【中国】2023年特許復審無効10大事件(4月26日)

国家知識産権局(CNIPA)は、4月26日、2023年の特許出願の再審(復審)と特許権無効の10大事件を公示した。復審で発明特許1件、無効で発明特許7件、実用新案特許1件、意匠特許1件を取り上げ、遺伝子工学、リチウムイオン電子、学際的テーマなどの先端的な技術分野での標準必須特許、抵触判断、優先権主張の認定、AIの発明者認定の是非などの問題を取り上げている。

1.「制御信号送信方法と装置」発明特許201110269715.3(華為技術有限公司)無効事件
 本件特許は通信分野の標準必須特許(SEP)に関し、進歩性の判断における請求項に関する技術的特徴の全体的な判断と従来技術の組合せの示唆の判断に典型的な意義がある。結果は有効維持。審決第562606号、請求人:小米通訊技術有限公司

2.「安全なリチウムイオン電池ユニット及び安全リチウムイオン電池パック」発明特許200610072849.5(首天恩経営管理有限責任公司)無効事件
 本件特許はパラメータに特徴のあるリチウム電池分野の特許明細書の開示要件で技術的効果や技術的手段が十分に開示されているか否かを判断するために模範的な役割を果たしている。結果は、無効取消。審決563221、請求人:深圳市比克電池有限公司

3.「ポリウレタン研磨パッド」発明特許201410448504.X(Rohm And Haas Electronic Materials CMP Holdings, Inc.ほか)無効事件
 本件特許は化学的分野と機械的分野の交差によるイノベーション成果に属し、化学調合成分及び物理的性能パラメータの特徴で限定された機械製品の請求項で、それら及びその他の特徴との間には相互作用がない場合、総合的に考慮する必要はなく明細書の開示内容に基づき特許の保護範囲を客観的に認定できることを確認したことに意味がある。従来技術に対応する技術的示唆がなく進歩性があると判断した。結果は、有効維持。審決564483、請求人:王某氏

4.「活性成分を放出制御できる分割可能なガレヌス製剤」発明特許200810213769.6(French Servier Pharmaceuticals)無効事件
 本件特許では当事者が補足的に提出する実験データを提出が問題となり、証拠提出責任、証拠の形式的要件と実体的要件である真実性、関連性、証明力などの複数の観点から審査する証拠規則を説明し、従来技術の否定的記述が技術的示唆の判断の障害となるかどうかの判断の指針を提供した。結果は、無効取消。審決59745、請求人:劉某氏

5.「配列操作のためのシステム、方法及び最適化された指導組成物のエンジニアリング」発明特許201380070567.X(Broad Instituteほか)無効事件
 本件特許ではPCT出願の出願人の一部が譲渡により変更された場合の優先権主張の判断に係り、後の出願人が優先権を享受できるかどうか判断基準を示した。結果は、無効取消。審決563732、請求人:ToolGen, Incorporated(KR)

6.「ポリ(アリーレンエーテル)共重合体」発明特許200680046261.0(High-tech Special Engineering Plastics Global Technology Co., Ltd.)無効事件
 本件では化学分野のパラメータの特徴が従来技術に開示されているか否かを判断するための典型例を示すとともに、無効手続きで特許権者の意見をどのように考慮するかについて示した。結果は、有効維持。審決560904、請求人:河北健馨生物科技有限公司

7.「複合装飾パネル」実用新案特許201920768950.7(譚校鋒)無効事件
 本件には関連侵害訴訟があり、有効な判決で確認された証拠がある場合、その事実を覆すに十分な反証が必要であるという司法解釈を適用し、無効審判での当該有効な判決で確認された事実をどのように判断するか、また覆す基準をどのように判断するかを明らかにする模範的な意義がある。結果は、無効取消。審決563521、請求人:梁某氏

8.「高速ダウンリンクパケットアクセスのための追加変調情報シグナリング」発明特許200780048958.6(Nokia Technologies Ltd.)無効事件
 本件特許では優先権を確認するときの「先願が後願と同一の主題を実質的かつ明確に記載しているか否か」の判断に関し、特許審査指南の関連規定に基づき優先権の基礎となる先の出願における技術的事実の記載の程度で満足すべき明確な記載の要件を確認した。結果は、無効取消。審決56283、請求人:OPPO広東移動通信有限公司

