中国知識産権局は2018年度の各地の知識産権局が取扱った行政事件から典型事例として10件を抽出し、参考となるべき事例として公示した。以下、判明する事実は確認し加筆、仮訳で紹介する。
http://www.cnipa.gov.cn/zscqgz/1139378.htm
1. | 北京市知識産権局 |
特許 | 発明特許ZL00802685.8 (PCTWO2000/042012) バイエル・コーポレーション(拜耳医药保健有限责任公司) |
名称 | RAFキナーゼ阻害剤としてのω−カルボキシアリール置換ジフェニル尿素 |
事件概要 | 請求人は、某会社が許可なくその公式サイトと展覧会でソラフェニブ及びソラフェニブトルエンの二種類の製品の販売の申出をしており、それは請求人の特許製品名称及びCAS登録番号と全く一致するだけでなく、製造許諾もないことを確認した。そのため、当該被疑侵害品が本件発明特許の請求項1、27、28の保護範囲に入るとして、被疑侵害行為を2018年4月に北京市知的財産権局に投訴した。 北京市知識産権局は2018年7月に審理を終え、係争製品は化学物質ソラフェニブ及びトルエンスルホン酸ソラフェニブであり、いずれも係争特許の請求項1の保護範囲に入るため係争製品の販売の申出は特許侵害構成すると認定し、被疑侵害品のソラフェニブ、トルエンスルホン酸ソラフェニブの販売停止、関連ネットサイトの販売の申出の情報の削除、被疑侵害品の情報が印刷されたすべての宣伝資料の廃棄を命じた。 |
本件意義 | この事件は北京市知識産権局が専門技術辞書を活用し、外部証拠を利用して事件事実を究明する手続きが事件処理効率を高め、専門的な法律執行の標準となっているため、典型事例とされた。また、アメリカの有名製薬企業が請求人であり、中国が知的財産権保護の面で国内外企業に対する平等な対応が一貫していることを示している。公平な市場競争環境と良好な事業環境の醸成に効果があると指摘している。 |
コメント | 北京市知識産権局は専利行政執行弁法にある現地査察による証拠確認を行ったと思われる。一般的に意匠や機械のような分かりやすい事件を対応する地方の知識産権局が化学品に対するアプローチをすることは珍しいいため、アメリカを意識した対応と言える。なお、外国企業に対する平等な対応は2017年に本田技研のスクーターの事件、2018年にキャノンの事件を上海で対応している。 |
2. | 上海市知識産権局 |
特許 | 不明、関連特許6件 上海市桂北高温軸承制造有限公司 |
名称 | 軸受けベアリング |
事件概要 | 2018年7月に某省の知的財産権保護援助センターから上海市桂北高温軸承制造有限公司は特許虚偽表示の製品をネットで販売しているとの投訴事件が上海市知識産権局に移送された。法執行担当者が調査したところ、被疑者がネットで宣伝に使用している特許は年金不払いで既に失効していることが分かった。被疑者の実態調査をするため現場調査をしたところ、ベアリング被疑製品の3種類(大サイズ、中サイズ、小サイズ)パッケージに6件の特許番号が記載されてるが、5件は年金不払いで失効し、1件は未登録の特許出願番号であることが判明した。 上海市知識産権局は、上記の違法事実に基づき、被疑者が特許権終了後も製品パッケージに特許番号表示を継続し、また未登録特許出願番号を特許と表示する行為は、虚偽表示行為を構成する認定した。そして、被疑者の主観的過失及び改心の情状を総合的に考慮し、2018年8月に次のような処罰決定を下した。 1.直ちに失効特許に関するネット宣伝の全てを削除。 2.直ちに失効特許番号の表示行為を停止、未使用パッケージから特許番号表示を削除、削除できない場合は当該パッケージの廃棄。 3.違法所得の没収、併せて18460元(約30万円)の罰金。 被疑者は処罰決定に異議なく、期限通りに履行した。 |
