4月18日、広州知識産権法院は司法保護交流座談会及び司法開放日の活動において、2022年の広州知識産権法院での知的財産権保護状況及び10大典型例を発表した。
広州知識産権法院で2022年に起訴、上訴された一、二審の事件は合計19,503件(前年比+2.89%)と増加した。新規受理事件は、民事事件13,887件(前年比-8.23%)、行政事件23件、その他事件76件である。この内、一審事件は9,357件(前年比+56.03%)、二審は4,553件(前年比-41.66%)減少し、一、二審の構造比率は2021年の4:6から2022年の7:3に変わった。技術類の事件は明らかに増加し、特許紛争8,885件(前年比+63.99%)と全体の63.53%を占めた。著作権紛争は3,980件、商標権紛争は613件、不正競争紛争は167件、その他紛争は341件、構成比はそれぞれ28.46%、4.38%、1.19%、2.44%である。そのうち、技術類案件の新規事件は2,678件、審決2,299件と、それぞれ前年比+35.66%、+14.21%と増加している。
●広州知識産権法院10大典型事例
事例1:商標権侵害事件、商標権濫用の制限と公平な市場秩序の維持
広州市碧欧化粧品有限公司vs広東碧鴎国際化粧品有限公司ほか (2020)粤73民終5237号
原告は登録商標12113899「図形」を保有しており、被告らが商標権を侵害したとして、20万元の賠償と謝罪広告を求めて提訴した。一審は、事件外の鐘利民氏に先使用の抗弁構成要件を満たしており、その許諾を得ている被告らを含めて区別する表示を付す条件付きで使用継続する権利を認定した。二審は原告の商標出願時点に商標法32条の他人が既に使用し一定の影響がある商標の登録に該当し、信義誠実の原則違反、非正当な取得及び権利乱用に当たると上訴を棄却した。二審判決では、商標法32条の「商標を奪う行為の否定」と59条の「先使用の抗弁」の2つの状況を区別する初めてのもので、主観的に悪意のある後の登録の商標権者の権利を保護するために先使用者の使用に制限をするのよりも、その権利濫用を否定的にするべきとの判断が示された。
事例2:商標権侵害及び不正競争事件、権利範囲の合理的確定と公衆の合法的権益の保護
北京抖音信息服務有限公司vs河南今日油条餐飲管理有限公司ほか (2020)粤73民初2332号
原告は「今日头条」「头条」など4件の図形文字の登録商標を保有しており、被告らが朝食店を開設して油条、豆乳などの食品を販売し、看板、メニュー、食品包装、店舗装飾など多くの場所で「油条」「今日油条」の標章を大量に使用していることは商標権侵害、不正競争を構成するとし、裁判所に侵害停止、損害賠償200万元の賠償を求めた。裁判所は、非類似、誤認混同が生じないとして、非侵害と判断した。原告は中国でも有名なメディアであり、「今日头条」は知名であるが有名商標の保護範囲を合理的に確定するとともに、競争を制限する濫用の防止を図った。
事例3:植物新品種権侵害事件、遺伝子技術による保護植物品種イノベーションの保護
広州州棕科園芸開発有限公司vs高州市浪升種植専業合作社 (2020)粤73知民初326-329号
原告は被告が栽培、挿木、接木した植物繁殖材料が「夏梦衍平」「夏梦小旋」「夏七心」「夏咏国色」などの植物新品種権を侵害するし、侵害停止、損害賠償545.7万元の賠償を求めた。裁判所は、国家林草局植物新品種分子測定実験室のSSR分子標識法を用いた測定で被疑繁殖材料と登録品種の選択位置のDNAパターンは完全に一致しているとの結論を受けて、侵害と認定するとともに、被告の故意侵害、長期広範な侵害の存在に対して、法定賠償の範囲内の135万元の賠償を命じた。
事例4:発明特許権非侵害確認事件、標準必須特許紛争の調停
華為技術有限公司ほかvs 英偉特SPE有限責任公司(Inve SPE, LLC) (2021)粤73知民初386-388号
被告は3G・4G通信規格に関連する標準必須特許ZL021422556.6(自動再送要求送受信方法及び装置)、ZL 200910008458.0(通信端末装置及び無線通信方法)、ZL01803504.3(直交周波数分割多重通信デバイス)について原告にライセンス交渉を持ち掛けたが成立せず、ドイツでファミリー特許権を侵害するとして提訴した。原告は本件特許が標準必須特許ではなく、中国で製造、販売する端末部品は侵害しないとして、非侵害確認訴訟を起こした。広州知識産権法院の合議体は標準必須に関する調停を主宰し、両当事者は多国間での並行訴訟、事実認定の難度、指示宇の変化、主張の大きな差があるものの、双方の根本的利益が合致したところで世界的な和解に合意した。
事例5:商標権侵害事件、先用権ができる抗弁主体を明確化
徐定朋vs広州壹欣貿易有限公司 (2021)粤73民終7380号
