広州知識産権法院は、9月26日、データの権益に関する知的財産権保護典型事例を公示した。主に不正競争、著作権などに関連し、同法院がデータの権益保護規則を模索し、市場主体の行為の境界を効果的に明確化し、データ産業の健全かつ秩序ある発展を支援するとしている。
今回発表された典型事例は6例で、異なるタイプのデータ権利帰属規則などのデータ権利保護の中核的問題及び不適切なデータの取得、不適切な使用、妨害、データ汚染行為など、さまざまな権利侵害の形態に関している。
事例1:中国初のビッグデータ移行ソフト不正競争事件
=公開データ権益帰属及び不正データ利用行為の認定
【事件番号】(2021)粤0192民初1692号/(2023)粤73民終995号
【当事者】浙江天猫網絡有限公司、浙江淘宝網絡有限公司vs广州鋭微信息科技有限公司など
【事件概要】被告の鋭微社は「舗貨易」「代銷易」ソフトを開発運営し、権限レベルやサービス周期に基づき拼多多(Pinduoduo)サービス市場内で宣伝販売することができるもので、事業者は「舗貨易」を利用し、天猫(Tmallや淘宝(Taobao)プラットフォームの商品データを転送し運営でき、拼多多ユーザーが注文後、「代銷易」により天猫や淘宝に発注を無断で同期させ、天猫や淘宝上の事業者が拼多多ユーザー出荷する、言わば「発送業務のない店舗」ビジネスモデルを形成した。原告の天猫社と淘宝社は、当該転送ソフトの不法入手、プラットフォームデータの使用によるネットワーク権利侵害及び不正競争行為に対し、権利侵害停止、損害賠償などを請求した。
広州互联网(インターネット)法院は、商品データはECサービス提供の基本要素であり、原告はECサイト事業者として法律と契約に基づき商品データを収集、処理し、資金、技術、人的資源投入から維持管理支出のみならず、ECサイト内の商品データを派生的に利用、開発する権利があり、権利主張できると認定した。被訴行為は原告の商品データを無断で事業活動に利用し、合法的権益を損ない、代替EC運営により関係当事者にリスクを増加させるだけでなく消費者の個人情報の権益の侵害し、被訴ソフトがECサイト運営者のかけている制限を無視し、不正な競争上の優位となる技術支援をすることは信義誠実の原則に違反するとして、被告に50万元(合理的支出含む)の損害賠償の支払いを命じた。
【意義】本件は中国初のECプラットフォーム商品データ不正競争事件で、データの合法性、データ運営への投資及び競争上の利益の3つ面からEC事業者に運営する商品データの権益があることを認定し、被訴行為が競争秩序を乱し、他の事業者と消費者の合法的権益を毀損するため、不正競争防止法第2条に規定する不正競争行為を認定した。
事例2:「公衆番号アシスタント」データによる不正競争事件
=データ取込みによる不正競争行為の判定基準
【事件番号】(2020)粤0106民初13325号、(2021)粤73民終4453号
【当事者】原告:深圳市騰訊計算機系統有限公司、 被告: 広州市珍分奪秒信息科技有限公司
【事件概要】原告の騰訊(テンセント)社は、微信WeChatプラットフォームの事業者であり、WeChatパブリックアカウントのユーザー、パスワードを管理している。被告の珍分社は、「公衆号助手(パブリックアシスタントアシスタント)」を開発し、インストールするとWeChatのユーザーアカウント、パスワードを取得し、利用サーバに提供する。原告は、当該ソフトが技術手段を利用し、WeChatユーザーのアカウントとパスワードデータを取得して保存し、不確定なリスク環境に置くことで、WeChatの正常な運営秩序、データセキュリティ、ユーザー権益を損なうとして、データ収集行為停止、損害賠償を請求した。一審は原告の主張を認め、被疑行為が商標権侵害及び不正競争を構成すると認定し、権利侵害停止、損害賠償300万元などの支払いを命じた。被告は控訴した。
二審の広州知識産権法院は被告は原告の商標と類似する商標やソツフトウェアの名称や宣伝用語などを用いてWeChatユーザーに被訴侵害ソフトウェアを2623万回以上ダウンロードさせた行為は商標権侵害、ユーザーアカウントとパスワードを取得してサーバに提供する行為は正当性のないデータ処理行為で不正競争行為と認定し、一審の判決を維持した。
【意義】本件はインターネットデータによる不正競争行為の典型的な例で、技術的手段により大量のユーザーアカウント、パスワード情報を取得する行為がユーザーデータの安全性を危険に晒すデータセキュリティ類のインターネット不正競争行為を構成することを認定した。
