【中国】最高知識産権法廷成立5周年、10大影響事件と100典型事例(2月23日)

最高人民法院最高知識産権法廷は、2月23日、記者会見を行い、最高知識産権法廷が成立し5周年を終え、裁判所の判断基準がさらに統一され、裁判の質と効率も向上したとの総括、及び5年間の10大影響事件と100典型事例を発表した。

最高知識産権法廷の設立2019年1月1日以来5年間で技術系知的財産と独占禁止事件を8,924件受理、15,710件結審した。内訳では、特許権権利確認行政事件を3,943件受理、結審2,971件、植物新品種事件を481件受理、結審364件、営業秘密事件を437件受理、結審304件、独占禁止事件受理203件、結審146件などとなっている。また、外国の絡む事件を1,678件受理、1,198件結審し、全体の10%を占め、発明特許権利確認行政事件が約30%となっている。発明特許と営業秘密権利侵害事件での賠償は2,18億元、和解などを含む総額は6.58億元(約131億円)に達している。

 なお、民事再審事件の再審率19.6%、調停率37.0%と最高知識産権法廷設置前より高くなり、行政再審事件の再審率7.1%と同程度である。民行事件の差戻審理率はそれぞれ1.2%、0.15%と大きく減少し、最高知識産権法廷の積極的な活動を反映したといえる。
 一方、同時に発表された10大影響事例と100典型事例は、情報通信、人工知能などの新興科学技術分野から漢方医薬などの伝統技術分野と広く、国内外企業が関わるコア技術で高額賠償事件が増えており、事件の20%以上が外国企業が関与する発明特許、実用新案特許、植物新品種、集積回路レイアウト設計、技術秘密、コンピュータソフトウェアなどで、権利確認行政事件から権利所属、権利侵害を含む民事と刑事が関わる多様な種類の事件であり、裁判、調停、処罰など多様な諸方式が採られている。

〇10大影響事例
1.「メラミン」発明特許権及び営業秘密侵害事件(2020)最高法知民終1559号、(2022)最高法知民終541号
2.「金粳818」水稲植物新品種権侵害事件(2021)最高法知民終816号
3.「自動車ワイパー」の発明特許権侵害事件(2019)最高法知民終2号
4.「漢方薬自動調剤機」の発明特許権無効行政事件(2021)最高法知行終93号
5.中国初医薬品特許リンケージ事件(2022)最高法知民終905号
6.「バニリン(香蘭素)」営業秘密侵害事件(2020)最高法知民終1667号
7.「ゴム老化防止剤」営業秘密侵害事件(2022)最高法知民終816号
8.「Carbopol(卡波)」営業秘密侵害事件(2019)最高法知民終562号
9.「煉瓦協会」水平独占協定事件(2020)最高法知民終1382号
10.「コードレス掃除機」発明特許権侵害事件(2022)最高法知民終189号

〇100典型事例
(1) 科学技術イノベーション奨励事件 23件
(2) 保護レベル強化事件 22件
(3) 公平な競争の維持事件 24件
(4) 外国企業関与事件 18件
(5) 積極的司法実務展開事例 13件

参照サイト:https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2782.html
10大事件 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2784.html
100件事件 https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2785.html
参照事件リスト

【中国】「最高人民法院知的財産権法廷裁判要旨(2023)」の公示(2月23日)

最高人民法院は、2月23日付、「最高人民法院知的財産権法廷裁判要旨(2023)(最高人民法院知识产权法庭裁判要旨摘要(2023))」を公示し、2023年に審理された4,562件の知的財産権の技術類と独占の事件から96件(昨年61件)の重要事例を抽出し、以下の8カテゴリーに104の要旨に分け、各界の研究と参考のために発表した。

(1)特許登録確認事件 (29件)
(2)特許帰属、侵害事件 (29件)
(3)植物新品種事件 (14件)
(4)営業秘密事件 (12件)
(5)独占事件 (9件)
(6)コンピューターソフトウェア事件(4件)
(7)技術類知的財産権契約事件(4件)
(8)訴訟手続き (3件)

