最高人民法院は、4月21日の記者会見での一連の発表において、2024年の人民法院での典型的な知的財産権事件8件を発表した。この典型事件には、特許、商標、著作権、不正競争防止、営業秘密などが含まれ、バイオメディカル、AI技術、オンラインゲームなどに関係し、関連する判断規則を明確にしている。
2024年中国人民法院知的財産権典型事件
1.「mRNA変形性関節症治療薬」発明特許権帰属事件
深圳市臻某医療科技有限公司vs深圳瑞某生物科技有限公司、胡某 (2023)最高法知民终871号
生物医薬分野の最先端技術の帰国科学研究者が共同で設立した会社から独立した研究者が設立した会社で取得した発明特許(113425855B、113244413B)に対し原告が前職中の職務発明と主張し帰属の確認を求めた訴訟で、一審は請求棄却、二審では先端技術開発であることから積極的調停による解決を推進し、当事者のその他の関連訴訟を含めて一括和解による解決となった。最高人民法院副院長が裁判長を務め5人の合議廷が「国家憲法の日」に公開審理し40社ほどのメディアが報道し注目を受けた事件である。
2.不動産業界での商標権侵害及び不正競争事件
仁恒置地(成都)有限公司ほかvs蘭州仁恒房地産有限公司 (2023)最高法民终418号
原告から上海の不動産プロジェクトを買収した被告の創業者は原告の商標「仁恒」自社の商号の一部として会社を設立し使用するだけでなく、複数の不動産関連プロジェクトでも当該商標を使用したため、原告は商標権侵害及び不正競争行為として使用と損害賠償を求めて提訴した。一審は原告の主張を認めるとともに損害賠償1340万元の支払と影響除去の公告を命じた。二審では、商号での使用での誤認混同での商標権侵害、被告が同業者として対象商標の先の使用を知っていたことや避けるべき立場から不正競争行為と判断し一審判決を維持した。
3.ゲームの未公開キャラクターの「ネタバレ(剧透)」による営業秘密侵害事件
上海米某科技有限公司vs与陳某氏 (2024)沪0115民初38294号
原告が提供するネットゲーム提供前の内部テストに参加した被告がテスト中に知り得たキャラクターやその能力の内容と画面を盗撮し外部に開示したことから、訴訟前仮差止後、営業秘密侵害として侵害停止と賠償などを求めて提訴、裁判所は申立に事実と法的根拠があるとして仮差止を命じるとともに、係争ゲームのキャラクターイメージや能力効果などの要素を組合せた内容が不正競争防止法に規定される経営情報の要件に適合するとして、被告の権利侵害を認定し、侵害停止、影響除去、50万元の賠償を命じた。ゲーム著作物に対する営業秘密の認定に加え、ネタバレ行為を不正競争行為と認定したことは意義がある。
4.「AI顔交換(换脸)」著作権(作品情報ネットワーク伝播権)侵害事件
陳某氏与上海易某網絡科技有限公司 (2024)沪0114民初1326号
原告は古代の衣装を着た女性の10秒程度の動画13本を抖音(Douyin)プラットフォームに実名アカウントで投稿していたところ、被告の開発した抖音用の顔交換AIビデオ合成プログラムは利用者が当該動画の顔を自部の顔に置き換えて保存できるようになっていることを発見し、侵害行為の停止と損害賠償を求めて提訴した。裁判所は原告の動画は著作権で保護される視聴覚作品と認定し、被告のプログラムが当該動画を利用することは翻案でもフェアユースでもないとして、原告の頒布権(作品情報ネットワーク伝播権)を侵害すると認定した。被告が積極的な是正措置をとったことから少額の賠償で決着した。
5.ゲームの「使い回し(换皮:見てくれ変更)」著作権侵害及び不正競争事件
成都楽狗科技有限公司ほかvs深圳市九九互動科技有限公司ほか (2023)粤民终4326号