事例3:プラットフォームのアルゴリズムにより配信されたコンテンツ提供者の著作権侵害事件
=プラットフォーム事業者のアルゴリズムモデルに基づく権利侵害幇助責任を認定
【事件番号】(2021)広東73民終5651号
【当事者】原告:広州加塩文化伝播有限公司、被告:北京字節跳動科技有限公司、悠久伝媒(北京)有限責任公司
【事件概要】被告の字節社は今日頭条プラットフォームの運営者で、その“トップページ/科学技術”にRSSアクセス同期技術を用いて被告の悠久社の運営する科学普及ネットワークにテキスト分類アルゴリズムを用いてアクセスし、2020年1月31日に「17 年前、アリババの従業員全員が隔離され、ジャック・マーは SARS からどう生き残ったか?」の記事を掲載した。記事には悠久社の運営する“科学技術生活速報”由来が示され、悠久社の記事には“出典:何加塩”が表記されていた。原告の加塩社は、WeChatアカウント「何加塩」の使用者であり、前述の記事の著作権者で、被告を情報ネットワーク伝播権侵害で提訴した。一審は被告が合理的注意義務を果たしていないとして、2000元の損害賠償を命じた。原告は控訴した。
二審の広州知識産権法院は、字節社はプラットフォーム運営者であり、コンテンツを配信する上での管理者であり、権利侵害予防に必要な技術措置を講じる条件と情報管理能力があり、技術措置をとる義務があるにもかかわらず必要な技術措置を講じていないため、提供するネットワークサービスの性質、方式、管理情報能力、利益分配モデル及び権利侵害停止措置などの要素に基づき、相応の権利侵害幇助の責任を負わなければならないと認定し、一審判決を維持した。
【意義】本件はアルゴリズムモデルを利用した侵害幇助に対するプラットフォーム事業者の権利侵害責任の認定に関するもので、法律規定、アルゴリズムツール、利益モデル、公共の利益の4つの側面を結びつけ、データ要素の使用および収益活動における正当な前提条件と必要な技術的措置の義務を合理的に分析し、アルゴリズムツールの運用がプラットフォーム事業者の免責事由になるかどうかを明らかにしており、インターネット情報市場を正常化する積極的な意義がある。
ケース4:ゲームコインの不正提供とゲームアカウント取引不正競争事件
=仮想財産権益の不正競争保護の認定
【事件番号】(2022)広東73民終3597号
【当事者】原告:深圳市騰訊計算機系統有限公司、被告:鄭州市易晟信息技術有限公司
【事件概要】原告の騰訊(テンセント)社は、係争ゲーム「地下城与勇士(Dungeon & Fighter、日本では「アラド戦記」)のライセンシーでゲーム運営に関する権利者であり、被告の易晟社はプラットフォームUU898でゲームプレイヤーに当該ゲームのゲームアカウント取引、ゲームコイン取引を提供し、当該ゲームのロゴ、キャラクターとツールなどの要素を使用し関連宣伝を行っていたため、上述の行為がそのネットワーク情報伝播権侵害及び不正競争を侵害行為として、広州インターネット法院に起訴した。その後、被告が権利侵害停止と賠償、原告が訴訟取下で和解した。しかし、被告は当該ゲームアカウントとゲームコインの取引サービスを提供し続けたために、一審法院は、ゲームアカウント取引サービスの提供停止、合法的出所を証明できないゲームコインの取引サービスの提供停止、300万元の損害と3万元の合理的支出の賠償を命じた。
二審の広州知識産権法院は、被告のサービス提供が不正競争を構成するか否かを争点とし、①ユーザーにゲームアカウントを自由に取引する権利のない取引サービス提供は不正当であり、②ユーザーが違法或いは不正に取得したゲームコインであっても原告が取引サービスを提供しなければならないのは不正当であるとして、不正競争を構成すると認定し、控訴を棄却、原判決を維持した。
【意義】本件は仮想財産の権益の具体的な保護ルートに関する。中国の民法典はサイバー仮想財産の財産属性を定めているが、その保護のための具体的法律規定がない。インターネットプラットフォームはサービス契約を通じ自律的であり、健全な事業環境を形成する上で重要な役割を果たしているので、サービス契約違反、プラグインなどを利用したコンピュータプログラムの破壊などの不法行為はプラットフォーム事業者と消費者の権益を損なうだけでなく、インターネット競争秩序と仮想財産の事業の健全な発展の現実に障害をもたらすことになる。本件は新しいタイプの権益管理ルートを効果的に模索し、良好なネットワーク仮想財産事業環境の形成に役立ち、デジタル経済の健全な発展に資する。
ケース5:ネットショップがユーザーに虚偽の実名認証サービスを提供した不正競争事件