参照サイト:https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2788.html
参照事件リスト

【中国】「最高人民法院知識産権法廷2023年度報告」の公示(2月23日)

最高人民法院は、2月23日付、「最高人民法院知識産権法廷年度報告(2023)」を公示した。本年度報告は4部13項目、25頁からなり、概要は以下の通りであるが、最高人民法院の最高知識産権法廷での事件であり、原則、第二審が対象となる。

(1)2023年の処理状況
①2023年の事件数
 2022年の技術類知的財産権と独占事件の受理7,776件(前年6,183件、+25.8%)、内、新規5,062件。審決4,562件(前年3,468件、+31.5%)。裁判官一人当たりの担当件数140.4件(前年142.5件)、また処理件数82.3件(前年79.9件)で2.4件増加している。
②事件内容別内訳
 民事二審は3,222件(前年2,956件、前年比+9%)で、
 発明特許権侵害687件(前年615件、前年比+11.7%)、
 実案特許権侵害1,125件(前年968、前年比+16.2%)、
 特許出願権と権利帰属紛争285件(前年312件)、
 植物新品種権紛争168件(前年144件)、
 集積回路配置設計紛争2件(前年6件)、
 営業秘密紛争113件(前年78件、前年比+44.9%)、
 コンピュータソフトウェア紛争704件(前年648件)、
 契約紛争14件(前年96件)、
 独占紛争25件(前年15件)、
 その他の紛争は99件(前年74件)。全体的に増加している。
 行政二審1,227件(前年877件、前年比+39.9%)は不服再審で、
 特許出願296件(前年241件)、
 実案特許出願46件(前年27件)、
 意匠特許出願7件(前年0件)、
 発明特許権無効365件(前年234件、前年比+55.9%)、
 実案特許権無効330件(前年207件、前年比+59.4%)、
 意匠特許権無効139件(前年84件、前年比+65.5%)、
 植物新品種紛争3件(前年3件)、
 独占行政紛争19件(前年24件)、
 行政処罰などその他の行政事件72件(前年65件)を処理したが、
 特許無効関係が大きく伸び、有効性が一審で決着しないことが増加していることがわかる。
③審理結果
 審決4,562件(前年3,468件)での原審維持2,260件(前年2,040件)、維持率49.5%(前年58.8)、過去5年の平均原審維持率は41.6%である。なお、却下裁定は21.5%であった。民事調停が368件(前年2688件)と大きく増加している。却下再審・改審892件(前年468件)と全体の19.6%を占める。その他は51件(前年66件)。

④外国、香港澳門台湾の関与事件
 第一審の受理490件(前年457件、前年比+7.2%)で全体の9.7%を占め、外国は421件、香港澳門台湾は69件。民事246件(前年274件)、行政244件(前年183件)。結審は391件。なお、過去5年間に1,678件受理し、内、アメリカ31%、ドイツ、フランス、イタリアなどECで36%、日本15%、スイス6%、イギリスと韓国がそれぞれ3%を占めている。

(2)事件の全体的特徴
 ① 権利侵害民事事件は5年連続増加、平均伸び率35.3%。植物新品種の紛争の増加が持続している。
 ② 行政事件が昨年減少したが2023年は大きく増加した、特に発明特許出願不服再審が-47.3%、同無効行政不服再審-17.3%とそれぞれ減少した。
 ③ 戦略的新興産業分野の事件が244件増加し全体の31.3%(前年30.42%)と相変わらず増加傾向である。 
 ④第二審での実質的な判決変更が25.7%と積極的な前審に対する監督業務が進んでいる。

