工商行政管理総局は、民法典の制定が決まり、廃止される法律や関連の法律を参照し、次の6つポイントを重要事項としてSNSで一般と共有している。
(1)民事主体と登記
(2)品質と標準
(3)欠陥とリコール
(4)契約の監督管理
(5)知的財産権、医薬品、動産抵当登録、消費者権益保護、価格、信用など
(6)その他の一般規定
以下は、項目ごとの解説である。
(1)民事主体と登記
民事主体については、従来の民法総則を踏襲した規定となっている。民法典でも、中国でも自然人である個人も店舗の名称をつけて商工事業者となりえる(第54条)。法人は日本と違い、発生は登記を条件とする(第77条)ので、名称や住所など所定の事項を先ずは登記しなければならない(第58条)。 具体的には、第一編第3章(法人)の第57条~86条規定を参照されたい。
所轄官庁としては、第61条法定代表人、第63条住所、第64条変更登記、第68条法人終了、第69条法人解散、第73条法人抹消登記、第74条支社機構及び登記などに注目しているが、第86条には法人の義務が「営利法人は経営活動に従事し、商業道徳を遵守し、取引の安全を維持し、政府と社会の監督を受け、社会的責任を負わなければならない」と定められている。
なお、登記機関は第66条により適時に法人登記の関連情報を開示することになっている。
(2)品質と標準
契約上の品質に関する要件が不明確な場合について、従来の契約法では最終的に第62条第1項の「品質要件が明確でない場合、国家標準、業界標準に従って履行する。国家標準、業界標準がない場合、一般的基準或いは契約目的に合う特定の基準に従って履行する。」の規定を適用していた(同第61条、第154条)ところ、民法典では第三編第一部第4章契約の履行、第511条(同第510条、第616条)に同様に踏襲された。
所轄官庁としては、第511条が「強制国家標準」や「推奨国家標準」、「業界標準」と修正されたことにより、品質基準の適用順番と適用元が明確になり、事案に直接影響する基準が明確となる。ここで問題となるのは業界標準より強制や推奨国家標準が優先して適用されること、また標準存在の有無の問題もある。こうした点は、「標準化法」に基づく、或いは特別法や国務院の定めに基づく強制的な国家基準の存在の有無にも注目して対応することになる。当事者は契約上明示が必要である。
(3)欠陥とリコール
民法典には、欠陥のリコールについて、第1206条に次のように規定している。
「第1206条 製品が流通に投入された後、欠陥が発見された場合、生産者、販売者は直ちに販売停止、警告、リコールなどの救済措置を講じなければならない。直ちに救済措置を講じていない或いは救済措置が不十分で被害が拡大した場合、拡大した損害に対しても権利侵害の責任を負わなければならない。
前項の規定に基づきリコール措置を講じる場合、生産者、販売者は被害者が支出した必要費用を負担しなければならない。」
これに対応する従来の権利侵害責任法の第46条の規定には「リコール措置を講じる場合、生産者、販売者は被害者が支出した必要費用を負担しなければならない。」がないため、この追加条項に注意を払わなければならない。
一方、これは「消費者権益保護法」の第19条の規定と一致している。「第19条 経営者は、その提供した商品またはサービスに欠陥があることを発見し、人身、財産の安全に危険がある場合は、直ちに関連行政部門に消費者に報告し、販売停止、警告、リコール、無害化処理、廃棄、生産停止或いはサービスなどの措置を講じなければならない。リコール措置を取る場合、経営者は消費者が商品のリコールによって支出される必要な費用を負担しなければならない。」
(4)契約の監督管理
民法典は行政法規でないが、第三編第4章契約の履行の最終条項に以下の通り契約の監督管理を直接規定している。市場監督管理総局の職責が唯一明確にされている点である。