本件意義 | この事件は上海市知識産権局が対応した特許虚偽表示行為に対する処罰で最も高い行政法執行事件である。本件では投訴の移送後も特許番号を虚偽表示した製品のネット販売をやめず、法執行担当者が現場査察したことでより深刻な虚偽表示の実情を確認した。行政が主導的に虚偽表示に対する打撃効果を発揮したのみならず、オンライン及びオフライン特許法執行保護の相乗効果を発揮したことを指摘している。。 |
コメント | 特許番号表示は第三者に対する警告の意味があるため、中国では特許標識表示弁法(2012年)があり、特許法第63条に基づく処罰が引用されてる。是正命令と違反事実の公示、違法所得の没収、違法所得の4倍以下或いは20万元以下の罰金、また刑事告訴が規定されている。日本企業は製品、製品パッケージ、説明書やマニュアルなどを定期的に見直し、適宜修正をすることが肝要である。当職が以前から紹介し提案していることであるが、競合他社や悪意のあるニセモノ業者から投訴を受けた場合、対応に窮することが予想される。 |
3. | 天津市知識産権局 |
特許 | 発明特許ZL201010133416.2 天津市阿波羅信息技術有限公司(日本の関連会社、株式会社アポロジャパン) |
名称 | 情報埋込方法及び情報識別方法 |
事件概要 | 請求人は、天津馳亜信息技術有限公司が本件特許を侵害しているとして、被請求人を天津市知的財産権局に投訴した。天津市知識産権局は立案後、2018年9月6日に口頭審理、11月16日に現場査察で口頭審理での不明な点を確認し、12月11日処罰を下した。 この事件では、被疑侵害者には2つの侵害行為があり、「偽造防止コード」と「製造コードソフトウェアと偽造防止コードデータパッケージ」の販売及び「スクリーンコード認識ペン」の販売である。事件の審理において、合議体は事実に基づいて、当事者双方の弁論から本件争点を下記の3点とした: 1.被疑侵害者の行為は請求人の許諾を得ているか; 2.被疑侵害者の行為が特許権侵害と見なされない条件に該当するか; 3.被疑侵害者の行為が係争特許権の保護範囲に入るか。 天津市知識産権局は審理を経て、合議体は下記のように認定した: 1.被疑侵害者にはその行為が請求人から許諾を得たことを立証する十分な証拠がなく、「偽造防止コード」及び「製造コードソフトウェアと偽造防止コードデータパッケージ」を販売する時に発行した増値税領収書の名称はすべて「スクリーンコード偽造防止製品」である。 2.証拠は請求人が合法的な手段で被疑侵害者から「スクリーンコード識別ペン」を購入し、合理的な対価を支払ったことを証明することができるが、被疑侵害者が「スクリーンコード識別ペン」を販売した行為は特許権侵害とは見做されない行為である。 3.「偽造防止コード」及び「製造コードソフトウェアと偽造防止コードデータパッケージ」を販売する行為は特許権者の許諾を得ておらず、「製造コードソフトウェア」が偽造防止コードを生成する過程は完全に係争特許の請求項1の技術案のすべての技術的特徴を含むため保護範囲に入り、本件発明特許を侵害する。 天津市知識産権局は、被疑侵害者に対して直ちに関連侵害行為の停止を命じる決定を下した。 |
本件意義 | 天津市知識産権局は、本件特許紛争事件を処理する過程で、口頭審査において不明確な事実に対して現場検証を行い、被疑侵害者が合法的に許諾を得たかどうかの正確な判断や被疑特許権侵害行為を確定するとともに、権利消尽状況も精確に把握した。本件での処理は、特許行政の主動性、迅速な対応、専門的な特徴を確認できると指摘している。 |
コメント | この事件は、そもそも201010133416.2;201010267557.3;200710057797.9;200710057798.3の4件が投訴時点では引用され、500万元の損害賠償も請求された。侵害行為の認定と損害賠償について、適宜判断がされたことが典型事例になった理由と思われる。 |