参照サイト:https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2789.html

【中国】最高知識産権法廷による2020年度十大技術類知的財産権典型事例

最高知識産権法廷は、2月26日付、以下の2020年度十大技術類知的財産権典型事例を公示した。これらは今後各法院での参照判例となる。

1.無線通信標準必須特許「禁訴令(訴訟差止命令)」3件
(2019)最高法知民终732、733、734号
 Conversant(康文森)社と華為(Huawei)社の間での無線通信技術に関する標準特許に関する国際的紛争において、華為が南京中級人民法院に非侵害確認訴訟を提起し、一方、Conversant社はデュッセルドルフで侵害訴訟を提起し、中国での第二審中に、ドイツの裁判所が侵害と差止の決定を下し、仮差止を認める判断を下したところ、華為は最高知識産権法廷にConversant社が最高知識産権法廷の判決前に仮差止を申立てない行為保全を申立てた事件で、中国での初めての訴訟差止命令の事件である。

2.「バニリン(Vanillin、香兰素)」営業秘密侵害高額賠償事件
(2020)最高法知民终1667号
 嘉興中華化工社と上海欣晨社が共同開発したグリオキシル酸法によるバニリンの製造プロセスの技術秘密を王龍集団や伝氏など個人が許可なく使用したとして、浙江高級人民法院に提訴した。侵害差止と350万元の賠償命令が下されたが、侵害行為を停止せず、また判決に不服で控訴したことを受けて、最高知識産権法廷は侵害期間や悪質な対応などを総合的に考慮し、過去最高の1.59億元(約25.4億円)の賠償を命じるとともに、刑事事件として移送した。

3.「カーボポール(Carbopol、卡波)」技術秘密侵害懲罰的賠償事件
(2019)最高法知民终562号
 広州天賜社と九江天賜社は自社のカーボポールの製造プロセス技術の技術秘密を安徽紐曼社と華慢氏、劉宏氏など個人が侵害したとして、広州知識産権法院に提訴し、故意侵害と権利侵害の情状を考慮し、首謀者の劉宏氏に2.5倍の懲罰的賠を命じたが、双方が控訴し、最高知識産権法廷は技術秘密の貢献度、処罰賠償を確定する際の被告の主観的悪意の程度や立証妨害行為などを考慮し、懲罰的賠償の上限5倍を適用する判断を下し、被告の安徽紐曼社には前審の5倍の3000万元(技術的貢献度の確定があり金額は同じ)+合理的支出の40万元(4870万円)、劉宏氏にも5倍の3000万元の懲罰的賠償のを命じた。その他の関係者の賠償額は500万元と100万元に維持された。なお、Carbopolは水溶性ビニルポリマーであり、Lubrizol社の登録商標である。

4.NXコンピュータソフトウェア著作権侵害事件
 (2020)最高法知民终155号
 シーメンス(西門子)社のNXソフトウェアは品の設計、エンジニアリング、製造を統合して、製品の品質を向上させるソリューションであり、沃福社が許可なく使用し権利侵害したとして広州知識産権法院に提訴した。証拠保全中に被告が保全措置を妨害したので、侵害停止、法定賠償上限の50万元(800万円)と合理的支出10万元の賠償を命じた。最高知識産権法廷は被告の侵害数、係争ソフトウェア価格、証拠保全での妨害状況などを総合的に考慮し、賠償額261万元(4,200万円)と合理的な支出10万元に判決を改めた。

5.「自撮り棒」実用新案特許の大口権利維持シリーズ事件
 (2020)最高法知民终357、376号
 源德盛社は「自撮り棒」の実用新案特許2014205227290の権利者で全国のメーカーや販売店を相手に大量の特許権侵害訴訟を起こしている。品創社を被告とする事件では広州知識産権法院は被告が侵害製品のメーカーであり、以前の事件後もその製造、販売を続けていることから差止と100万元の賠償を命じ、最高知識産権法廷での控訴審も原審維持とした。一方、源德盛社が晨曦通信部を銀川中級人民法院に提訴した事件では源德盛社が侵害損害額の証拠を提出せず、被告が個人の販売店で経営規模が小さく、侵害額が法定賠償額の下限を下回るという状況から法院は2000元(3.2万円)の賠償を命じたが、源德盛社が不服で控訴したが、最高知識産権法廷は控訴を却下し、原判決を維持した。このように事情に応じて適宜賠償額を確定する方針を示した。

