【中国】最高人民法院による2022年中国法院知的財産権10大事例(4月20日)

最高人民法院は、4月20日付、例年通り、中国法院知的財産権10大事例と知的財産権50典型事例を発表した。10大知識産権事例の概要は以下の通り:

事例1.「大头儿子(頭の大きい息子)」著作権侵害事件 (2022)最高法民再44号
 杭州大头儿子文化发展有限公司vs央视动漫集团有限公司
 【委託著作物、法人著作物及び特殊業務用著作物の判断基準、所有権証拠の分析・特定方法を明確化】

事例2.「ED-71製剤」発明特許侵害事件 (2022)最高法知民终905号
 中外製薬株式会社vs温州海鹤药业有限公司
 【2020年特許法改正で導入された医薬品特許リンケージ制度導入後の最初の事件、ZL2005800098777.6の保護範囲の確認】

事例3.「水道事業」市場での支配的地の濫用紛争事件 (2022)最高法知民终395号
 威海宏福置业有限公司vs威海市水务集团有限公司
 【独占禁止法上の支配的地位の濫用が公共サービスに従事する事業者の場合の指針】

事例4.「青花椒」商標権侵害事件 (2021)川知民终2152号
 上海万翠堂餐饮管理有限公司vs温江五阿婆青花椒鱼火锅店
 【識別力の低い文字商標の権利行使、一般語の公正な(説明的)使用の認定基準を明確化】

事例5.「検索エンジン妨害」不正競争事件 (2021)苏05民初1480号
 北京百度网讯科技有限公司(Baidu)vs苏州闪速推网络科技有限公司
 【特定の技術手段を利用し検索エンジンでの検索結果のランキングを妨害、操作する行為はネット利用者の合法的権益の侵害、健全で公平なインターネット秩序を混乱と認定】

事例6.「胖虎打疫苗(太った虎のワクチン接種)」NFTデジタル著作物ネットワーク送信権侵害事件 (2022)浙01民终5272号
 深圳奇策迭出文化创意有限公司vs杭州原与宙科技有限公司
 【ブロックチェーン利用したNFTデジタル著作物の法律的属性、取引モデル、プラットフォームの属性及び責任認定などを明確にし、事業者の注意義務違反を確認】

事例7.「龍井茶」商標権侵害行政処罰不服再審事件 (2022)沪73行终1号
 特威茶餐饮管理(上海)有限公司vs上海市浦东新区知识产权局
 【輸入茶葉に地理的表示の証明商標を付した行為(原産地表示違反)を商標権侵害として行政処罰した事件を正当と確認】

事例8.「都蜜5号(メロン)」植物新品種侵害事件 (2021)琼73知民初24号
 京研益农(寿光)种业科技有限公司vs新疆昌丰农业科技发展有限公司
 【植物新品種権の形式審査合格公告日から新品種権付与日までの仮保護期間での侵害認定】

事例9.「虚偽SNSユーザーインターフェース」不正競争事件 (2020)京0108民初8661号
 深圳市腾讯计算机系统有限公司(テンセント)vs郴州七啸网络科技有限公司など
 【SNSユーザーインターフェースを構成する同一のテンプレートや素材を提供した行為をユーザーに偽造、不正行為のツールを提供し、虚偽、欺瞞を実施するための条件を提供し、信義誠実の原則や商業道徳に違反する「黒灰産(ブラックマーケット、ネット詐欺)」行為で典型的不正競争行為と確認】

事例10.羅某洲、馬某など8名の「Airpods」登録商標偽証刑事事件 (2022)粤03刑终514号
 【デジタル経済環境下では、商標の使用を、商品、商品の包装或いは容器などの有形物に商標を使用することに限らず、商業活動において商品の出所を識別するために使用される行為まで対象を拡大】

2020年中国法院知的財産権50典型事例の内訳は以下の通り:
(1)特許権帰属、侵害事件 2件
(2)商標権侵害、契約事件 11件
(3)著作権帰属、侵害事件 9件
(4)不正競争事件     16件
(5)植物新品種事件    3件
(6)知的財産権行政事件  6件
(7)知的財産権刑事事件  3件

参照サイト:https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-397162.html

【中国】中国法院知的財産権司法保護状況(2022年)、前年比20%減少!