原告の徐定朋は「牧马人」商標(32086813ほか)の商標権者であり、タオバオネットショップで販売されているマウス商品に同一商標が使用されており商標権侵害で提訴したが、別件で被告と同じ法定代表者で株主関係にある広州市派仕盾電子有限公司を提訴したが先使用抗弁により敗訴しており、派仕盾から購入したことで関連証拠が同じ事から一審は敗訴した。第二審は、先使用者の定義、先使用権の継承を明確に示し、先使用権は抗弁権であり、継承者以外の別法人には移転しないとし、一審判決を破棄し、権利侵害停止、損害賠償を命じる逆転判決を下した。
事例6:情報ネットワーク送信権(信息网络传播权)侵害事件、作品の合理的な使用範囲の確定
李穎欣vs北京奇虎科技有限公司 (2021)粤73民終7310、7311号
李氏は撮影した北欧の写真作品をインターネット上に発表しており、奇虎社はその360検索サイト(so.com)での検索結果として当該写真作品を含む複数の写真や広告をサムネイル表示し、写真をクリックすると写真とは関係のないサービスサイトにジャンプするように使用していることから、写真作品を許可なく使用し署名権と情報ネットワーク伝播権(2020年の著作権法改正で導入)を侵害するとして提訴し、一審は主張を認めたが、二審は被告の行為はネット検索サービス提供者として、自然検索の結果を変えておらず、ネット利用者は検索結果から元のページを探すことができないこともなく、客観的にはこの作品の露出量を増やすことから、原告の合法的権益が不当に損なわれないとして、社会一般の利益を守る観点から被告の行為は合理的な使用の範疇を超えていないと認定した。また、原告は被告の苦情ルートから適宜対応できることも指摘している。
事例7:コンピュータソフトウェア著作権侵害事件、ライセンス許諾の範囲の確定
広州快意信息科技有限公司vs敏実集団有限公司ほか24社 (2019)粤73知民初1519号
被告はEROシステムソフトウェアのライセンス契約でライセンス数478、更に実際の使用状況に基づき追加のライセンスを購入することに同意した。原告は実際のログイン数に基づき、利用者は1380人であり契約違反として著作権侵害で被告を提訴した。契約でのライセンス数の単位が許可証数(Named User)となっており、IDとパスワードを設定することで約定したライセンスがかくていされることから裁判所は単一ユーザーライセンスと認定し、侵害行為の停止と400万元の賠償命令を下した。関連の23社に対しては被告による複製の立証不足で却下。ソフトウェアライセンスにおいては、許諾の対象と使用範囲の明確な規定を合理的判断できるように定めることが肝要であり、法律法規の規定及び業界慣例を遵守しなければならない。
事例8:発明特許侵害事件、技術調査官による対象技術の判定原則の確立
P2ILimited vs江蘇菲沃泰納米科技有限公司深圳分公司ほか (2018)粤73民初2555号
原告は、被告の製造販売する携帯電話のメッキ処理の素材が発明特許98807945.3を侵害するとして提訴し、その製品が特許の保護範囲に入るか否かについて、双方から提出された技術鑑定書や裁判所の委託により作成された鑑定書の結果に違いがあり争点となった。専門技術を有する技術調査官が鑑定書などを分析し、オールエレメントルールの原則に基づき非侵害の判断を下したことを裁判所が採用した。専門知識を有する技術調査官による単純にオールエレメントルールを適用できない化学製品の判定での模範事例となる。
事例9:著作権侵害及び不正競争事件、ソフトウェア開発権限の規範化と知的財産権の保護
腾讯科技(深圳)有限公司(テンセント)ほかvs広州銀光軟件科技有限公司ほか (2020)粤0106民初36378号
被告はテンセントのWeChatソフトウェアとその運行アプリケーションを利用する機能を備えたチャット管理システムアプリケーションを提供し、WeChat上のアプリケーションやコンテンツを勝手に使用するものであり、WeChatプラットフォームの通常の運用秩序が破壊されるため、著作権侵害と不正競争行為があるとして、侵害行為の停止、影響の除去、損害賠償約1,719万元を請求し、裁判所はその請求を認めた。各種のWeChatベースアプリケーションによる著作権侵害が続出しており、WeChatの運営とデータセキュリティに潜在的な危険性があり、ソフトウェア開発と事業者の知的財産権を全面的に保護した。
事例10:商標偽造刑事附帯民事公益事件、消費者の権益保護
広州市黄埔区人民検察院vs周飛ほか(個人) (2021)粤0112刑初80号
被告は食品製造販売の許可証もなく、衛生基準を満たさないヘネシー(轩尼诗)やマーテル(马爹利)などの有名な登録商標の洋酒の空瓶に別の洋酒を充填販売し461万元を売上げ、商標偽造罪で逮捕され、刑事付帯民事公益事件として提訴された。偽物の販売による詐欺行為、潜在的な健康被害などよる社会公共の利益、商標管理秩序や市場環境を毀損したとして、3倍の懲罰的賠償を含む懲罰的賠償約1,383万元及びメディアでの謝罪が命じられた。