6.「二次リチウムイオン電池」発明特許無効事件
 (2020)最高法知行终406、407号
 アップル上海社、アップル北京社が任暁平と孫杰、保有の発明特許011416157に無効取消をかけた事件で、国家知識産権局では一部を除き有効、北京知識産権法院は明細書のサポートがないことを理由に無効で差戻、特許権者が不服で控訴し、最高知識産権法廷は明細書のサポートがあると判決を戻した。この判決では2つ以上の異なる数値で範囲を限定する請求項が明細書でサポートされているか否かの判断基準を明確にした。

7.「ポータルサイトへのアクセス方法」特許民行合一事件
 (2020)最高法知行终282号、(2019)最高法知民终725号
 敦駿社は、「インターネット事業者のポータルサイトに簡易アクセスする方法」という名称の特許権者で、維盟社と冠峰者が許可なく、その特許権を侵害しているとして泉州中級人民法院に提訴した。泉州法院は冠峰社による合法的出所の抗弁が成立するとして、維盟社に差止と1,000万元の賠償を命じたが、被告は不服で最高知識産権法廷に控訴した。一方、被告は国家知識産権局で無効取消を申立てたが特許権が維持され、行政不服訴訟を起こした。最高知識産権法廷は、上述の同一特許に係る行政、民事控訴事件を統括的に審理し、2020年12月23日に行政二審判決で特許権を維持し、12月30日に民事二審判決で侵害の認定と賠償額を維持した。

8.「リチウム電池保護チップ」集積回路配置設計侵害事件
 (2019)最高法知民终490号
 賽芯社は2012年4月22日に「統合コントローラとスイッチ管の単チップ負極保護リチウム電池保護チップ」という名称の集積回路配置設計を登録し、現在も有効である。賽芯公司は裕昇社及び戸氏など個人が販売するチップは当該集積回路配置設計と実質的に同じで専有権を侵害するとして、深圳中級人民法院に提訴した。法院は設計の独創的な部分が実質的に同一で権利侵害を構成するとして50万元の賠償を命じた。裕昇社及び戸氏など個人などはこれに不服で控訴し、最高知識産権法廷は原判決を維持した。

9.「天猫」逆仮差止事件
 (2020)最高法知民终993号
 博生社は「新型のバレル構造を持つフラットパネルモップクリーナー」の実用新案特許権者で、聯悦社がTmallで販売しているモップがその特許権を侵害しているとして寧波中級人民法院に提訴した。法院は侵害を認定し、天猫社に直ちに被疑侵害品の販売リンクを削除、遮断するよう命じ、天猫社はTmallでのリンクを削除した。聯悦社などは控訴した。第二審中に、係争特実用新案特許権は国家知識産権局により全部無効と宣告された。これを受けて、聯悦社は最高人民法院に行為保全を申立て、天猫社に直ちに聯悦社の製品のTmallでの販売リンクを回復させるよう申立てた。最高知識産権法廷は受理後26時間以内に決定を下し、「固定+動態」担保金の形式(売上高に基づく動的保証)を採用して申立人の保護されるように、その保全申請を支持した。この行為保全の決定が下された後、各当事者は和解に達した。

10.「煉瓦協会」独占事件
 (2020)最高法知民终1382号
 宜賓市煉瓦協会の発起人である呉橋社、四和社、曹氏などは広範にこの煉瓦協会に加入する「生産停止整理契約」を締結することで、煉瓦の供給量を減らし、煉瓦の価格を引き上げ不当な利益を得た。こうした契約を締結した張氏はこのために生産を中止させられたとして、成都中級人民法院に提訴し、競争に参加することを排除されたため独占禁止法に違反し、宜賓市煉瓦協会などによる賠償33.6万元と合理的支出8万元の支払いを申立てた。法院は被訴行為が独占禁止法に違反するとして、連帯賠償33.6万元と合理的支出5000元の支払いを命じた。被告は不服で控訴した。最高知識産権法廷は、張氏は自発的に本件独占協議に参加し、実施者の一人として、当該独占契約の実施による経済損失を賠償を求めることは、実質的に独占利益の分割を要求することであり、独占禁止法による救済の対象に当たらないと判断し、原審判決を破棄し、張氏のすべての訴訟請求を却下した。

