【中国】商標局による2018年度商標分野典型10事例(2019年4月25日)

案例1.「MOTO RETA」商標出願異議申立事件
第18021136号(出願人:李恩植(KR)、区分:25類衣類、ベビー用衣類など、出願日:2015年10月8日)の出願に対し、萌童瑞特時尚少儿有限公司(MOTORETA MODA INFANTIL S.L.の関係会社と推定)がスペイン登録商標と知りながら悪意で出願と第32条(先の権利)を主張。審査では出願人が他にも900件を超える第三者の商標と同一或いは類似する商標出願を多数の区分に出願しており、内80件が異議申立を受けている状況があり、商標法第44条1項(不正手段での登録商標出願)を構成すると判断し、一般の自然人が多数の商標を類に関係なく出願する行為は典型的な非正常出願と判断された。また、出願人は本願商標の創作経緯や登録意図を十分に説明できず模倣が推定されるため、商標法第7条(信義誠実違反),30条(先行商標抵触)に基づき登録しないと判断した。
【意義】使用を目的とせずに他人の知名商標を大量に出願し先取りする事案がみられるが、金銭を目的に大量に出願する行為は信義誠実に違反する(第7条)。本件は他の悪意による大量出願と異なり、出願人が中国人でないこと、対象商標自体も中国ではそれほど有名な商標ではない。異議部門は提出された非正常出願の情報、関連当事者の登録情報、関連案件の審理状況から出願人の一貫した悪意を認定した。

案例2.「高山別庄」商標出願異議申立事件
第19638921号(出願人:杭州三吾科技有限公司)、区分:35類広告宣伝、ホテル事業経営など、出願日:2016年4月14日)の出願に対し、雲南香格里拉(シャングリラ)高山別庄酒店(ホテル)は設立が関連会社の徳欽高山別庄酒店有限公司とも2009年、2006年で「高山別庄」は独自に創作し商号の一部として登記し、長期間の使用と宣伝により比較的知名と知られていること、出願人の株主の鐘氏は杭州雲互科技有限公司の株主であり、異議申立人との間に取引契約があるため、出願人も異議申立人と特定の関係にあることから第15条2項(冒認出願)と主張。審査ではこうした立証が認められ登録しないと判断した。
【意義】冒認出願は2013年の法改正で初めて導入されたが、その典型事例と言える。本件では、第15条2項の「契約、業務取引関係或いはその他の関係」を立証する証拠が提出されたが、この種の事案では著名性を立証する必要はなく、先の商標的使用を立証するだけでよい。なお、本件では類似する16類と43類にも出願人は同一商標を登録しており、その行為は信義誠実や市場の競争秩序に違反すると言えるため、同様に第15条2項に基づき取消すことができる。

案例3.「卡深罕」商標出願異議申立事件
第19125724号(出願人:広州卡深罕化工科技有限公司、区分:1類工業用接着剤、生産加工用脱脂剤、工業用柔軟剤など、出願日:2016年2月22日)の出願に対し、広州諾拜因化工有限公司は、自社の登録商標第18609088号(「卡深罕」第4類)、営業秘密侵害の裁判記録を提出し、商標法第7条(信義誠実違反),15条2項(冒認出願)を主張。審査では、「卡深罕」が独自に創作されて、現地では一定の知名度があり、出願人が創作した可能性が低いこと、出願人の株主は異議申立人の元従業員であり、商標の存在を知った上で出願した主観的悪意があり、第1類の指定商品は第4類の指定商品に機能、用途などと密接な関係があり誤認混同を生じるとして、商標法第30条(先行商標抵触)に基づき登録しないと判断した。
【意義】中国の類似商品役務区分表が規定する類似関係を突破した事例である。悪意商標出願は区分表の設定を悪用する場合が多く、否類似であるが関係性が高い商品や役務に他人の先の権利者の商標と同一或いは類似する商標を不当に登録する行為は制止されるべきである。実務上、区分表の商品の類似関係を突破するには、一般的に商標の類似度、商品の関連度、対象商標の独創性と知名度、特に出願人の主観的悪意などの要素が考慮されるように主張し、合法的権利と社会的影響を主張する。

