最高人民法院や各地の高級人民法院は、知的財産週間に合わせて、2019年度の総括や今後の方向性についてのレポートや方針を公示公表している。最高人民法院は、4月21日付、中国法院知識産権司法保護情況(2019)を中国語と英語で発行したので、以下のように概要をご紹介する。これは年次報告書に当たるもので、毎年発行されており、前年度の民事、行政、刑事事件の地方法院での受理と処理状況、傾向や特徴を報告し、法院の課題や方向性に対する解説をしているものであるが、注目は概ね訴訟件数のみになっている。
2019年は中華人民共和国の成立70周年であり、人民法院の5年目の改革要綱が開始された年でもある。近年の法院の傾向としては、知的財産権司法公信力と国際的影響力の向上を目指し、知的財産権裁判制度と裁判能力の現代化を推進し、良好なビジネス環境の創造のために司法サービスの強い保障を標榜している。この一年、人民法院は「司法事件に公正、正義を感じさせる努力」という目標を立てて、公正な司法の堅持、知的財産権裁判での保護革新を積極的に発揮するようにしてきた。2019年に、人民法院は第一審、第二審、再審として、各種知的財産権事件は481,793件を受理、475,853件を処理し、前年比それぞれ+44.16%と+48.87%増加した。
(1)民事事件
2019年、最高人民法院は2504件を受理し、1976件を処理し、前年比+174.26%と+260.07%増加した。地方の各クラス人民法院は民事一審事件を399,031件受理、394,521件処理し、前年比それぞれ+40.79%と+44.02%増加した。内訳は下記の通り。
社会的に影響のある知的財産権民事事件には、厦門ルーカス自動車部品有限公司による発明特許権侵害事件、本田技研工業株式会社による商標権侵害事件などがある。
(2)行政事件
2019年、最高人民法院は1066件受理、884件処理し、前年比+70.83%と+52.15%増加した。地方の各クラス人民法院は行政一審事件を16134件受理し、前年比+19.11%増加した。この内、特許事件は1661件(前年比+8.14%)、商標事件は14457件(前年比+20.6%増)、著作権事件は16件で前年と同じである。第二審は7304件受理、5942件処理し、前年比それぞれ+104.8%と+84.71%増加した。維持率は80.6%。
社会的に影響のある知的財産権行政事件は、サムソン電子、ファーウェイによる無効取消請求事件の行政不服訴訟である。
(3)刑事事件
2019年、地方の各クラスの人民法院は刑事一審事件を5242件受理、前年比+21.37%増加した。その内、登録商標類侵害事件は4982件(前年比+21.1%)、著作権侵害事件は210件(前年比+34.62%)である。
(4)2019年の特徴
・継続的増加傾向
社会全体の知的財産権保護意識の向上と知的財産権司法保護への信頼の着実な向上がある。2019年の新規受理と処理件数は急激に増加し、いずれも歴史的な最高値を更新した。地域的には、北京80,165件、上海23,580件、江蘇20,299件、浙江27,706件、広東15,733件で、合計309,063件は全体の64.15%を占める。
・新たらしいタイプの事件の増加
新技術、新製品、新業態に係る法律問題が増え、インターネット、ビッグデータ、人工知能、標準必須特許、バイオ医薬などの科学技術の先端領域の知的財産権の新しい問題が絶えず出現している。
・保護の持続的に増大
人民法院は「財産権保護制度の法による財産権保護に関する意見」に基づき、損害賠償が知的財産権市場価値に協調し、相応性の賠償の実現に努めた。北京市海淀区人民法院は裁量的賠償計算方式を適用して2000万元の賠償金額を確定し、内モンゴル自治区高級人民法院は商標権侵害事件で賠償額を5万元から100万元に引き上げ、浙江省高級人民法院は商標権侵害及び不正競争事件で800万元の賠償を命じた。このように商標及び不正競争事件の判決においては、懲罰的賠償制度を積極的に採用し、侵害損害賠償額を2倍に引き上げている。
・難解、複雑、新しいタイプ及び社会的に広く注目されている事件で、明確な認定基準、歳晩の候会、短期間での裁定など司法効果を挙げている
・多元的解決
調停で地域を跨ぐすべての事件を一括解決するなど、非訴訟紛争解決メカニズムによる多元的な紛争解決システムを推進し、知的財産権紛争解決効率を高めた。
参照サイト: https://www.chinacourt.org/article/detail/2020/04/id/5049570.shtml