参照サイト:http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-288071.html

【中国】最高知識産権法廷2020年度年次報告を公示、63%増加(2月26日)

2月26日付、最高人民法院知識産権法廷は2020年度の年次報告書を公示した。注目するポイントは以下の通り:

1.統計データ
 2020年度に第二審の最高知識産権法廷が受理した技術関連知的財産事件は3,176件と前年に1,231件増加し、対前年比+63%増、審決は2,787件と前年に1,354件増加し、対前年比+95%増加した。結審率は76%(前年係属512件を含む)である。引き続き高い増加率を示している。
 受理内訳は、民事事件が986件増加し1,948件と前年比+102%、行政事件は429件増加し670件と前年比78%と行政事件の増加が目立っている。
 処理内訳は、民事事件が1,156件増加し1,742件と前年比+197%、行政事件は352件増加し494件と前年比+248%である。平均審理期間は、民事二審は121.5日、行政二審は130.7日と4か月強となっている。裁判官一人当たり82.5件を担当しており、前年比+73%増加している。
 民事事件の新規受理内訳は、発明特許権侵害435件、実用新案特許権侵害754件、特許出願権及び特許権帰属163件、コンピュータソフトウェア360件、技術契約67件、営業秘密44件、植物新品種40件、独占30件、集積回路配置設計5件、その他50件であり、権利帰属紛争は前年度の9件から163件に急増した。前記の営業秘密以下の紛争はいずれも昨年より増加した。
 一方、行政事件の新規受理内訳は、権利確定審判事件が622件、行政による処理事件が17件、その他の行政案件が31件である。権利確定審判事件の内訳では、特許出願却下再審226件、実用新案特許出願却下再審18件、意匠特許出願却下再審2件と出願関係が全体の39.5%を占める。発明特許権無効175件、実用新案特許権無効149件、意匠特許権無効52件。これらは対前年比+178%増であり、特に意匠特許無効事件は前年度の13件から52件に増加した。
 裁判結果の審決2,787件の内訳は、原審維持1,667件(59.8%)、控訴却下539件、調停158件、再審や改審405件、その他18件である。さらに、この内民事事件1,742件の内訳は、原審維持779件、控訴却下463件、調停158件、再審や改審339件、その他3件である。また行政事件494件の内訳は、原審維持430件、控訴却下22件、再審や改審39件、その他3件である。
 なお、外国、台湾、香港、マカオが関係する事件については、受理376件と全体の12%、前年比+116%増で、民事288件、行政148件であり、審決は281件全体の10%、前年比+187%増で、民事185件、行政96件であった。

