【中国】特許審査指南第9章改正の解説

国家知識産権局は、1月22日付、2020年2月1日より施行される特許審査のガイドライン(「専利審査指南」)第9章の(コンピュータプログラムに係る発明特許出願の審査に関する若干の規定)第6節の新設条項に関する解説を公示した。下記はポイントのみの仮訳である。

参照サイト: http://www.cnipa.gov.cn/zcfg/zcjd/1145668.htm

仮訳
1.改正背景
 人工知能など新業態の特許出願審査規則の必要性から国家知識産権局は新業態新分野の知的財産権保護制度に関する特定テーマの研究を行い、問題点を整理し、審査実務経験をまとめて、速やかに『専利審査指南』回収することとした。今回は関連の特許出願の審査規則を修正し、審査実務における多くの難題を明確化し、さらに特許審査の品質と効率を向上させ、イノベーション駆動の発展を支援するという目標を実現する。

2.改正内容
 「専利審査指南」の第二部分第九章には、第6節「アルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴を含む特許出願の審査に関する規定」が追加され、6.1節「審査基準」、6.2節「審査実例」及び6.3節「明細書及びクレームの作成」がそれぞれ設けられた。今回の改正は具体的事例を引いて、出願の登録客体、新規性と創造性、明細書及び請求項の作成について明確に規定している。

(1)審査基準(第6.1節)
6.1節の「審査基準」部分は審査の一般原則を確立している。
①請求項の全体的な判断原則を強調
 人工知能、「インターネット+」、ビッグデータ及びブロックチェーンなどの発明特許出願において、請求項にはアルゴリズム、ビジネスルール及び方法などの知的活動の規則及び方法の特徴がしばしば含まれる。今回の修正は、審査において、技術的特徴とアルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴を簡単に切り離すべきではなく、請求項に記載されている全ての内容を一つの全体として判断すべきであることを明らかにした。これらの特徴を直接無視したり、技術的特徴と機械的に切り離したりすると、発明の本質的な寄与を客観的に評価することができず、真の発明創造を保護することができない。
②請求項が知的活動のルール及び方法に属するか否かを明確化(第6.1.1節)
 改正は、クレームが抽象的なアルゴリズムまたは単なるビジネスルール及び方法に関連するとともに、いかなる技術的特徴も含まない場合、このクレームは知的活動のルール及び方法に属し、特許権が付与されるべきでないことを明確化した。但し、請求項に技術的特徴が含まれる限り、その請求項は全体として知的活動のルール及び方法ではなく、特許法第25五条第1項(2)号に基づいて特許権を取得する可能性を排除してはならない。
③請求項が技術方案の審査基準に属するか否かを明確化(6.1.2節)
 改正は、客体に関する法律条項の審査順序を明確化した。保護を求める主題については、まず知的活動に該当するか否かルールと方法を審査し、特許法第2条第2項に規定する技術方案に該当するかどうかを審査しなければならない。一つの請求項の技術方案がどうかを判断する場合、その中に関わる技術的手段、解決する技術的課題及び獲得した技術的効果を分析しなければならない。これは「専利審査指南」第二部分第一章第2節に規定する技術方案が解決すべき技術的課題に対して自然法則を利用した技術的手段の集合などの判断原則と一致する。
④進歩性判断における関連する判断原則をさらに明確化(6.1.3節)
 前述の通り、改正後の「専利審査指南」は審査における全体的な判断原則を明確化しており、この原則は新規性と進歩性の判断にも適用される。さらに、進歩性の判断において、「専利審査指南」は、関連する判断原則、すなわち、技術的特徴の機能において相互にサポートし合い、相互に作用関係があるアルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴と、それらの技術的特徴とを一つの全体として判断し、アルゴリズム特徴またはビジネスルール及び方法の特徴を判断して技術方案に寄与すべきことをさらに明確化している。「専利審査指南」は同時に「機能的に相互にサポートし、相互に作用関係がある」という概念を説明し、例を挙げて説明している。ここで、「機能的に相互にサポートし、相互に作用関係がある」と国家知識産権局が2019年の公告328号で「専利審査指南」を改正した第二章第3.2.3.1節の進歩性の判断方法において明確化した「機能的に相互にサポートし、相互に作用関係がある技術的特徴については、保護を求める発明において達成される技術的効果を全体的に判断するべきである」との表現と一致する。