9.「スポーツシューズ」意匠特許201930327108.5(喬丹体育股份有限公司)無効事件
 本件意匠特許ではかかと部分にある係争意匠設計がロゴの役割を果たしているかどうかが焦点となる先行商標との抵触の判断要素と判断方法に関し、係争意匠は、客観的に商品の出所を識別する効果はなく、識別的使用ではなく装飾的使用であり、関係公衆に先行商標と混同させることはないと指摘した。結果は、有効維持。審決563861、請求人:Puma Europe GMBH

10.「食物容器と注意力喚起装置と方法」発明特許出願201980006158.0(DABUS, Stephen L. Taylor)拒絶査定再審請求事件
 本件特許の出願は、発明者をAIのDABUSとして、アメリカ、イギリス、EUなどで相次いで特許出願しており、AIが発明者名足りうるかである。再審決定は民法典の人格権の基本原則に基づき、公民としての民事主体のみが発明者としての民事上の権利の所有者となることができると中国で初めての判断を下したことに意義がある。結果は、拒絶査定有効維持。審決1373038

参照サイト:https://www.cnipa.gov.cn/art/2024/4/26/art_3382_4.html

【中国】 2021年度特許無効10大事件の公示(4月26日)

国家知識産権局(CNIPA)は、4月26日付、2021年度特許無効10大事件を公示した。その概要は以下の通り:

1.名称:新規のスルホンアミド系化合物とそのエンドセリン受容体拮抗剤としての応用
 特許番号:発明特許ZL01820481.3
 特許権者:Eckert Rhein Pharmaceuticals Ltd.
 無効申立人:南京正大天晴製薬有限公司
 結論:補正後有効維持
 要旨:薬品化合物審判の典型的な事例で、優先性の認定、形態素化合物の十分な開示の判断、化合物の進歩性の判断の例示となる。

2.名称: 置換多環式カルバモイルピリドン誘導体のプロドラッグ
 特許番号:発明特許ZL201180056716.8
 特許権者:塩野義製薬株式会社
 無効申立人: 劉奕彤
 結論:有効維持
 要旨: 明細書に記述される技術的効果を正しく評価し、マーカシュクレームが明細書によりサポートされ得るかどうかの判断の例示となる。

3.名称: 画像取得によるネットワーク接続を取得するためのデータ伝送方法及びそのシステム
 特許番号:発明特許ZL201010523284.4
 特許権者:上海科斗電子科技有限公司
 無効申立人: 掌閲科技股份有限公司
 結論:無効
 要旨:当事者がその請求を撤回しても審理手続きが終了しない法律規定に対する解釈において特許権者と社会公衆の利益を合理的にバランスさせる判断の例示となる。

4.名称: 左心耳閉塞器
 特許番号:発明特許ZL201310567987.0
 特許権者:先健科技(深圳)有限公司
 無効申立人: 蔡景莉
 結論:無効
 要旨: 新規性グレース期間の適用を解釈した決定で、特許権者は他人が自分の同意なしに技術内容を開示したことを知った場合、必要な申告を速やかに履行する義務があるとの判断の例示となる。

5.名称: 軸流ファン
 特許番号:発明特許ZL200710026747.4
 特許権者:広東美的制冷設備有限公司
 無効申立人: 珠海格力電器股份有限公司
 結論:無効
 要旨: 一方が委託した鑑定書の証拠能力の判定とパラメータ定義のある製品クレームと公開証拠を用いた技術対比に対する判断の例示となる。

6.名称: イメージセンサCS3825C
 集積回路配置設計登録番号:BS.175539928
 特許権者:珠海市矽旺半導体有限公司
 無効申立人: 深圳市芯智鋭光电科技有限公司
 結論:有効維持
 要旨: 専有権保護対象、独創的な審理範囲、申請登録期限の判断の例示となる。

7.名称:計器ケース
 特許番号:意匠特許ZL201030122941.5
 特許権者:福建順昌虹潤精密儀器有限公司
 無効申立人: 厦門希科自動化科技有限公司
 結論:無効
 要旨:判断主体である「一般消費者」が持つべき知識レベルと認知能力を明示し、各設計の特徴が全体的視覚効果に及ぼす異なる影響のレベルの判断の例示となる。

8.名称: 防爆装置
 特許番号:実用新案特許ZL201521112402.7
 特許権者:寧徳時代新能源科技股份有限公司
 無効申立人:東莞塔菲爾新能源科技有限公司ほか
 結論:補正後有効維持
 要旨: 新エネルギー分野における構造類製品の創造性判断の典型例で、技術的示唆があるかどうかを判断する際に区別特徴間の関係に注目する必要があることの判断の例示となる。