最高人民法院は、4月20日付、記者会見を行い、「中国法院知的財産権司法保護状況(2022年)」と「2022年中国法院知的財産権10大事例と知的財産権50典型事例」を発表した。会見では、知的財産権の①司法保護能力とレベルの向上、②司法保護メカニズムの健全化、③イノベーションの保障による科学技術強国建設、③行政との協同保護強化、⑤国際協力と国際的影響力を拡大について説明しているが、民事第一審の受理件数が前年比20%減少した状況については一切言及はない。行政や刑事での対策が増加していること、賠償額の増加や厳格な処罰が侵害の歯止めになっていることが感じられるが、減少している商標や著作権紛争はインターネット上の侵害が多く、事業者の対策も功を奏していると思料できる。

(1)最高知識産権法廷事件
 2022年最高知識産権法廷の民事事件の受理は3,786件(前年4,243件、▲10.77%)、処理は3,073件(前年3,557件、▲13.61%)とそれぞれ減少した。また、行政事件の受理は1,456件(前年2,852件、▲48.95%)、処理は1,542件(前年2,487件、▲38%)とそれぞれ減少した。

(2)民事訴訟事件
 2022年、地方の各クラス人民法院は民事一審事件を438,480件受理し、前年に比べ11.2万件、▲20.31%減少した。このような減少は初めてである。内訳は下記の通りであるが、商標権侵害事件が1.2万件、▲9.82%減少、著作権侵害事件も10.5万件、▲29.07%と大きな減少となった。特許侵害事件は7千件、+23.25%、不正競争事件も1,000件弱、+11.51%増加している。審決は、第一審457,805 件と前年比▲11.25%減少した。第二審の受理も2,560件と▲5.22%減少、処理は46,563件と+2.41%増加した。

(3)行政訴訟事件
 2022年、地方の各クラス人民法院は行政一審事件を20,634件(前年20,563件)受理し、前年比+0.35%増加した。この内、特許事件は1,876件(前年1,810件、前年比+3.65%)、商標事件は18,738件(前年18,734件、前年比+4件)、著作権事件は12件(前年19件、前年比7件減少)である。処理も17,630件と前年比▲8.85%減少している。第二審の受理は5,897件(前年8,215件、前年比▲28.22%)、処理は結審7,285件(前年7,418件、前年比▲1.79%)である。原審維持率は5,518件(前年5,636件、前年比▲2.1%)と減少したが、全体の構成比では75.74%と増加した。

(4)刑事訴訟事件
 2022年、地方の各クラスの人民法院は刑事一審事件を5,336 件(前年6,276件)受理し、審決5,456 件(前年6,046件)処理し、それぞれ前年比▲14.98%、▲9.76%減少した。その内、登録商標類侵害事件は4,971 件(前年5,869件、前年比▲15.3%)、著作権侵害事件は304件(前年333、前年比▲8.715%)とそれぞれ減少している。第二審の受理も979件(前年1,050件、▲6.76%)、処理は審決977件(前年997件、2.01%)と減少した。

報告書は、2022年度の特徴として、商標と著作権紛争が大きく減少していることに言及はなく、技術類事件数が持続的に上昇し、中西部などでの事件数が多く、江蘇省では技術類の権利帰属と侵害紛争事件1,817件(前年比+17.61%)を受理した。そのほか、海南省、河北省、遼寧省、江西省、湖南省、黒竜江省、新疆生産建設兵団などで前年に+22%から倍増を示している。

参照サイト:https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-397102.html
報告書 https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-397082.html

【中国】「2019年中国知的財産権発展状況評価報告」の公表(9月14日)

国家知識産権局の直属組織である知的財産権発展研究センターは、9月14日付、「2019年中国知的財産権発展状況評価報告」を公表し、報道発表会を行った。本発表は9月15日公示されたものの、全文の掲載公表は9月18日となった。

本報告では、国家知的財産権戦略の実施以来、中国の知的財産権の発展は著しく、イノベーション型国家、知的財産権強国の建設に大きな影響を与えたと説明している。報告書は、大きく国内全体の発展情況、地区ごとの発展情況、発展情況の国際比較の3部からなり、発展指数は2010年の総合及び創造、運用、保護、環境発展指数を100とし、2019年まで各年度の毎の成長を分析している。