4. | 青海省知識産権局 |
特許 | 発明特許ZL201310524933.6 娄志平 |
名称 | 吊り下げ袋状の高垂直砂防ネット及びその施工方法 |
事件概要 | 請求人は青海緑大生態治沙有限公司に2016年6月8日より2033年10月19日までの独占的実施権を許諾している。請求人は海北緑草生態建設有限公司が事業目的で、某地方の県の環境保護及び林業局が実施する砂漠化防止プロジェクトにおいて、許諾なく本件発明特許技術を実施したことは独占的実施権を侵害したとして、青海省知的財産権局に投訴した。 調査によると、被疑侵害者は2017年10月にそのプロジェクトの入札に応札したが、そのプロジェクトの入札結果は第三者となった。入札規定には明確な技術的要件がない。その後、被疑侵害者は当該第三者と落札したプロジェクトの施工契約を締結し、施工を開始した。被疑侵害者は前述の調査事実を認めたが、施工は第三者の入札施工技術を現場専門技術者の指導と監督管理会社の全面的な監督下施工しており、本事件の侵害主体として権利侵害の責めを負うべきでなく、入札の施工方法及び具体的なデータは本件発明特許の請求項の内容とは異なると主張した。 青海省知的財産権局は被疑侵害者が請負い実施している入札施工技術と本件発明特許の請求項2を対比し、すべての技術的特徴が同一或いは均等との判断し、被疑侵害者が施工している技術方法は本件発明特許の独立請求項2の保護範囲に入ると認定した。被疑侵害者は事業を目的としており、本件発明特許と同一或いは均等の施工方法を実施し、かつ特許権者の許諾も得ていないことから、当該侵害行為はどこから工事方法を得たかに関わらず、被疑侵害者の行為は侵害行為を構成すると認定した。 2018年9月、青海省知識産権局は被疑侵害者に対して、直ちに権利侵害する施工方法の使用の停止を命じた。 |
本件意義 | この事件では、第三者が作成し被疑侵害者が実施した入札施工技術と本件特発明特許の権利保護範囲には実質的に差異がない。しかし、被疑侵害者はこの行政処理段階と後の行政訴訟第一審段階で、砂防技術は第三者が提供したもので、自身には無関係との主張を繰り返し、特許の保護に対する正しい認識が欠如している。被疑侵害者は第二審に控訴後、第一審判決に従うとの理由で控訴を取下げため、青海省高級人民法院は控訴取下げを認めた。本事件では、政府機関と企業は、プロジェクトの入札募集の過程で直面する可能性のある特許侵害リスクに注目するべきであると指摘している。 |
コメント | 最近の地方政府のプロジェクトの入札ではこうした第三者の特許を侵害しないことを保証する或いは侵害した場合の賠償義務を契約書面に明確にすることが多い。また、自社の保有する特許技術リストの提出義務も多くみられるところ。また、日本企業としてはライセンシーがこうした権利行使を求めた場合にどのように対応するかを決めておくことも重要である。 |
5. | 江蘇省知識産権局 |
特許 | 実用新案特許ZL201120006102.6 太陽月亮(北京)新能源科技有限公司(譲渡後の権利者) |
名称 | 都市の水堀駐車場用太陽光発電ユニット |
事件概要 | 請求人は、上海大衆汽車有限公司南京支社が許可を得ずに本件特許の駐車場を建設したのは本件特許権を侵害する、江蘇省知的財産権局に投訴した。 江蘇省知識産権局は立案後、双方当事者とともに現場査察を行い、審理では被疑侵害製品の駐車場は本件実用新案特許の請求項1と比較し、下記の相違点を確認した: 1.被疑侵害品の駐車場には水路が含まれず、本件実用新案特許明細書には水路の機能が「空気の湿度調整、環境美化」と指摘している。 2.被疑侵害品の駐車場の支柱と本件実用新案特許の支柱の位置が異なる。被疑侵害品の駐車場の支柱は地面に設置され水路の両側に設けられていないが、本件実用新案特許の支柱は水路の両側に設けられるため両者の位置関係は異なる。被疑侵害品の駐車場は本件実用新案特許の独立請求項1と比較して、必要な技術的特徴が欠けており保護範囲には含まれない。 そのため、江蘇省知的財産権局は2017年12月26日に請求を却下する決定を下した。請求人は決定に不服で、南京市中級人民法院に行政訴訟を提起した。行政訴訟の審理中に、本件実用新案特許は専利復審委員会で無効が宣告された。2018年7月12日、南京市中級人民法院は原告(請求人)の行政起訴を棄却した。 |