2.特徴
 2020年の全体的特徴としては、全体的に2倍増の急激な増加がみられ、行政事件は約3倍の勢いとなっている。そして、新しい技術分野や新業態の事件の受理が比較的多く、戦略的新興産業の事件が478件(受理比13%)で、この内訳は新世代情報276件、バイオ医薬94件、ハイエンド装備50件、省エネ・環境保護33件、新材料21件、新エネルギー3件、新エネルギー自動車1件である。こうした事件は、先端技術から日常の衣食住に関わるものまであり、国や業界の基準関連、有名な企業や製品に関連するなど社会的影響が大きく、注目度が高いために、裁判放映の平均視聴数は1.9万回以上で、視聴数が10万回を超える事件が47件あった。事件審理の特徴としては、民事事件では立証の困難な事件が多く、証拠保全、現場検証などの立証の緩和措置が採られ、立証妨害に対する責任の判断などがある。行政事件では公知の常識や常用設計などの認定に対する合理的な立証や説明を行政機関に求める判断が目立っている。
2.1特許民事事件の特徴
 ①実用新案特許権侵害の全体での構成比が2019年の47%から38%に下がった。
 ②特許出願権及び特許権の帰属に関する紛争数が2019年の9件から163件に急増した。主に職務発明、営業秘密、技術契約の法律問題に関連しており、企業の特許権の権益保護と従業員の職業選択の自由との間の複雑な課題が露呈している。
 ③特許侵害大口一括事件が2020年下半期は大幅に124件から40件に減少し、裁判所の関連措置が効果を奏した。裁判所はこうした事件に対して、合議体が「法に基づき合理的に規制し、源流管理を奨励し、商習慣を尊重し、信義誠実の原則」という司法政策を確立し、賠償基準の差別化、賠償額の精緻化を通じて、権利者の遡及権を積極的に導き、権利濫用を防止する関連措置を積極的な行った。
 ④複雑な技術的事実を明らかしなければならない事件が増加し、侵害判断、公知技術の抗弁などに関し、裁判所は積極的に当事者に補助専門家の招聘や技術調査官の参加で対応している。
 ⑤地方行政機関が公共サービスを展開する中で権利侵害行為に関与し、民事訴訟の共同被告となる場合も多い。
2.2 特許行政事件の特徴
 ①広範な技術分野に及んでおり、特に発明特許に関し、意匠は少ない。技術分野は機械、電気、通信、医薬、化学、光電、材料などの分野で概ね全分野である。特許出願拒絶査定不服と特許権無効裁定不服事件は401件と全体の65%を占める。
 ②争点は進歩性と新規性が全体の90%以上を占めるが、進歩性が主である。その他は、明細書の開示、クレームのサポート、補正違反などである。
 ③再審と改審事件が増加し39件と、構成比率8%と前年比倍増している。
 ④控訴者は主に特許権者と特許出願人である。特許権者、特許出願人による控訴事件は377件と全体の84.9%を占める。無効宣言控訴事件での請求者による事件は44件と同9.9%を占める。国家知識産権局による控訴事件は30件と同6.8%を占める。

参照サイト:http://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-288081.html

【中国】最高知識産権法廷は最初の事件に判断を下した(3月27日)

最高人民法院副院長で知識産権法廷長の羅東川裁判長は、最高知識産権法廷設立後最初の事件として、2019年3月27日午前、上海知識産権法廷の上訴事件であり、上訴人の厦門卢卡斯汽車配件有限公司(アモイルーカス自動車部品有限会社(以下、厦門ルーカス))、厦門富可自動車部品有限会社(以下、富可)と上訴人で原告のフランスのVALEO SYSTEMES D’ESSUYAGE (以下、VALEO)、及び原審被告の陳少強による発明特許権侵害事件の審理を行った。本件では、2月15日に5人の合議体がすでに構成されており、審理では合議体が侵害品は対象特許の保護範囲に入ることを認定し、厦門ルーカス、富可は特許権侵害を構成するとして、法廷で判決を言渡すとともに、第一審判決の維持し、厦門ルーカスと富可の上訴を棄却した。

本件は、VALEOが上海知識産権法院に保有する中国特許ZL200610160549.2(名称:自動車用ワイパーコネクタ及び対応接続装置)を侵害するとして、厦門ルーカス、富可の製造、販売、販売の申し出、及び陳少強の製造、販売したワイパーの製品も保護範囲に含まれるとして、それぞれの侵害行為の停止、損害賠償及び合理的支出の600万元の支払いを求めた事件で、併せて、仮差止(行為保全)命令も請求したものである。

上海知識産権法院は2019年1月22日に部分的な判决を下し、侵害行為の停止を命じ、仮差止については判断を下さなかった。厦門ルーカス、富可はこれを不服として、最高知識産権法院に上訴し、この部分的判決の取消を請求した。

最高知識産権法院は、被疑侵害品は対象特許の請求項1の全てのエレメントを備えており、特許の保護範囲に入ると認定し、上訴人の行為は侵害を構成するため、侵害停止の法律責任を受けるべきであるとの判決を下した。仮差止については、本件判決は即時的な効果があるため、それを支持しないと判断した。

https://www.chinacourt.org/article/detail/2019/03/id/3804099.shtml