任某
 【被告は、北京2022年冬季五輪と冬パラリンピック組織委員会の保有するマスコットキャラクターの美術作品の著作権を侵害する人形を自作し、期間中にネットショップを通じ販売し6万元余り売上げ、北京市公安局豊台支局六里橋派出所に逮捕された。刑事一審で被告は自発的に犯罪事実などを供述したことから刑法217条1項に基づき、処罰を懲役1年罰金4万元に軽減、在庫や製造素材を没収廃棄。】

商標登録行政10大事例
事例1:“新浪大眼睛” 第10665413号図形商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终4207号、(2021)京73行初9626号 悪意出願典型事例
事例2:“梅赛德斯” 第25239475号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终4971号、(2021)京73行初2430号 悪意先取出願典型事例
事例3:“新神榜 杨戬” 第53131550号商標出願却下再審行政訴訟事件 (2022)京行终6309号、(2022)京73行初4131号 烈士名商標保護典型事例
事例4:“哔哩哔哩BILIBILI” 第26264549号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终2944号、(2021)京73行初12721号 インターネット馳名商標認定典型事例
事例5:“百威” 第11381396号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终4298号、(2021)京73行初13816号 馳名商標悪意先取登録無効典型事例
事例6:“宅电舍” 第14076256号商標無効宣告行政訴訟事件 (2021)京行终9516号、(2021)京73行初5825号 商標代理人による不正登録典型事例
事例7:“永安堂” 第12017052号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终1884号、(2021)京73行初3940号 “老字号”(老舗)商号の善意の先使用と共存の典型事例
事例8:“鞋面缝线” 第31447132号立体商標出願却下再審行政訴訟事件 (2021)京行终5797号、(2020)京73行初14440号 靴の位置商標の識別力判断の典型事例
事例9:“晨光笔” 第36939797号立体商標出願却下再審行政訴訟事件 (2021)京行终8370号、(2021)京73行初2129号 立体商標の機能性判断典型的な事例
事例10:“千页豆腐” 第9943225号商標取消再審請求行政訴訟事件 (2022)京行终51号、(2020)京73行初18107号 登録商標の希釈化(一般名称化)判断の典型事例

参照サイト:https://bjgy.bjcourt.gov.cn/article/detail/2023/04/id/7262200.shtml