本件意義 | この事件では被疑侵害品が社内の駐車場であるため、請求人は現場に入ることができないため、投訴時点では関連のニュース報道、周辺写真など初歩的証拠しか提供できていない。事件事実を明確にするため、江蘇省知識産権局は立案後に現場査察を行い、証拠を固定するなど法に基づく処理をすることで、当事者の合法的権益を維持し、行政の主導的で速やか保護がされたことが指摘されている。 |
コメント | 行政ルートでの実用新案特許の権利行使は評価書作成がされるべきであり、オールエレメントルールは中国での侵害判断の原則である。投訴前に有効性の確保と証拠の確定は不可欠である。実用新案特許無効審決36159(進歩性違反)、江蘇省での行政事件は確認できなかったが安徽省合肥市での知識産権局の決定に対する行政事件は(2017)皖01行初302号である。 |
6. | 湖南省長沙市知識産権局 |
特許 | 不明、実用新案特許11件 青島集好建筑科技公司 |
名称 | 分割式石膏ボード天井板 |
事件概要 | 請求人は被疑侵害者の某公司(非公開)が被疑侵害品を販売、販売の申出を行っていたため2018年10月に長沙市知的財産権局に投訴した。この事件で、請求人は同時に被疑侵害者の複数の製品がその11件の実用新案特許を侵害すると主張し、公証書付き証拠を提出した。 合議体は、公証書に記載の被疑侵害品が展覧会での展示品であり、場所の制約があるため当該展示品はその完全な状態が分からず、公証書の写真は直接本件実用新案特許の個別の技術的特徴を表していない。石膏ボード天井板は室内の壁と屋根の装飾に多く使われるが、公証書の被疑侵害品には二つの固定部品があるが同じ面ないため、必然的にそれぞれが屋根と壁面と接続して取り付けられる石膏ボード天井板モジュールと識別できる。被疑侵害品の機能からすると、石膏ボード天井板を取付けるために、石膏ボードは複数の竜骨部品と接続する必要があり、本件実用新案特許に記載された複数のモジュールを形成することになる。合議体は被疑侵害品と本件実用新案特許の請求項の技術的特徴を対比し、被疑侵害品は9件の実用新案特許の保護範囲に入ると認定した。 長沙市知識産権局は審理を経て、2018年11月に被疑侵害者は請求人の許諾なく、事業目的で石膏ボード天井板などの販売の申出を行い、請求人の9件の実用新案特許を侵害したと認定し、侵害行為の即時停止を命じた。 |
本件意義 | この事件では、法執行担当者は一連の特許の複数の製品に対する証拠を全面的に取得し、逐一検証し、各実用新案特許に対応する被疑侵害品を正確に抽出することで、侵害判定のために十分な基礎証拠を確保した。同時に、法執行担当者は被疑侵害製品での公知の技術的特徴と被疑侵害製品の特定な使用場所及び機能を結び付けて、合理的な分析を行うとともに、被疑侵害製品のその他の関連技術的特徴を確認して、被疑侵害製品が実用新案特許の保護範囲に入ると認定し、請求者の合法的権益を効果的に維持したことが指摘されている。 |
コメント | 司法ルートでは1提訴1権利であるが、行政ルートでは本件のように複数の権利に基づく投訴を一度に提出できるメリットがある。展示会での証拠の公証取得の場合、対象の特許や意匠と直接対比できるようなアングルで写真を撮影する、或いは現物をサンプル購入するなどの対応を行うことで、引き続きスムーズに侵害判断や侵害主張を進めることができる。 |
7. | 広東省深圳市知識産権局 |