=虚偽実名認証の違法性認定
【事件番号】(2022)広東73民終2619号
【当事者】原告:広州虎牙信息科技有限公司、被告:陳某氏、上海尋夢信息技術有限公司
【事件と裁判】原告の虎牙社は虎牙ライブ中継サイトの運営者であり、「虎牙ユーザーサービス契約」「虎牙プラットフォームキャスタースタート契約」などでそのアカウントの身分情報の真実性、合法性、正確性及びキャスターの実名身分認証を要件とし、さらに「インターネットライブ中継サービス管理規定」もインターネッライブ中継サービス提供者にキャスターの実名情報の審査を義務付けられているため、ユーザーに虚偽の実名認証サービスを提供するために「虎牙直播開通」製品を宣伝販売するために拼多多(Pinduoduo)プラットフォームに「網絡好服務」ネットショップをオープンした陳氏の行為は不当競争に当たると主張し、被告にネットショップの閉鎖と損害賠償を命じるよう提訴した。一審は被疑行為が不正競争と認定したが、被疑侵害リンクがすでに撤去され証拠がないため、陳某氏に経済損失と合理的支出の合計8万元賠償のみを命じた。原告は控訴し、陳某氏にネットショップの閉鎖、尋夢社に当該店舗のアカウント抹消を請求した。
二審の広州知識産権法院は、①被訴ショップの様々な商品リンクがそれぞれのライブ中継プラットフォーム上で虚偽実名認証サービスを示していること、②尋夢社は何度も権利侵害販売リンクの掲載を禁止したが、二審での証拠で被訴ショップが依然として虚偽実名認証サービスを提供していること、③虚偽実名認証サービスは拼多多プラットフォームで禁止されており、拼多多プラットフォームの管理規則に違反していないショップもあること、④尋夢社は侵害防止に必要な措置を講じなかったこと、以上に基づき原告の請求を指示する判断を下した。
【意義】本件はインターネットライブ中継分野で初めての虚偽実名認証サービス不正競争事件で、キャスターの虚偽実名認証の不正にショップ閉鎖で責任を負わせる判決を下した。インターネットライブ中継業界の急速な発展とその派生的な経済成長に対応する法規制の遅れが行政の監督管理だけに依存し、技術的な問題などの監督管理の難しさがあり、業界自治と自律が必要な状況で本判決はネットライブ中継分野での健全な事業構築に重要なサンプルとなる。
ケース6:「微信管家(WeChat Butler)」のビジネスマーケティング妨害不正競争事件
=データ妨害行為の不正競争認定基準
【事件番号】(2019)粤0106民初38290号、(2021)広東73民終153号
【当事者】原告:騰訊科技(深圳)有限公司、深圳市騰訊計算機系統有限公司、被告:厦門朕絡易科技有限公司、広州登堂通信科技有限公司
【事件概要】原告の騰訊(テンセント)社は「WeChat」の著作権者で関連会社に独占的運営を許諾している。被告の登堂社はその「OK微信管理网站」サイトで朕絡社が開発したWeChat連携管理システムソフトウェアを宣伝、販売しており、当該ソフトウェアはWeChatサーバーとデータ交換し、ユーザー情報、チャット内容などの各種プライバシーデータを取得し、顧客データ入力、データ管理、補助的なブランドマーケティンなどのサービス機能を提供している。当該ソフトウェアはバージョンごとに980~5,980元で2019年4月の利用企業数は2万社超える宣伝されていた。原告は不正競争行為停止、影響除去の謝罪声明、損害1000万元と合理的支出45万元の支払いを求めて提訴し、一審は被告の行為を不正競争と認定し、被告に権利侵害停止、謝罪による影響の除去と損害賠償など360万元の支払いを命じた。当事者は控訴した。
二審の広州知識産権法院は、高い知名度と広範な市場影響力のあるWeChatの商標とドメイン名を無断で使用し、開発したソフトウェアはWeChatサービスの安全性と完全性を毀損、正常な運行秩序を妨害し、一般公衆の情報データの安全性とプライバシーを著しく侵害し、明らかに悪質で権利侵害での利益が巨額と認定した。朕絡社の支払う賠償額を1000万元とし、登堂社がその内の300万元を連帯して支払うよう命じた。
【意義】本件の争点は「微信管家」でのデータ妨害行為が不正競争行為になるかどうかの判断であり、WeChatプラットフォームの正常な運行と多くのデータセキュリティにリスク生じさせ、消費者の利益と競争秩序を損ない、不正競争になると認定し、悪意のある権利侵害などの重大な権利侵害行為に対しる処罰、賠償額と合理的負担を明確にした。なお、広東・香港・澳門湾区のビジネス環境を最適化することに積極的な意義があるとしている。