カナダ知的財産庁(CIPO)は、7月10日付官報で、特許法条約に加盟するために特許法(Patent Act (C-43 and C-59))及び特許規則(Patent Rules 2018)の改正を公示したので、下記の通り、規則改正に基づく手続きの変更などの概要をご案内する。
(1)PCT移行出願
1.1 意図しない移行期限の延期>最先の出願日から42か月まで延長可
国際出願日が2019年10月30日以降のPCT出願で、カナダ移行出願が30か月を超える場合、延期申請と回復費用200カナダドルを支払うことで42か月まで移行を延長できる。 国際出願日が2019年10月30日以前である場合は回復費用を支払うことになる。
1.2 優先権の回復
国際出願日が2019年10月30日以降のPCT出願で、国際段階で優先権が回復された場合、カナダ国内段階でも優先権の回復が可能となる。国際段階で優先権が回復されなかった場合、カナダ国内移行後1か月以内に「意図しない」を理由に回復措置がなされた場合、優先権を回復することができる。
1.3 優先権証明書の提出
国際出願日が2019年10月30日以降のPCT出願で、優先権書類の証明書が国際段階で提出されなかった場合、優先権証明書をカナダ知的財産庁に提出するか、或いは、DASデジタルアクセスサービスで利用可能とされていなければならない。
1.4 出願費用支払いと翻訳文の提出
出願費用と英語或いはフランス語の翻訳文の提出期限に変更はない。
(2)パリ条約移行或いは直接出願
2.1 出願日確保
2019年10月30日以降の出願では、外国語での出願日確保が可能となる。英語或いはフランス語の翻訳文の提出は、カナダ知的財産庁の通知日から2か月以内(延長不可)となり、通知日から3か月以内に出願費用と遅延手数料(150カナダドル)を支払わない場合、放棄したとみなされる。なお、2019年10月30日以降でカナダ知的財産庁が閉庁する土日、祝祭日でも電子出願で出願日を確保することができる。
2.2 2か月の優先権回復期間の導入
出願日が2019年10月30日以降の特許出願について、「意図しない」を理由に優先権の回復措置が可能となり、最先の出願日から14か月以内に限り優先権主張出願が可能となる。なお、カナダ特許日から2か月以内に優先権回復請求を行わなければならない。
2.3 優先権証明書の提出
出願日が2019年10月30日以降の特許出願について、最先の出願日から16か月以内に優先権証明書をカナダ知的財産庁に提出するか、或いは、DASデジタルアクセスサービスで利用可能とされなければならない。提出されていない場合、、カナダ知的財産庁の通知日から2か月以内に対応しなければならない。この期限までに対応していない場合、優先権主張を取下げたものと見做される。
2.4 先の見做し出願の引用
出願日が2019年10月30日以降の特許出願について、出願人は出願日確保のための明細書提出ではなく、先の出願を参照することができる。引用期限は出願から2か月以内(延長不可)である。以前に提出した引用出願から2か月以内に、先に提出した出願のコピーを提出するか、WIPOデジタルアクセスサービスから入手できるようにする必要がある。
2.5 出願の自発追加補正
出願日が2019年10月30日以降の特許出願について、明細書の欠落や図面の追加を2か月以内(延長不可)に行うことができる。
(3)審査
3.1 審査請求期限を4年に短縮
国際出願日或いは出願日が2019年10月30日以降の特許出願について、審査請求期限を5年から4年に短縮する。
3.2 分割出願の審査請求期限も3か月に短縮
分割出願の親出願日が2019年10月30日以前で、分割出願日が2019年10月30日以降の分割特許出願について、親出願日から5年以内または分割出願日から3か月以内に審査請求及び手数料を支払わなければならない。
分割出願の親出願日が2019年10月30日以降の分割特許出願について、親出願日から4年以内または分割出願日から3か月以内に審査請求及び手数料を支払わなければならない。
3.3 審査請求期限徒過による放棄
審査請求期限が2019年10月30日以降の特許出願について、審査請求されず手数料も納付されない場合、カナダ知的財産庁は遅延通知を発行する。当該遅延通知日から2か月以内に審査請求、手数料、遅延手数料が納付されない場合、出願は放棄となる。