特許 | 意匠特許ZL200730174830.7 艾默生网絡能源有限公司 |
名称 | 空調用コンデンサ |
事件概要 | 請求人は、深圳市英維克科技股份有限公司が生産した二つの空調用コンデンサが意匠特許を侵害して、2015年3月19日に深圳市市場監督管理局龍華分局知的財産権課に投訴した。 事件処理中に、被疑侵害者は専利復審委員会に無効宣言を請求したが、請求人の意匠特許権者は対比文献との顕著な差異があることを主張し、専利復審委員会も有効と判断し維持した。また、請求人は、侵害紛争処理過程でも、本件意匠特許と被疑侵害品の違いは微妙な差異であり、侵害を主張した。 龍華分局は審理を経て、2016年3月25日に請求人が「禁反言」の原則に違反していることを認定するとともに、被疑侵害品は従って、権利侵害を構成しないと認定し、請求人の全ての請求を却下した。請求人はこの決定に不服で、相次いで深圳市中級人民法院、広東省高級人民法院に行政訴訟を提起し、広東省高級人民法院は2018年8月29日に請求人の訴訟請求を却下した。 |
本件意義 | この事件は特許侵害紛争の行政裁決が行政訴訟第二審まで維持された。深圳市市場監督管理局龍華分局の法執行担当者は、請求人が意匠特許無効宣告手続きと行政裁決手続における主張の矛盾を発見し、特許侵害判定において「禁反言」の原則を適用して処理した点を指摘している。 |
コメント | 禁反言は行政ルートでも適用されることに注意が必要である。意匠特許審決27353(有効維持)、深圳市中級人民法院の行政判決は(2016)粤03行初49号である。 |
8. | 山東省菏澤市知識産権局 |
特許 | 意匠特許権ZL201330083980.2 済南三星灯飾有限公司 |
名称 | 街路灯(LED-D133) |
事件概要 | 請求人は、山東富鉑圜景観工程有限公司が許可を得ずに製造販売した製品が本件意匠特許を侵害したとして、菏澤市知識産権局に投訴した。被疑侵害者の製造した街路灯は菏澤市中華路—長江路(人民路)に設置されている。これは菏澤市のプロジェクとして、入札後設置され、設計は某設計院が行っており、被疑侵害者は落札者である。当事者の同意を得て、被疑侵害者の工事区間の現場で対比が行われた。 菏澤市知的財産権局は、被疑侵害品と本件意匠特許はランプヘッドの前部、灯柱、柱下部などに差異があるものの、全体観察、総合的な判断から、これらの差異が全体的視覚効果に対する影響は局部的、微細であると判断した。街路灯の設置・使用環境を結び付けても、この違いは被疑侵害品と本件意匠特許の設計を区別できず、全体的視覚効果において実質的な影響がほとんどないと判断し、被疑侵害品は本件意匠特許の保護範囲に入り、侵害行為が成立するとした。 菏澤市知的財産権局は、2017年12月19日に被疑侵害者に即時の侵害行為停止を命じた。被疑侵害者はこの決定に不服で、済南市中級人民法院に行政訴訟を提起したが、裁判所は2018年5月16日に行政決定を維持する判決を下した。 |
本件意義 | この事件は社会的にも関心が高い政府部門入札での知財問題に関連している。政府部門は入札過程での知的財産権の保護意識を強化し、第三者の知的財産権を侵害しないように配慮するとともに、入札内容にも知的財産権の保護を行うことで資産の流失を避けなければならない。また、入札者は応札時に知的財産権侵害のリスクを確認するべきである。 |
コメント | 前出の4番の典型事例のコメント参照ください。行政決定は鲁菏知处字[2017]第09号、済南市中級人民法院の判決は(2018)鲁01行初47号である。 |
9. | 貴州省安順市知識産権局 |
特許 | 意匠特許2014303280.0(ZL201430328680.0) 肖樹亮 |
名称 | 米袋(黔坝大米) |