「第534条 当事者が契約を利用して国家利益、社会公共利益に危害を及ぼす行為を実施する場合、市場監督管理及びその他の関連行政主管部門は、法律、行政法規の規定に基づき監督処理する責めを負う。
所轄官庁は、例として第496条のテンプレートのような形式条項を以下のように注意事項として引用し、最後の行の「相手方は当該条項が契約内容にないと主張することができる。」に注目している。定型の契約書を利用する場合、契約書案として提供する側には不利な状況が発生するため、注意が必要である。
「第496条 形式条項とは当事者が繰返し使用するために予め作成しておくとともに、契約締結時には相手方と協議していない条項を言う。
形式条項を用いて契約を締結する場合、形式条項を提供する側は公平の原則を遵守し当事者間の権利と義務を確定するとともに、合理的な方法で相手方に免除或いは軽減など注意を促し、そして相手方に重大な利害関係がある条項については、相手方の要求に従い、この条項について説明しなければならない。形式条項を提供する側が提示或いは説明義務を履行せず、相手方が重大な利害関係のある条項を注意せず或いは理解していない場合、相手方は当該条項が契約内容にないと主張することができる。」
また、形式条項の無効は以下の通り、第497条に規定されている。
「第497条 以下に掲げるいずれかある場合、当該形式条項は無効である。
(1)本法第一編第6章第3節と本法第506条に規定された無効状況がある場合;
(2)形式条項を提供する一方が不合理にその責任の免除或いは軽減し、相手方の責任を厳格化し、相手の主要な権利を制限する場合;
(3)形式条項を提供する一方が相手方の主な権利を排除する場合。」
なお、形式条項の解釈に齟齬が生じた場合、第498条に規定されている。通常の・・と提供側に不利な解釈・・に留意する。
「第498条 形式条項の理解について争議が発生した場合、通常の理解に基づいてこれを解釈しなければならない。形式条項に2つ以上の解釈がある場合、形式条項を提供する側に不利な解釈をしなければならない。形式条項と非形式条項が一致しない場合、非形式条項を採用しなければならない。」
これについては、「消費者権益保護法」の第26条に同様の規定があり、中国での売買含み“契約”で一方通知にも注意が必要で、“同意”が必要であることがよく理解できる。
「第26条 経営者が事業活動において、形式条項を使用する場合、目立つ方法で消費者に商品或いはサービスの数量と品質、代金或いは費用、履行期限と方式、安全注意事項とリスク警告、アフターサービス、民事責任など消費者と重大な利害関係がある内容を提示するとともに、消費者の要求に従って説明しなければならない。
経営者は形式条項により通知、声明、店舗掲示などの方式で、消費者の権利を排除或いは制限する、経営者の責任を軽減或いは免除する、消費者の責任を増加するなどして、消費者に対して不公平で不合理な規定することはできず、形式条項を利用するとともに技術的手段を借りて取引をきょうようできない。
形式条項、通知、声明、店舗の掲示など前項の内容が含まれている場合、その内容は無効でである。」
(5)知的財産権、医薬品、動産抵当登録、消費者権益保護、価格、信用など
民法典で市場監督管理総局が標記に関係する条項について、それぞれ以下の通りまとめる。
【知的財産権】
いくつかの条項に分散規定されているが、第一編総則第5章民事権利としての権利は下記の通り。
第123条【知的財産権の定義】
民事主体は法に基づき知的財産権を享有する。
知的財産権とは、権利者が法に基づき以下に掲げる客体に享有する専有権である: ①著作物; ②発明、実用新案、意匠; ③商標; ④地理的表示; ⑤営業秘密; ⑥集積回路配置設計; ⑦植物新品種; ⑧法律が規定するその他の客体。
【医薬品】
第四編人格権第1章一般規定の第1008条に人体臨床試験の規定を設け、被験者の保護を規定している。