3.4 審査応答期限を4か月に短縮
2019年10月30日以降、オフィスアクションの応答期限を6か月から4か月に短縮する。なお、最長審査応答期限の6か月は変更ないため、残存期間の延長は可能である。
(4)認可時の応答期限を4か月に短縮
2019年10月30日以降、認可通知の応答期限を6か月から4か月に短縮する。延長はできない。なお、認可時手数料の超過ページ数から塩基配列リストを対象から除外する。
認可時の明らかなエラーなどを訂正するための審査再開請求が簡素化され、応答期限日前に認可通知の取下げ請求と手数料400カナダドルを支払うことで、追加の審査を求めることができる。なお、従来通り、登録料を納付せずに放棄後に回復措置をした場合の審査再開は明らかなミスの訂正のみに限られる。
(5)年金
2019年10月30日以降、何人も維持年金、登録年金のいずれも納付することができる。
年金が納付されない場合、原納付期限から6か月以内またはカナダ知的財産庁の通知日から2か月以内に当該年金額と遅延手数料(150カナダドル)を支払わない場合、放棄したとみなされる。
(6)その他の改正
6.1 登録後の訂正
従来の特許法第8条に基づく事務的ミスの訂正手続きは、2019年10月30日以降廃止され、以下のような特定な事務的ミスに対する限定的な手続きのみになる。
6.1.1 優先権の訂正
出願日が2019年10月30日以降であるかどうか関わらず、優先件主張日の訂正は正しい優先日から16か月以内であれば訂正できる。優先権主張のその他の項目である国名、官庁名、番号の訂正は認可通知に対する登録料納付前までに訂正できる。
6.1.2 出願人や発明者の訂正
PCT移行出願は、移行出願日から3か月以内或いは譲渡手続き前。PCT移行出願以外は、公報発効前或いは譲渡手続き前までに訂正できる。
6.1.3 特許権者による訂正
特許権者或いは発明者名の誤記及び明細書或いは図面の誤記(当業者に自明で、修正以外の意図がない内容)の訂正は登録日から12か月以内に手数料200カナダドルを支払うことで訂正できる
6.1.4 カナダ知的財産庁のミスの訂正
特許権者、発明者名などの誤記及び明細書或いは図面の誤記(庁内書類から明らかで、修正以外の意図がない内容)の訂正は登録日から12か月以内に手数料なく訂正できる。
6.2 Due Careについて
今回の改正でDue Care(善良な注意義務) が導入され、審査請求期限徒過や特許年金納付期限徒過による回復を請求する出願人或いは特許権者は善良な管理者としての注意義務に違反していないことを示す義務が求められている。つまり、申請時に十分な管理義務を果していたにもかかわらず回復措置をしなければならなくなった事情を記載した供述書を提出しなければならない。
6.3 Unintentionalについて
Unintentional(意図しない)懈怠の回復が導入され、PCT移行出願や優先権主張の回復に適用される。これについての明確な条件は規定されていない。
6.4 第三者の中用権(新設)
出願人或いは特許権者が審査請求や特許年金の納付を逸し、回復措置をした場合、善意の第三者はその事由を基に中用権を主張することができることが明確化された。
6.5 譲渡手続き
旧法化で要求された譲渡契約書の提出は原則不要になり、2019年10月30日以降は出願人或いは特許権者が譲渡手続きを行う場合は、申請書と手数料100カナダドルを支払うことで手続きが可能となる。一方、出願人或いは特許権者以外が譲渡手続きを行う場合は、譲渡契約書或いは譲渡を証明する書類を提出しなければならない。
参考サイト:
https://www.canada.ca/en/intellectual-property-office/news/2019/07/canada-is-modernizing-its-patent-regime-to-implement-the-patent-law-treaty-and-the-new-patent-rules-will-come-into-force-on-october-30-2019.html
特許規則
http://www.gazette.gc.ca/rp-pr/p2/2019/2019-07-10/html/sor-dors251-eng.html
Smart & BiggarほかのNewsletter