【中国】上海市営業秘密侵害十大典型事例(9月3日)

上海市場監督管理局は、9月3日付、昨年に続き2023年度の営業秘密侵害にかかる十大典型事例を発表した。すべて元従業員による犯罪であり、不正競争防止法の適用であるが、特に、9番目は外国への情報漏洩を刑法に新設された条項で処罰した事例である。また、10番目は行政、刑事、民事のセットの事件として注目される。その概要は以下の通り:

事例1:中某半導体設備(上海)股份有限公司vs科某研究開発股份公司などの営業秘密侵害事件
(上海市高級人民法院(2017)沪民终169号)
原告のプリモD-RIE誘電体エッチング設備にかかる営業秘密侵害で、当事者の秘密保持期間満了後も一般に開示されていない技術は営業秘密であり、不正な手段で技術秘密を獲得、使用した場合、侵害の停止、損害賠償などの責任を負わなければならないとして、使用禁止と損賠賠償を命じた。

事例2:容某実業(上海)有限公司vs吴某氏らの営業秘密侵害事件
(上海市徐汇区人民法院)
原告は金属材料の輸出入会社で、被告は元従業員でビジネス情報である外国顧客対応を5年間担当し、退職時に顧客情報を獲得し自らの事業に違法に利用した。原告が損害を立証できないところ、裁判所が税関に開示請求を行い、1500万ドル位以上の取引を確認し、侵害停止と損害賠償を命じた。審理の必要に応じて裁判所が立証責任を合理的に担当し、侵害停止と損害賠償を命じた。

事例3:蔡某氏の営業秘密侵害事件
(上海市楊浦区人民検察院)
耐某実業(上海)有限公司が秘密管理する商品(シューズ)の価格と在庫情報にかかるビジネス情報を従業員がダウンロードしていることを知った被告はその情報を入手し、自らのWeChat「ディスカウントストアの商品一掃」で会員に提供した。検察は新業態における営業秘密侵害での隠蔽された手段、複雑な証拠収集、営業情報や営業秘密の特定方法などの侵害立証に積極的に対応し、処罰した。

事例4:陸某X氏、陸某Y氏の営業秘密侵害事件
(上海市虹口区人民検察院)
被告らは元勤務先の上海某信息科技有限公司が開発し秘密保持措置を採っていた「ドラゴンボール伝奇」ゲームのアプリケーションコードを使用し、自ら設立した上海某網絡科技有限公司で「ドラゴンボールZ戦士」ゲームを開発し、オンラインで運営した。検察は、ゲームソフトコードを営業秘密の対象と認定し、違法所得に基づき処罰した。

事例5:青島信某高新材料有限公司、金某氏らの営業秘密侵害事件
(上海市人民検察院第三分院)
被告らは上海邁某貿易有限公司に勤務中に青島信某高新材料有限公司を設立し、秘密保持義務に違反し、青島信某社の技術情報を利用して有機ケイ素化合物を製造販売した。検察は、難易度の高い化学工業分野で、「技術情報+製品効果」や「データの新規調査+研究開発証拠」などの手法を用いて、被告人のリバースエンジニアリングの抗弁を排除し、処罰した。

事例6:徐某氏、上海恒某建築工程有限公司らの営業秘密侵害事件
(普陀区市場監督管理局)
徐氏は、勤務先の建設会社の仕入部長でありながら秘密保持義務に違反し、入札時に入札予定価格などに加えて関係図面などを応札会社3社に無断で開示し、応札会社は取得した営業秘密を事業に使用していたことが判明し、当局は侵害当事者に罰金の処罰を科した。こうした隠ぺいし易く検証が難しい事件を当事者の関係文書のハッシュ値の検証などの方法で立証に成功している。

事例7:高某(上海)工業設備有限公司の商業秘密侵害事件
(奉賢区市場監督管理局)
退職した会社で生産監督であった呉某氏が高某(上海)工業設備有限公司を設立し、前職で取得したファンの図面で影響のない一部の部品を修正し、当該ファンの生産を外注していた。当局は外注の電子メール、送信図面などの証拠の固定、鑑定機構により図面は実質的に同一との判断とともに当該図面は営業秘密との認定し、罰金の処罰を科した。

事例8:上海涵某工程技術有限公司の商業秘密侵害事件
(金山区市場監督管理局)
退職した会社でセールスマネージャーであった陳某氏は、退職時に技術情報などのバックアップファイルを削除せず、上海涵某社に就職し、製品の研究開発や設計などを担当した時に、顧客のプロジェクトに退職した会社の製品図面の社名を変更するだけでそのまま転用するなど、秘密保持義務に違反し、当該会社も知りうる立場でありながら事業に従事させたことから、当局は違法所得の没収、罰金の処罰を科した。

事例9:鄭氏の国外への商業秘密提供事件
(上海市浦東新区人民検察院、上海市浦東新区人民法院)
被告の陳某氏は中国企業のエンジニアであったが、コンサルティング仲介会社のハンティングを受け専門コンサルタントに就任した。その後、外資系コンサルティング会社から電話インタビューをうけ、勤務していた会社との秘密保持義務に違反し、研究開発、生産計画、生産能力などの営業秘密を当該外資系コンサルティング会社を通じて、外国企業やその人員に提供し利益を受けたとして、刑法に新設された第2119条の1つ海外に商業秘密不法提供罪に基づき、禁固と罰金の懲罰が科された。

事例10:上海堃某知能設備有限公司などの商業秘密侵害事件
(上海市松江区市場監督管理局、上海市松江区人民検察院、上海市人民検察院第三分院、上海市普陀区人民法院、上海市第三中級人民法院、上海知識産権法院)
被告の李某氏は豪某機械(上海)有限公司に機械エンジニアとして入社後、第三者と共同で上海堃某知能設備有限公司を設立し、総経理に就任した。その後、前職時の秘密保持義務に違反し、勤務時に入手した「HOMGシーリングマシン」の技術情報と図面を利用し、シーリングマシンを外注で生産販売したことから、当局は違法行為の差止と罰金の処罰を科した。これに不服の李氏は行政訴訟を提起したが棄却された。一方、検察は営業秘密侵害罪で違法所得の没収、侵害品や製造機器などの没収、禁固と罰金が命じられ、二審に上訴したが請求棄却された。一方、豪某機械社は営業秘密侵害による損害賠償を請求し、請求した損害賠償全額が認められた。行政、刑事、民事のフルセットの事例として注目される。

参照サイト:https://scjgj.sh.gov.cn/1073/20240903/2c984a72918c23f10191b6cabd9b4c7d.html