(2)審査事例(第6.2節)
 6.2節は正反対の2つの側面から10個の登録客体と進歩性に関する審査事例を追加した。例1−例6は、登録客体の属否を判断するための審査事例である。例1は抽象的な数学モデルの構築方法であり、特許法第25条第1項第(2)項に規定する知的活動のルールと方法に属する。例2、例3及び例4は、人工知能、ビジネスモデル及びブロックチェーンの分野に属する登録可能な客体あり、例5及び例6は、逆の例になる。例7−例10は、保護する方案が登録客体に属する場合の進歩性の有無を判断する審査事例である。例7及び例9は、進歩性を備える例であり、例8及び例10は、進歩性を備えていない例である。6.2節の審査事例は6.1節の審査原則に対するさらなる解釈であり、これらの実例を理解する場合、その体現している審査理念と法律原則を重点的に理解し、単純に機械的に当てはめてはならない。
 ここでは、一部の例をさらに説明する。
 例7は、マルチセンサ情報に基づく人型ロボットの転倒状態検出方法に関する。その進歩性の判断の完全な考え方について言うと、検索の結果、対比文献1があり、人型ロボットの歩行計画とセンサー情報に基づくフィードバック制御を開示するとともに、関連する統合情報に基づいてロボットの安定性を判断し、そして複数のセンサー情報に基づいて人型ロボットの安定状態の評価を行うことが含まれる。対比においては、対比文献1を最も近い先行技術とし、本願の解決方案と対比文献1の違いは採用されたファジー決定の実現アルゴリズムにある。これに基づき、このアルゴリズム特徴は技術的特徴として、機能的に相互にサポートされ、相互に作用関係がある、すなわち、緊密に結合され、特定の技術的課題を解決するための技術的手段が構成されているかどうかをさらに判断するとともに、対応する技術的効果が得られるかどうか、つまり、技術的な貢献があるかどうかである。肯定的な結論が得られた後、本願が実際に解決する技術課題を決定し、先行技術における示唆があるかどうかを組合せて判断し、このアルゴリズムの特徴を判断する。このファジー決定の実現アルゴリズムとロボットの安定状態への適用を判断すると、他の対比文献には開示がなく、公知常識ではないため、最終的に進歩性が認められる。
 例10は、動的視点変遷可視化方法に関する。その進歩性の判断の完全な考え方について言うと、検索の結果、対比文献1があり、それは感情に基づく可視化分析方法を開示しており、その時間は横軸で表わされ、それぞれの色帯は異なる時間の幅であり感情の度合いを表し、異なる色帯で異なる感情を表している。対比においては、対比文献1を最も近い先行技術とし、本願の解決方案と対比文献1の違いは設定された感情の具体的な分類ルールである。感情の分類ルールが違っても、該当データを着色処理する技術手段は同じであり、変更する必要はないので、上記の感情の分類ルールと具体的な可視化手段は、機能的に相互にサポートし、相互に作用関係があるわけではないため、技術方案に貢献しているわけではない。従って、本願の実際に解決する技術的課題を特定する場合、請求項が対比文献1に対して実際に解決する技術的課題がないことを認定することができ、そして、請求項は進歩性を備えていないという結論を直接導き出すことができる。ここで強調するべきことは、実際に何ら技術的課題を解決しているわけでもなく、請求項自体が技術的課題を解決していないのではない。いわゆる「可視化」の課題は、対比文献1ですでに解決されおり、本願の従来技術に対する貢献は、新しい感情の分類ルールを提案することにある。さらに説明が必要なことは、そのクレームについて、具体的な感情ルールの可視化の課題を解決し、該当データを着色する技術的手段を採用し、人の目の視覚感覚官の自然の属性を利用し、自然法則に則り、動態観点の進化を示す技術的効果を得たので、特許法第2条第2項の規定に適合することを説明する必要がある。
 指摘すべきことは、アルゴリズムに関する特許出願に対して、請求項と最も近い従来技術の適用の場面が同じで、違いがアルゴリズムの調整にのみにある、例えば、同じ無人運転における障害物の識別であり、請求項のアルゴリズムはパラメータと式に対する再選択または調整にあり、その実際に解決する技術的課題が障害物の検出精度をさらに高めることである場合、この課題を解決するための技術的示唆が先行技術に全体的に存在しないならば、請求項は自明ではない。請求項と最も近い先行技術の違いが単に適用のシナリオにあり、進歩性を判断する場合、通常は転用の遠近、難易度、困難な技術の克服する必要性、技術の示唆の有無、転用による技術的効果などの要素を判断する必要がある。

(3)明細書及びクレームの作成(第6.3節)
①明細書作成の基本的な要求を明確化(第6.3.1節)
 アルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴を含む発明特許出願において、第一に、この種の出願の特殊性はアルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴にあるため、明細書にはこれらの特徴が明記されていなければならない。第二に、技術的特徴がどのようにこれらの特徴と「機能的に相互にサポートし合い、相互の作用関係がある」かとともに技術的課題を解決するかを明記する。
 例えば、人工知能の発明特許出願では、その内部動作の特殊性により、発明にアルゴリズムの特徴を含む場合、抽象的なアルゴリズムを具体的な技術分野と結合しなければならず、少なくとも一つの入力パラメータ及び関連する出力結果の定義は技術分野における具体的なデータに対応しなければならないので、ここでの「特定な技術分野と結合」は、どの技術分野が適用されるかを簡単に言及するだけでなく、当業者が確認できるように、その適合プロセスを説明すべきである。第三に、明細書には有益な効果を明記しなければならない。例えば、品質、精度または効率の向上、システム内部性能の改善、必要に応じて、詳しく説明または証明する。第四に、ユーザーの観点から言うと、発明が客観的にユーザー体験を向上させる、すなわちユーザー体験の客観的な向上であるとともに、個人的な主観的な好みではなく、説明書で説明する。同時に、このようなユーザー体験の向上は、発明の技術的特徴を構成すること、そしてその機能上で相互にサポートし合い、相互の作用関係のアルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴によって、どのようにもたらされ、または生成されるかを明記する。
②クレーム作成の基本的な要求を明確化(第6.3.2節)
 アルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴を含む発明特許出願において、クレームは、技術的特徴及び技術的特徴と機能的が相互にサポートし合い、相互の作用関係があるアルゴリズムの特徴またはビジネスルール及び方法の特徴を記載しなければならない。

全体的に言うと、今回の改正は現行の特許法及び実施細則の枠組みの下で、人工知能など新業態の発明特許出願の審査規則に対する細分化であり、イノベーション主体の要求にタイムリーに応え、審査実務における問題点を解決することを目的としている。一方、審査実務における有益な方法を「専利審査指南」に加え、統一的な審査基準を示しながら、この種の出願を作成するためにあるべき明確な指針を提供し、出願の品質向上を促進する。別の面では、これらの出願の特徴に合わせて、技術的特徴及びアルゴリズムまたはビジネスルール及び方法などの知的活動を判断する規則及び方法の特徴を全体的に判断し、発明の技術的貢献を正確に把握することで、絶えず審査品質と審査効率を向上させ、新しい技術分野や新業態の新しいモデルのさらなる発展を推進させる。

以上