「第1008条 新薬、医療機器の開発或いは新たな予防及び治療方法の開発のために臨床試験を行う必要がある場合、法に基づき関連主管部門の承認を経るとともに、倫理委員会の審査承認を経て、被験者或いは被験者の保護者に試験の目的、用途及び発生するリスクの可能性などの詳細な情況を通知し、書面により同意しなければならない。
臨床試験を行う場合、被験者から試験費用を徴収してはならない。」
【動産抵当登記】
第二編物権権第17章抵当権の第403条、404条に物権の抵当登記の規定を設け、効力を明確化している。
「第403条 動産を抵当とする場合、抵当権は抵当契約の発効時から設定される。未登記のものは、第三者対抗要件を満たさない。」
【消費者権益保護】
第一編総則第5章民事権利の第128条に社会的弱者に関する民事権利の特別保護の規定を設けている。中国の公平の原則に基づくものである。
「第128条 法律には未成年者、老人、障害者、女性、消費者などの民事上の権利の保護に対する特別規定があり、その規定に従う。
【価格】
第三編契約第4章契約の履行において価格に関する規定を設け、第511条は契約条件が不明確な場合の適用を規定しており、第(2)項には価格が不明確な場合の適用を規定している。また、第513条には政府での定価または政府指導の価格に関する規定がある。
「第511条 当事者の契約内容の約定が明確ではなく、前条(第510条:追加の約定など)の規定でもまだ確定できない場合、以下に掲げる規定を適用する:
(2)価格或いは報酬が明確でない場合、契約締結時に履行する市場価格に従い履行する。法律に基づき政府定価或いは政府指導価格を適用しなければならない場合、規定に従って履行する。
第513条 政府の定価或いは政府の指導価格を適用する場合、契約に約定された交付期間内に政府価格に調整を行う場合、交付時の価格により価格を計算する。期限を過ぎて目的物を納品し、価格が上昇した場合、原価格に従って処理し、価格が下がった場合、新しい価格に従って処理する。目的物を期限が過ぎて受領或いは支払が期限を過ぎた場合、価格が上昇した場合、新しい価格によって処理し、価格が下がった場合は、元の価格で処理する。」
【信用評価】
第四編人格権第5章名誉権と栄誉権に信用評価にかかる第1029条を設けている。国家企業信用情報公示システムには、行政処罰、事業異常、違法行為ブラックリストなどの項目が用意されており、当該法人の過去の処罰などの情報が掲載される。こうした情報に誤りがあった時などの不利益からの救済を規定している。
「第1029条 民事主体は法に基づき自らの信用評価を調べることができる。信用評価が不当であることを発見した場合、異議申立、訂正、削除など必要な措置を採るよう請求する権利がある。信用評価者は適時に照合・審査し、照合・審査を経て事実である場合、適時に必要な措置を講じなければならない。」
(6)その他の一般規定
【プライバシー情報の保護】
第1039条 国家機関、行政機能を担う法定機構及びその従業員は、職務遂行中に知り得た自然人のプライバシー及び個人情報の秘密を保持し、漏洩或いは他人に不法に提供してはならない。
【行政責任】(民事責任優先の原則)
第187条 民事主体は同じ行為により民事責任、行政責任及び刑事責任を負わない場合、行政責任或いは刑事責任を負うことは民事責任を負うことに影響しない。民事主体が財産不足で支払えない場合、民事責任を優先的に負うものとする。
【期限日計算】中国では、最初の日を不参入し、翌日から計算します。
第200条 民法でいう期間は西暦年、月、日、時間によって計算する。
第201条 年、月、日の計算期間では開始日を計上せず、次の日から計算する。時間計算の場合、法律の規定或いは当事者の約定した時間から計算を開始する。
第202条 年、月の計算期間では月の対応日を期間の最終日とする。対応日がない場合、月末日を期間の最終日とする。
第203条 期間の最終日が法定休日であり、法定休日が終了した翌日を期間の最終日とする。期間の最後日の締切りは24時とする。営業時間がある場合、事業活動の停止した時間を締切りとする。
参照サイト:工商行政管理総局