案例4.「奥福格」商標出願異議申立事件
第20390515号(出願人:通滋国際貿易(上海)有限公司、区分:29類魚の缶詰、保存加工済み果物、保存加工済み野菜、バター、牛乳製品、食用油、加工済みナッツなど、出願日:2016年6月22日)の出願に対し、INAO(フランス国立原産地・品質研究所)が「奥福格」はフランスの酪農製品の原産地表示BLEU D’AUVERGNE(布勒·德·奥福格)の主要な一部であり、商標法第10条1項(7)(欺瞞・産地誤認)及び2項(中国で登録済みの地理的表示)に該当すると主張。審査では、異議申立人は青かびチーズで知られるフランスのBLEU D’AUVERGNE(ブルー・ドーヴェルニュ)の原産地名称、製品の品質や中文翻訳の主要部分並びに誤認混同惹起の主張が認められ、商標法第10条1項(7)、16条1項(地理的表示)に基づき登録しないと判断した。
【意義】外国の地理的表示の保護に関し、中国はパリ条約、TRIPS協定に基づき、保護をする立場を明確にしたものであるが、本件は対象商標出願日より遅いが中国での地理的表示登録をしている。この種の登録手続きは著作権登録同様に中国で異議申立などをする場合、合法的権益を主張する際に不可欠な手続きと言える。

案例5.「藍色の海」商標出願異議申立事件
第19053726号(出願人:朱立貴、区分:33類蒸留酒などアルコール飲料全般、出願日:2016年2月2日)の出願に対し、江蘇洋河酒厂股份有限公司は自社が33類に保有する登録商標「藍色経典」、「海之藍」に類似するとして、商標法第30条(先行商標抵触)を主張。審査では、異議申立人がこれまでに受けた受賞履歴やブランドの報道による知名度、出願人が同地域に所在すること、33類に多数の模倣出願があること、過去に出願人の同一商標登録が「藍色経典」登録商標に基づき無効取消されたこともあり、知名商標の模倣にあたるとして、商標法第30条に基づき登録しないと判断した。
【意義】同じ商標権者の商標に模倣を繰り返す典型事例で、悪意登録には信義誠実違反で対応すべきである。いわゆる「傍名牌(名声便乗)」にあたる事例で、審査官は商標の知名度、独創性、主観的悪意など総合的に判断する必要がある。本件では標章自体に一定の差異があるものの、正当な商標出願と言えない行為には通常の類似判断で対応できず、商標の知名度や受賞歴などに基づき正当で健全な市場秩序や競争の面から判断されることになる。

案例6.「叫个鴨子(アヒルを呼ぶ)+図」商標出願却下再審事件
第15740333号(出願人:北京味美曲香餐飲管理有限公司、区分:43類ホテルその他の施設の斡旋,調理用機器の貸出など、出願日:2014年11月19日)の出願に対し、商標と指定役務が商標法第10条1項(7)(公序良俗違反)として商標局は却下した。審査では、「鴨子(アヒル)」の隠語に男性向け性風俗があり、「叫个(呼ぶ)」との組合せで全体的に低俗な役務を想像させると判断された。図形はそうした想像を増長させると判断された。不服・再審・行政訴訟第一審も却下を維持したが、第二審では再審決定取消と逆転し、商標評審委員会が最高人民法院に再審請求し、原審が維持された。
【意義】商標は社会において事業上の標識の役割を果たすが、他に価値の宣伝や文化の伝播の役割がある。本件ではホテルなどのサービスに使用された場合、そうした影響が大きく、公共の秩序、商業文化、社会道徳に影響が大きいと判断された。外国人にはアヒルにこうした意味があることを判断することは難しく、出願前商標調査では、意味の良し悪しについて現地弁護士の見解を取るべきである。

案例7.「途牛」登録商標無効事件
第16004180号(商標権者:青島百奕名東匯商貿有限公司、区分:20類非金属容器、折り畳み式椅子、マットレス、シュラフなど、出願日:2014年12月24日、登録日:2016年5月14日)の異議手続きを経た登録に対し、南京途牛科技有限公司は自己の登録商標第6631862号「途牛」第39類旅行手配など)の「途牛」は独創的で識別力があり旅行業務での多くの宣伝で高い知名度と影響力があり、商標法第13条(馳名商標)などに基づく無効を主張。審査では、無効請求人が提出した馳名商標認定のための旅行など各種サービスでの2008年以降の使用証拠のほか、広告宣伝、受賞履歴などの立証に知名度を認め、指定商品が旅行必需品で関連性があると認定し、商標法第13条3項(非同一非類似商品)を適用し、登録商標を無効取消した。
【意義】第13条3項の適用は非類似の商品や役務にまで保護範囲を及ぼすため、市場取引環境や消費者の認知度のレベルなどの実情、当事者や消費者の権益、公平な市場環境への影響など多方面から立証する。一定の知名度のある商標で独創性が高く、一般消費財やサービスで知名度の高い場合、適用は緩和されるべきである。