2010年から2019年にかけて、中国全体の知的財産権総合発展指数は2.79倍まで徐々に上昇しており、特に創造発展指数は2013年を境に前年平均+5.4%から+15.0%と成長速度が加速している。運用指数は緩やかな+9.9%の成長で、2018年は+28.5%と加速し、10年間で2.3倍増加した。一方、保護指数はずっと上昇傾向で、10年間で3.14倍まで増加し、年平均成長率は13.6%と保護水準は全面的に強化されていることが分かる。

国際比較では、2014年から2018年にかけて、中国は40か国の中で知的財産権発展総合指数ランキングの順位は2014年の20位から、2018年度は日本をトップの100として、67.08の8位に上昇している。

参照サイト:http://www.cnipa.gov.cn/zscqgz/1151418.htm
報告書PDF:http://www.cnipa-ipdrc.org.cn/UpLoad/2020-09/202091892354.pdf

【中国】知的財産権の保護強化に関する意見(11月24日)

7月24日付、習近平総書記が主催した中央全面改革委員会第9回会議で、「知的財産権の保護強化に関する意見(関于強化知識産権保護的意見)が審議・採択された。11月24日に、この意見が発行され、2020年から2022年と2025年までに知的財産制度による保護を完成するための重要な内容、国際的な競争力強化のための方針として明確された。
以下は、その全文に基づき概要を要約でご紹介する。

(1)4つの約束

1.権利侵害懲戒レベルの強化
 特許法、商標法、著作権法、地理的表示などの関連法律を整備するとともに、懲罰的賠償制度の導入、賠償額上限をアップさせる。特に、違法所得の没収、侵害品の処分、行政ルートによる特別プロジェクトによる処分をさらに研究、重点的に実行する。悪意商標登録、非正常特許出願及び悪意訴訟などの行為を規制する。また、営業秘密などのビジネス情報の有効な保護を検討するとともに、刑法などの法律を整備し、刑事処罰を強化する。

2.証拠の標準を厳格に規範化
 知的財産権民事、刑事、行政事件の「三合一」の裁判機構改革をさらに推進、充実させ、裁判基準を統一する。また、行政ルートでの商標や特許審が判断基準を整備する。司法、行政、仲裁、調停などの異なるルートの証拠基準を規範化する。知的財産権民事訴訟証拠規則の司法解釈の制定、公証取得制度の研究などを進めて、権利者の立証困難問題の解決や挙証責任の負担軽減に努力する。

3.事件執行措置の強化
 知的財産権紛争の調停協議の司法確認メカニズムを確立し、健全化する。特に、信用情報での「ブラックリスト」を確立し、権利侵害企業名簿を社会に公開する制度を確立し、信用喪失情報を共同で懲戒するメカニズムを健全化するとともに、知的財産権保護にかかる重大事件の公開審理を段階的に確立し、国内での監督と検査を強化し、統一公平な法治環境の形成を推進する。

4.新業態、新分野の保護制度を確立
 新業態、分野に対して、特許、商標、著作権、植物新種、集積回路配置図設計などの保護を強化するとともに、医薬品特許保護期間延長制度の確立を模索する。スポーツ中継による知的財産権の保護を研究する。電子認証技術の普及・応用を強化する。クロスボーダー商取引での知的財産権保護ルールを研究し、プラットフォームの保護管理基準を制定する。
 企業における知的財産権保護マニュアルを作成し、契約書式見本、権利保全手続きなどの業務指針などを制定し、企業のリスク管理メカニズムや最適化を支援する。また、伝統文化、伝統知識などの分野の保護方法を制定し、漢方薬の知的財産権の保護を強化する。

(2)社会的監督と共同統治を強化し、優れた知的財産保護を確立
5.法執行監督レベルの強化
6.健全な社会統治モデルの確立。
7.専門的技術支援の強化。
 科学技術の研究開発を進めて、オンラインでの追跡、モニタリング、識別、検査システムなど技術的手段を通じて、知的財産権保護を強化する。技術調査官の制度を充実させて、技術事実の正確かつ効率的な認定を推進する。知的財産権侵害の鑑定能力強化し、損害評価制度を検討し、司法鑑定機構の専門化、規範化を強化する。

