9月11日から15日は、2023年中国公正競争政策広報週間で、今年のテーマは「未来に向けた大市場と公正競争の統一」である。この間、最高人民法院は9月14日付け、「2023年人民法院での独占禁止・不正競争防止訴訟典型事例」として、独占禁止事件5件、不正競争事件5件の都合10件を公表した。事件の対象はいずれも人々の生活に密接な関係があるもので、代表的な独占禁止事件には3件の市場での支配的地位の濫用と2件は価格統制が、不正競争行為には誤認混同、虚偽情報、営業秘密侵害が含まれている。
1.「クエン酸デスロラタジン(枸地氯雷他定)」原薬特許市場優越的地位濫用紛争事件 【(2020)高法知民終1140号】揚子江薬業集団有限公司ほかvs合肥医工医薬股份有限公司ほか
原薬企業の保有する特許権行使とコスト高騰による値上げに対して、抗ヒスタミン薬メーカーが競争力低下などについて優越的(中国では支配的という)地位の濫用と主張した事件で、特許の正当利用、濫用の立証不足を認定し、知的財産権保護と独占禁止の関係を適切に処理した。
2.「基本葬祭サービス」取引拒否優越的地位濫用紛争事件【(2021)最高法知民終242号】泉州鯉城立升葬儀服務有限公司vs泉州市集英葬儀服務有限公司
葬儀仲介サービスを事業とする会社が火葬を事業とする公的会社の違法な料金徴収を告発したことを契機に取引を拒否したために、利用者が火葬できなくなったとして、取引拒否行為を濫用行為と主張し、第二審で濫用行為と認定及び取引再開と損害賠償を命じた。
3.「通用汽車(General Motor)」垂直的独占協定民事賠償事件【(2020)最高法知民終1137号】繆氏vs上海逸隆汽車販売有限公司、上汽通用汽車販売有限公司
2016年、上海市物価局は2014年GMには上海地区ディーラーとの第三者向け最低価格独占協定があったことを認定し、4%の罰金を科した。これを受けて、原告は2014年に被告からの車両購入はその対象として販売価格の差額と合理的費用の賠償を請求。第二審は比較的簡単な立証証拠による責任分担及び原告の請求すべてに賠償責任を認定した。
4.「事業用コンクリート連合経営」独占禁止行政処罰事件【(2023)最高法知行終29号】重慶江都建材有限公司と重慶市市場監督管理局
原告は重慶市豊都県に2社しかない事業用コンクリート生産会社の1つであり、市場監督管理局は両社が2019年に価格維持や市場分割の合意をしていたとして、独占禁止法違反として処罰した。原告は不服で控訴したが、水平的独占協定の典型と棄却した。
5.「バトロキソビン(巴曲酶)」原薬取引拒否市場優越的地位濫用紛争管轄権異議事件【(2022)京73民初1136号】北京托畢西薬業有限公司vs先声薬業集団有限公司ほか
抗血栓性末梢循環改善剤バトロキソビンの100%のシェアを占める被告が原告との取引を拒否したことを国家市場監督管理総局が独占行為と認定した後、原告は被告と売買契約を締結したものの履行が拒否されたために市場優越的地位濫用行為として、北京知識産権法院に提訴した。被告は、ことに対し管轄異議を申立てた。一審、二審とも取引拒否による直接的結果が発生した場所、つまり原告の製造地(北京)が管轄地となると認定した。
6.「シーメンス」商標権侵害・不正競争紛糾事件【(2022)最高法民終312号】シーメンス(西門子)AGほかvs寧波奇帥電器有限公司ほか
被告らがその洗濯機製品とその外装、宣伝活動で「上海西门子电器有限公司」を使用し、製造販売した行為に対し、原告らは商標権侵害及び不正当競争行為として提訴、損害賠償請求した事件で、一審二審とも原告の主張を支持するとともに、被告が財務情報提供を拒否したため、メディア報道の総売上を根拠に一定割合で算出した額が法廷賠償額を上回るとして、原告請求の1億元の損害賠償を支持した。
7.「光励起化学発光分析システム用万能液」営業秘密侵害紛争事件【(2020)最高法知民終1889号】科美博陽診断技術(上海)有限公司vs程氏、成都愛興生物科学技術有限公司
原告の元従業員の程氏は被告の会社に入社後、当該技術秘密を開示し、同技術を利用した体外受精キットを製造販売し、原告は営業秘密侵害として提訴、一審は侵害停止と損害賠償請を命じた、二審では権利者の技術秘密が公衆に知られていない技術規程、品質制御基準などの技術文書から合理的に抽出され、一般に知られ、容易に入手できない限り、技術秘密として保護することなど技術秘密の認定方法を明確にし、一審判決を確認した。
8.「刷宝アプリ」不正競争紛争事件【(2021)京73民終1011号】北京微播視界科学技術有限公司vs北京創鋭文化伝媒有限公司
被告は、原告の運営する抖音(Douyin)アプリから5万件以上のビデオファイル、1万件以上のユーザー情報及び127 件のコメントを無断で入手し、自社の刷宝APPを通じて一般に提供したため、原告は当該データ取込みが不正競争行為に該当すると提訴し、裁判所は非独創的なデータ集合の法的性質を明確にし、著作権法での保護対象と不正競争防止法での法的対象を明確に区別し、プラットフォーム事業者がデータを収集、記憶、加工、伝送することにより形成される合法的権益を不正競争防止法の観点から保護した。
9.「代行訓練アプリ」不正競争紛争事件【(2022)上海0115民初13290号】騰訊科技 (成都) 有限公司ほかvs佛山市南海区北笙網絡科技有限責任公司
原告のオンラインアプリ「王者栄光」は利用者の実名登録、未成年者の利用制限と第三者に提供し代行などの商業的使用を禁止するゲームであるところ、被告が運営する「代行訓練アプリ」では、そのプラットフォームで未成年者を含む利用者にゲームの代行利用機会を提供することで一定の収益を上げており、原告は不正競争行為として提訴、裁判所はその主張を支持し、差止と損賠償を命じた。
10.「さくら行為」による商標権侵害及び不正競争紛争事件【(2022)広東0309民初2585号】上海漢濤情報諮問有限公司vs伍氏
原告の運営する「大衆点評網」は利用者に地元の店舗情報、消費の評価及び優待などの生活情報と取引サービスのプラットフォームで、被告の伍氏が虚偽取引、虚偽評価などの方法で自社の採点やランクを向上させた行為をさくら行為(刷単炒信)であるとして、商標権侵害及び不正競争行為で提訴、裁判所は虚偽宣伝の不正競争行為と認定し、差止と損害賠償を命じた。
参照サイト:https://www.chinacourt.org/article/detail/2023/09/id/7532109.shtml