「万国覚醒」は原告らが開発運営する戦争戦略シュミレーションゲームで、被告らはWeChat用のゲーム「指揮官」を開発運営し2020年12月から2年3か月で1250万元の利益を計上しているが、ゲーム全体の構成、遊び方、ゲーム要素や持ち時表現の間違いまで一致し、美術的視聴素材のみが違っている情況のため、原告は侵害の停止、影響の除去及び1050万元の損害賠償を求めて提訴した。一審は著作権侵害を認定し、原告の請求をそのまま認定した。二審はゲーム構成や遊び方などはルールの設計(メカニズムデザイン)であるため著作物性がないが、起訴内容は信義誠実や商業道徳の原則に違反する行為であり、市場の競争秩序を混乱させる不正競争行為と認定し、一審の法律適用を改めためたが、原判決の内容を維持した。中国ではこうした他人の創作物の登場人物などの外観を変更し類似する製品やサービスを提供することが多く、この種の事件に不正競争を認定した意義がある。
6.SNSネットサイトの評価「賞賛非難(有踩有捧)」不正競争事件
無錫市世某服飾有限公司ほかvs蘇州布某電子商務有限公司ほか (2023)苏05民终5492号
被告による原告傘下の製品を含む8つのブランドの日焼け防止服の評価記事があるSNSサイトで公開されており、比較製品より低い評価を受けていることを発見し、原告は権利侵害停止と損害賠償を求めて提訴した。一審は当事者に同一の条件での再実験を命じたところ、実験データが不一致であったことから被告の行為は不正競争行為と認定し、侵害停止、損害賠償4.5万元の支払いを命じた。二審でも評価結果を正当化できることができず、データに科学性や信頼性がなく消費者を誤認させ、虚偽宣伝の不正競争行為と認定したが、原告の信用や評判を貶める誹謗レベルにはないとし、原審判断を維持した。ネット上の評価は不正競争行為の対象であり、客観性、真実性、合法性などの面から判断が必要である。
7.チケット争奪ソフトウェア不正競争事件
北京大某文化伝媒発展有限公司vs鄭某忠氏 (2024)京0101民初4607号
中国最大級の総合チケット販売プラットフォームの原告は、被告がチケットを購入するためのチケット争奪プラグインソフトウェアを特別に開発・販売しており不正競争行為にあたるとして、侵害行為の停止と損害賠償を求めて提訴した。一審で被告はソフトウェアの販売が一般のチケット購入に影響を及ぼさず不正競争行為に該当しないと主張したが、原告の営業活動と利用者を自らの経営基礎資源に利用するのは市場競争行為に該当し、不正競争防止法の対象になり、原告の収入を減少させたわけではないが、運営者のコストや意思決定の難度の増加、利用者のチケット購入の難度によるサービス評価や信用の低下につながるとして不正競争行為なると認定した。既に侵害行為が停止されていることから2万元の賠償が命じられた。
8.人気映画・テレビ番組の著作権侵害刑事付帯民事事件
北京光某影業有限公司ほかvs陸氏、方氏、季氏 (2024)浙0783刑初585号
被告の陸氏はドメイン名、レンタルサーバー、システム用プログラムなどを準備し、映画・テレビサイトのテンプレートなどの方法で複数の映画とテレビ番組違反サイトを構築した。その他の被告らは陸氏が違法にサイト運営していることを知りながら複数のテレビサイトテンプレートの販売や保守サービスを提供した。陸士は著作権者の許諾を得ずに最終的に12万本以上の作品を視聴可能とするだけでなく、違法広告主の広告を掲載した。浙江省東陽市人民検察院は、被告らを著作権侵害で告訴、刑事訴訟の過程で北京光謀映画有限公司を含む5社が刑事付帯民事事件として提訴した。一審は、陸氏の行為は著作権侵害、その他の被告らの行為は幇助と認定した。付帯民事訴訟では陸氏に88万元の賠償が命じられたが、被告が賠償すべき賠償額は、被告の権利侵害の性質、期間、利益などの要素を総合的に考慮して確定された。刑事罰は、被告の陸氏には懲役4年と罰金150万元、方氏には懲役1年、執行猶予1年6か月、罰金1.6万元、季氏には懲役10か月、執行猶予1年4か月、罰金1万元、返還された違法所得と押収された道具類は没収された。
参照サイト:https://baijiahao.baidu.com/s?id=1830023932216743542&wfr=spider&for=pc