案例8.「MASkin」登録商標無効事件
第10519462号(商標権者:上海源時信息科技有限公司、区分:10類マスク、整形外科用品など、出願日:2012年2月22日、登録日:2015年3月28日)商標に対して、蘇州世康防護用品有限公司は商標法第15条2項(冒認出願)による無効を主張。審査では、当事者の提出した主張や証拠から無効請求人が商標登録前からマスクなどの類似商品にMASkin商標を使用しており、本件紛争前に商標権者は無効請求人にマスクの価格や製品設計を照会していたことから当事者間に業務関係があり、無効請求人のMASkin商標を知っていたと判断し、悪意による冒認出願と認定し、無効取消した。
【意義】商標法第15条2項を適用において、条項中の「契約、業務上の交流関係或いはその他の関係」の範囲を判断する場合、信義誠実の立法の原則から先の権利を保護し、不公正競争を阻止しなければならず、他の誰かが最初に商標を使用したことを知っている特殊な関係を利用し他人の商標を先取りする悪意のある登録を止めるには、本条項を適用し、先に使用した権利者の合法的権益を保護しなければならない。

案例9.「哈利波特Halibote+図」登録商標無効事件
第18436154号(商標権者:江川輝勝商務有限公司、名義変更後:玉溪輝勝商務有限公司、区分:5類医療用栄養食品、栄養補助剤、乳児用食品、人用薬など、出願日:2015年11月26日、登録日2017年1月7日)に対して、華納兄弟娯楽公司(ワーナー・ブラザーズ・エンターテインメント)がHARRY POTTER及びその中文翻訳名(哈利·波特)の有名商品(映画)の名称及び商品化権を侵害するして、商標法第32条(先の権利)による無効を主張。審査では、無効請求人が当該商標出願日前に中国国内でハリー・ポッターシリーズの商品や映画が広く宣伝、放送し、高い知名度を有する立証証拠が提出し、その独創性、知名度に合法的権益があることが認められ、本商標の使用がライセンスを受けている商品と誤認させる可能性があるとして無効取消した。人用薬は知名度の高い商品と一般名称は異なり、立証の事実根拠が不足するとして、無効が認定されなかった。なお、本件は分割されたもの、最終的に無効取消されている。
【意義】先の権利については明確な法律根拠がなく、通常、商号、著作権、意匠権、氏名権、肖像権などが認められてきたが、今回は商品化権がその事業で使用され経済的権利が生じたものとして初めて認められた。商品化権を主張するには、中国国内での一定の知名度をすでに獲得していることの立証が課題となろう。

案例10.「1号店yhd.com」登録商標無効事件
第16325862号(商標権者:広州淘信互聯網科技有限公司、区分:41類医家庭教師サービス、興行(演出)、移動図書館など、出願日:2015年2月6日、登録日2017年8月7日)の異議手続きを経た登録に対して、新崗嶺有限公司が1号店のシリーズの商標は独自の創作で大量な使用と広範な宣伝を経た高い知名度と商業価値があり、商標権者が多数の他人の商標を登録する行為には強い主観的悪意があり、誠実信用原則に違反し、不正競争行為にあたるとして、商標法第44条1項(不正手段による登録)による無効を主張。審査では、申請人が所有する「1号店yhd.com」や「1号店The Store」と呼称や文字構成などが同意類似であることが認定されたほか、商標権者はこの他に「微博搞笑排行榜」など中国の有名ブランドと同一類似する商標を90件以上登録しており、異議申立や無効取消を受けていることが判明した。明らかに正常な生産経営に必要なレベルを超え、かつ他人の有名ブランドを先取りし不正利益をむさぼる意図があると認定し、正常な商標登録の管理秩序を混乱させるとして、無効取消した。
【意義】商標法第44条1項の「その他の不正な手段により商標を登録する行為」とは商標登録者が詐欺的手段以外の方法で商標登録秩序を妨害し、公共利益を損ない、不当に公共の資源を占有、或いはその他の不正な利益を得ようとすることで、その立証証拠が十分できる場合に適用できる。

http://sbj.saic.gov.cn/gzdt/201904/t20190429_293270.html