【中国】江蘇省高級人民法院は「高品質の司法保障展開のため最も厳格な知的財産権司法保護に関する指導意見」を公布(2019年8月6日)

江蘇省高級人民法院は、8月23日付で、8月6日の「立証難」、「長い周期」、「低い賠償」などの難門を解決するための、「江蘇省高級人民法院の高品質の司法保障展開のため最も厳格な知的財産権司法保護に関する指導意見」を公布した。

江蘇省は、南京市を中心に北は徐州市から南は常州市、南通市、無錫市や蘇州市などがあり、数多くの日本企業が現地法人や生産現場を持っている地域である。この地域の特許専門裁判廷は南京と蘇州の中級人民法院が指定第一審であり、第二審は最高人民法院知財法廷になる。こうした意味から本指導意見は江蘇省で活動する日本企業やその現地法人が特許侵害などの原告や被告になる場合に重要な意味を持つため、ご参考までご紹介する。

江蘇人民法院の本指導意見は、以下の通り、前文と6章36項から構成される。
(1)最も厳格な知的財産権の司法保護理念を堅牢に確立し、全体的要求を正確に把握
(2)訴訟保全措置を有効に利用し、侵害行為の係属を最大限に阻止
(3)訴訟証拠規則を完備し、権利者の「立証難」問題を解決
(4)審判方法の改革を推進し、「長い周期」の審理問題を解決
(5)懲罰度を強化し、「低い賠償」、「再犯」問題を解決
(6)悪意訴訟などの行為に対する打撃を強化し、訴訟の信義則の建設を強化
 知的財産権に対する司法保護の分野において、イノベーション、権利、処罰、効率、及び信義則の動向更に重視することを指摘して、以下のように説明している。

 権利者の「立証難」の面では、2016年に最高人民法院が「執行難問題を2~3年で解決する」としたが、3年がすでに過ぎ、法執行業務は著しい成果を収めたものの、「執行難を確実に解決する」という目標や一般の期待と比べると、まだ差がある。各知識産権廷が当事者に積極的な立証の指導、特に、権利状況、侵害認定、損害賠償などに関する事実の立証することを更に指導することを求めている。権利者が客観的に自ら証拠収集できない場合、申請があれば速やかに調査命令を出すので、必要に応じて申請による調査収集ができる。法は現代の技術による保全または証拠取得も支持し、当事者がタイムスタンプ、ブロックチェーン(分散型台帳技術)などの方法で保全した証拠が証明基準に適合している場合、法に基づき認定する。

 審理の「長い周期」の解決には、訴訟代理人の尋問が機能を十分に発揮することが求められている。証拠資料が多い事件では必要に応じて双方の当事者及びその訴訟代理人に自己立証させ、人民法院に立証意見を書面で提供させる。また、事実が明確で、法律適用が簡単で、権利侵害判断が容易な事件は、簡易手続や即決方法を適用して速やかに審査する。

 「低い賠償」や「再犯」などの解決には、正確な確認と法定賠償の適用を支持しているが、当事者が損害賠償額を具体的に計算できる証拠を提供している場合に法定賠償は適用しないので、当事者やその訴訟代理人に証拠収集に努め、権利侵害行為による損害、利益またライセンスレートなどの関連証拠を積極的に提供することを誘導し、法定賠償に過度に依存しないようにすることが必要である。また、権利者の合理的な費用支出を全面的に補填すべきであり、弁護士費用支出は明らかに不合理な要素がない限り支持すべきである。

 本規定では、「故意」の絡む懲罰賠償事件の対象について、以下のような事例を挙げており、中国では初めての故意に対する事例掲示となろう。
・権利者が権利侵害者に侵害警告書を発行或いは、通知後も正当な理由なく権利侵害行為を継続した場合
・権利侵害者と権利者或いはそのライセンシーとの間の代理、許諾、契約関係が終了後、許可なく関連行為を継続実施した場合
・権利侵害者は仮差止裁定を履行せず関連行為を継続実施した場合
・権利侵害者は法院或いは行政機関で同一の行為に対する判決或いは処罰決定後も同一の権利侵害行為を継続実施した場合
・権利侵害者は権利侵害を業とし、会社の名称を絶えず変えたり或いは、新会社を設立したりして権利侵害行為を実施した場合
・権利侵害者が故意に馳名商標の名声に乗り同一、類似する商標を占拠或いは、その他の商標権侵害行為などの状況を実施した場合

参考サイト:
http://www.jsfy.gov.cn/art/2019/08/23/11_98322.html
http://www.gov.cn/xinwen/2019-08/23/content_5423789.htm
http://jszx.court.gov.cn/main/ExecuteNews/235425.jhtml
参考和訳