杭州中級人民法院は、2017年8月にインターネット事件専門法廷として設置された杭州互聯網法院(インターネット裁判所)が5年目を迎えたことを記念し、10大典型事例を公表した。ご参考まで概要とともに紹介する。なお、現在、インターネット裁判所は、北京、広州を含め3か所ある。
1. 悪意のある投訴の審査基準と違約賠償
某(中国)公司vs鄭某氏、新郷市某商貿公司のインターネットサービス契約紛争事件((2020)浙0192民初8031号)
本件は民法典施行後初めての悪意による投訴の事件である。電子商取引法42条には誤った通報をした者に対する賠償請求権、また主観的悪意がある場合2倍の懲罰的賠償請求権が規定されている。被告の鄭某氏は某(中国)公司の知的財産権保護プラットフォームに登録しユーザーとなり、使用契約を締結し、新郷市某商貿公司の代理人として同社の商標権が侵害されているとして3038件の苦情を提出したが、内1461件には商標の文字すらなく、委任状も不正なものであった。裁判所は、苦情の資料が虚偽や誤った内容であり、原告のプラットフォーム運営者に損失をもたらしたことなど総合的に判断し、3万元の賠償を命じた。
2. トラフィック乗っ取りの司法判断
陳某氏vs杭州某軟件服務公司のインターネットサービス契約紛争事件((2020)浙0192民初8031号)
本件はソフトウェアサービス事業者と当該ソフトを利用した使用者間でアカウント凍結による損害賠償紛争であり、知的財産権に関係しないので、解説は省略。
3. ゲームアクセサリーの仮想財産としての保護
牛某氏vs杭州某科技公司のインターネットサービス契約紛争事件((2018)浙0192民初3182号、(2019)浙01民终580号)
オンラインゲームの流行に伴い、サードパーティーのゲームアクセサリーの取引も始まり、事業者がユーザーアクセサリーの安全性を保障する義務は契約により明確にしなければならない。一方、ゲームアクセサリーはその合法性、有用性、取引可能性から財産的価値があり、法的保護が必要となる。本事件では運営者が一定期間利用者のゲームアクセサリーに対するアクセスを制限するなどの事業変更を行い、契約違反による是正処置、或いは損害賠償の責任があるとした。
4. プラットフォームのビッグデータ監視結果の司法審査
某(中国)網絡公司vs李某のインターネットサービス契約紛争事件((2019)浙0192民初7613号)
携帯端末による決済技術は広く利用されているが、一定のリスクもあり、インターネット事業者はユーザーの保護や新しい信頼メカニズム確立のためのインテリジェントリスクマネジメントステムを開発している。一方、社会にはルールと善意を悪用し、虚偽の報告を行うことで補償を受ける詐欺行為もある。本事件はそうした詐欺行為に対してインターネット事業者がビックデータ解析を背景に提訴した事件であり、裁判所はビックデータ分析の使用を司法事実推定の規則に準拠すると認めたものである。
5. 初めての越境取引事件ですべての法定手続きをオンライン処理
シンガポール個人vs某越境Eのインターネットサービス契約紛争事件((2020)浙0192民初2162号)
シンガポールの個人が中国のインターネット販売で中古のノートパソコンを購入したがOffice365ソフトの正規版ではなく試用版がインストールされていたので、契約違反で事業者との交渉が成立せず、インターネット運営者を被告として提訴し賠償を求めた事件であり、中国では初めてオンラインですべての訴訟手続きが行われ、インターネット中継されたために800万以上の視聴があった模様である。原告は、電子商取引法37条の電子商取引プラットフォーム運営者の「自営」と判断される商品の販売について民事責任を負わなければならないの適用を受けた。
6. プラットフォームの消費者に有利な承諾の効力
朱某vs某ECプラットフォームのインターネットサービス契約紛争事件((2019)浙0192民初11144号)
中国の電子商取引では「双十一(アリババ)」、「W10(ピンドードー)」、「618(京東)」など特別割引セールが注目され、一日だけで大量な取引が行われる。そうしたときに、割引率や金額の記載を間違うケースが多発しており、本件はそうした被害を受けたことによる損害賠償事件で、知的財産権に関係しないので、解説は省略。
7. ショッピングプラットフォームの虚構権益の認定
宋某vs浙江某網絡公司のインターネットサービス契約紛争事件((2021)浙0192民初6985号、(2022)浙01民终636号)
電子商取引の普及に伴いプラットフォーム上でのクーポン、割引やプロモーションに伴うサービスなどに起因する紛争が発生しており、本件はプラットフォームサービス利用契約における免責条項や不可抗力、また第三者の原因による責任に関する事件で、知的財産権に関係しないので、解説は省略。
8. 未成年者のゲームチャージ行為の正当性と責任判断
李某氏vs杭州某網絡公司のインターネットサービス契約紛争事件((2021)浙0192民初8200号)
中国では18歳未満の自然人は未成年と規定されており、民事行為能力が制限されている。インターネット事業者はアカウント登録や契約成立時の有効性などについて確認し、必要において排除しなければならない。本件は知的財産権に関係しないので、解説は省略。
9. 取引リスク処理モデル適用が有効との認定
上海某玩具公司vs浙江某網絡公司のインターネットサービス契約紛争事件((2022)浙0192民初842号)
インターネット運営者とサイト事業者の店舗が電子商取引をする上での取引保証金に関する適用の合理性に関する紛争であり、本件は知的財産権に関係しないので、解説は省略。
10. 権利者保護規則下での電子商取引プラットフォーム責任の認定
永康市某甲工貿公司vs杭州某広告公司、永康市某乙工貿公司のインターネット契約紛争事件((2021)浙0192民初4442号、(2021)浙01民终10695号))
電子商取引法42条、43条に規定の知的財産権侵害紛争の処理とプラットフォーム運営者の対応義務に関する解釈に関する事件で、原告は「筋膜リリースガン(マッサージャー)」に関する意匠特許権を保有し、被告の事業者にサイト掲載削除を3度通知したが、被告のサイト掲載者が別の知的財産権プラットフォーム運営者に原告の販売する製品が自社の意匠特許権を侵害すると申立て最終的に侵害との結果を得たことを受けて、被告の事業者は原告の通知を却下するとともに原告の掲載のリンクを削除した。原告はこれに不満で提訴した。裁判所は、関連する苦情や反通知が事実上成立していなければ、プラットフォーム運営者は必要な措置を取らなかったために責任を負う必要がないこと、また、それによって責任を負うかどうかは、依然として権利侵害責任の構成要件に基づいて査定されなければならないこと、また電子商取引法の「しなければならない」との文言は、履行義務の構成的規範をではなく、提示的指導的規定と認定した。被告事業者の対応は慎重なもので、正当性と合理性があるとした。第二審は控訴を棄却している。