事件概要 | 貴州省安順市知識産権局がネット投訴を受けて現場査察を実施したところ、被疑者の黔坝米業有限公司の生産販売する米袋に「本パッケージには意匠特許あり、特許番号2014303280.0、模倣は必ず追及する」との記載があり、調べたところ本件意匠特許は年金未払いで2016年9月5日に失効していることが判明した。 調査によると、2017年10月20日から2018年2月2日までの間に、「黔坝香」ブランドの米袋に1.4万枚のパッケージを使用し、総額は1万元を超える。当該行為は特許の虚偽表示を構成するとして、安順市知的所有権局は2018年3月に以下の行政処罰を科した。 1.米の当該パッケージでの即時停止命令。 2.違法パッケージでの違法所得10896元の没収及び罰金2500元。 |
本件意義 | この事件で安順市知的財産権局は、違法の認定において、特許虚偽表示のパッケージ部分を商品全体から分割することを模索した。日常生活で消費者が米を購入する時、まず米の品質、ブランドなどを考慮して、パッケージは副次的な要素であり、また米の購入は袋と米を分けることができる。本件事件では侵害と処罰と対等の原則に基づき、違法所得を認定する際に、米パッケージと米自体に分けて違法所得の認定を行い、行政処罰を科した説明している。今後の同種の事件での参考となると指摘している。 |
コメント | パッケージに記載された本件意匠特許番号は誤っており、知識産権局は別に調べて確認してから対応している。中国では、模倣品対策にこうした表記をすることは一般的であり、日本企業でも「仿制必究」を記載している場合がある。虚偽表示については前出2番の典型事例のコメントを参照ください。なお、本件の処罰については、「行政処罰法」の「妥当な処罰」の原則に基づき、パッケージと製品自体の価値を分離して算定して、妥当な違法所得認定の認定を受けられることを参考にするべきである。 |
10. | 甘粛省臨夏回族自治州知識産権局 |
特許 | 意匠特許ZL201630395041.5 馬明德 |
名称 | ドア(四) |
事件概要 | 請求人は甘粛省臨夏県の12社の企業と個人が製造販売するドアが本件意匠特許を侵害する疑いがあるとし、青海省知的財産権局(請求人の所在地知的財産権管理部門)に投訴した。2018年9月、甘粛省知的財産権局は青海省知的財産権局から移送を受け、関連管轄原則に基づき臨夏回族自治州知的財産権局に移管した。 本事件では、請求人は意匠特許権評価報告書及び被疑侵害者の現場画像及び現物などの証拠を提供している。法執行担当者は現場全体を観察し、総合的に判断したところ、被疑侵害品と本件意匠特許には一定の違いがあるものの、全体的視覚効果に明らかな違いはなく、両者の違いはドアの常用設計の置換え或いは追加であり、本件意匠特許と全体的な視覚効果は変わらないと判断した。また、被疑侵害者の販売する製品は意匠特許製品と構成が類似しており、侵害すると判定された。 被疑侵害者は特許権侵害と知らされたときに、いずれも「特許法」の関連規定を知らず、権利侵害を知らなかったとして、調停を申出た。2018年11月、臨夏回族自治州知的財産権局の主宰で請求人と被疑侵害者は調停に合意し、侵害品の生産、加工、販売の停止に同意した。 |
本件意義 | この事件の関係者は積極的に行政調停を利用することで、行政調停は簡便で、柔軟性があり、当事者の和解合意の達成、紛争解決に速やかに機能し、特許権者の合法的権益を効果的に維持することが分かる。行政による調停手続きは、この種の集団侵害事件の解決において十分な役割を発揮することを指摘している。 |
コメント | 同種の侵害者が複数ある場合の権利行使には、行政ルートはコストパフォーマンスや短期間の対応に効果があると考える。中国では同業種が特定地方に集まっており、地方ではこの種の侵害行為が考えられる。一方、最近の役割分担の分業侵害の場合、地域を超える活動が多く対象権利や法規が異なるために、各地の知識産権局の協力或いは国家知識産権局の指導が必要と思われる。 |