(3)連携メカニズムの最適化による知的財産権の迅速保護
8.登録確認・維持手続きの最適化
 審査期間の短縮と実用新案と意匠特許の川上での審査品質向上に注力する。重大な権利侵害事件の行政審判で遠隔地での審理利用を進める。行政での権利確認から司法保護まで連携システムで情報の共有や連携を高め効率アップを図る。
9.部門・地域を超えた事件の協働を強化
10.簡単な事件や紛争の迅速処理
 電子商取引などでは実用新案や意匠特許の評価書を有効活用する。ウェブサイトの管理の規範化を進めて侵害等の行為に打撃を与える。
11.知的財産権の迅速処理機関を設立
 重点技術産業集積地域には知識産権保護センターを設立し、迅速な審査、迅速な権利確定、迅速な権利維持をワンストップで提供する。また、紛争解決に調停を活用して紛争の早期解決を図る。

(4)外国と連携を図り、知的財産権保護環境を形成
12.国際的協力関係の強化
 今後国際的な展示会にブースを設けて、中国の知的財産権保護の状況を紹介する。一帯一路の重要な影響を十分利用し、連携国との審査結果などを共有することを進める。
13.内外の権利者とのコミュニケーションチャネルを改善
 内外の関連団体との交流を図り、内外の権利者の懸念事項に積極的に対応する。
14.外国での権利維持支援サービスの強化
 外国での知的財産権紛争警告、知的財産権関連法律改正などの情報サービスの拡充を図り、リスク防止、保険サービスの紹介、外国で中国企業の合法的権益保護支援を図る。
15.外国での協力と情報取得メカニズムを改善
 現地の大使館や領事館との共同により、中国企業の海外知的財産保護環境の改善を促進する。

(5)基礎的プラットフォームを建設し、知的財産権保護活動の支援強化
16.基礎的プラットフォームを設置
 全国知的財産権ビックデータセンターと保護監視情報ネットワークを確立し、登録、公告、紛争処理、事件の概要などの情報に対する統計モニタリングを強化し、プラットフォームの機能を充実させ、民間へのサービスレベル向上を図る。
17.専門人材チームの設置
18.資源投入と支援レベルを強化

(6)組織の実行力強化による業務実施を確保
19.組織の指導力強化
20.徹底的実行
21.評価制度の強化
22.奨励や激励の強化
23.宣伝や誘導の強化

参考サイト:
http://www.cnipa.gov.cn/zscqgz/1143991.htm
http://www.cnipa.gov.cn/zscqgz/1144081.htm

【欧州】EUIPOは2019知的財産侵害現状報告を発行(6月6日)

欧州連合知的財産庁(EUIPO)は、 2019知的財産侵害現状報告(2019 Status Report on IPR Infringement)の作成発行を去る6月6日付そのサイトで公示した。 これは、2018年に発表された「総合報告書( synthesis report )」の第2版と言えるもので、EUIPOとその協力パートナーのアンケートを含む調査結果に基づいている。ヨーロッパの企業、知的財産権侵害の経済的コスト、これらの権利が侵害される方法と経路、そしてこれらの侵害に対応して取られる行動などが分析されているので、欧州での状況を知ることができる。

内容は下記のような項目で整理されている。
1.ECONOMIC CONTRIBUTION AND THE VALUE OF IPR
2.WHY AND HOW ARE IP RIGHTS INFRINGED?
3.CONSEQUENCES OF IPR
4.ACTIONS TO COMBAT IPR INFRINGEMENT
5.CONCLUSION
個人的に内容は目新しいものではないが注目した点は、欧州企業の侵害対策平均的支出の聴取結果をまとめて報告している部分である。中規模企業でも1200-1300万円の経費を毎年かけていると言える。果たして日本企業にそのような予算を立てるのはどれくらいあるだろうか。知的財産担当者様にはこうした支出に経営者の理解を得る難しさがあることは、国際的には疑問、理解できない情況である。この状況は30年以上変わっていない、残念ながら知的財産後進国と言えるかもしれない、もしこうした予算を毎年計上しているようなら是非ご教示くださいm(vv)m。当方の理解を修正します。

参考サイト:
https://euipo.europa.eu/tunnel-web/secure/webdav/guest/document_library/observatory/docs/2019_Status_Report_on_IPR_infringement/2019_Status_Report_on_IPR_infringement_en.pdf

ところで、この報告書の内容的は模倣品対策の状況が報告されているといえる。この内容ならば、2017年EU税関の知的財産権利行使報告 (Report on the EU customs enforcement of intellectual property rights: Results at the EU border, 2017) の方が模倣品対策状況はよく理解することができる。
参考サイト: https://ec.europa.eu/taxation_customs/sites/taxation/files/report_on_eu_customs_enforcement_of_ipr_2017_en.pdf