9.名称: キノリン誘導体による潜在性結核治療薬
 特許番号:発明特許ZL201210507318.X
 特許権者:Jensen Pharmaceutical Co., Ltd.
 無効申立人: 王立群
 結論:補正後有効維持
 要旨:医薬用途発明の進歩性の判断において、「成功合理的な期待」があるかどうかを正確に評価すべきであることことの判断の例示となる。

10.名称: 給排水用のライブジョイント
 特許番号:実用新案特許ZL201920390483.9
 特許権者:浙江天雁控股有限公司
 無効申立人:孟祥麟 
 結論:有効維持
 要旨:優先権の証拠を確認するとき、本国優先権文書の立証責任の分担と取得ルートの判断の例示となる。

参照サイト:https://www.cnipa.gov.cn/art/2022/4/26/art_53_175222.html

【中国】 2021年度中国特許無効宣言分析(2月10日)

中国の知財専門誌の「中国知識産権」(www.chinaipmagazine.com)のSNS版に2月10日に掲載された2021年度特許無効宣言事件の分析報告を当方の視点から整理し以下の通りご紹介する。国家知識産権局の審決データベースに公示された無効宣告審決を統計分析した結果である。

1.2021年特許無効宣言事件の特徴
・実用新案特許の事件が最も多く2,294件(43.8%)、次いで意匠特許、発明特許の順である。
・対象特許の存続年数は、2年目(1142件、21.8%)、3年目(915件、17.5%)が中心である。
・技術分野の上位は、医学、通信、電気であり、意匠は包装容器、ランプである。
・審理期間の中心は6~7か月(47%)である。
・審決結果すべて無効の事件は48.7%、発明特許31.6%、実用新案特許48.9%、意匠特許58.4%である。
・発明特許と実用新案特許ですべて無効とされた理由は主に進歩性であり、意匠特許では新規性と創作性である。

2.無効対象特許種別事件構成比
国家知識産権局専利復審と無効審理部は、2021年に復審無効データベースに特許無効宣告請求の審決5,240件を掲載している。この内、実用新案特許は2,294件(43.8%)、意匠特許は1,867件(35.6%)、発明特許は1,079件(20.6%)と、実用新案特許が最も多い結果である。
 参考までに、2020年と2019年の件数は以下の通り:
 2020年 発明特許1604 実案特許2987 意匠特許2553
 2019年 発明特許1406 実案特許2234 意匠特許1687

3.無効審理結果
無効対象は発明特許1,079 件、実用新案特許 2,294 件、意匠特許 1 867 件で無効率はそれぞれ 31.6% 、 48.9% 、 58.4%を占め る。 意匠特許の 一部無効はないが 無効率 は比較的 高い と言える 。 発明特許の有効は 44.8% と適切な審査が行われているのか、比較的厳しい進歩性判断にも対応しているように思われる。

4.無効宣告審理期間
審理期間は国家知識産権局の無効請求受理日から無効審決発送日までの期間とした。審理
期間が最も短いのは2-3 か月で35 件あるが、7 か月27%、6 か月が20%と多く、概ね現在は、
無効取消審理期間を6~7 か月(47%)と言える。審査期間が15 か月以上と長い事件があるが、20 か月以上の理由は事件の一括処理、関連事件、請求項が多い事件、特許権譲渡事件、保全や行政訴訟のからむ事件、あるいは行政訴訟再審事件に関連する事件であることが理由となっている。

5.実用新案特許無効理由分析
無効と審決された1,121 件の無効理由を分析する 進歩性違反が発明特許同様に 82% を占めている。新規性関連で15% あるので、公知引用文献の選定が重要になることが分かる。実施可能要件違反を無効理由に活用することにも注目できる。

上記は抜粋情報のため、詳細情報が必要な場合はご連絡ください。

【欧州】ポルシェ911共同体意匠無効確定(2019年6月6日)

欧州司法裁判所(ECJ)は、ポルシェによる欧州連合知的財産庁(EUIPO)が下したボルシェの共同体意匠登録No.198387-0001(2007.7.4)及び、No. 1230593-0001 (2010.8.20)に AUTEC社の無効請求(2014.7.8)を認めた審決No.9642及びNo.9640(2016.5.10)に再審請求し、審判部が下した却下裁定No.R945及びR941(2018.1.19)対する不服行政訴訟において却下する判決 (CJEU, EU:T:2019:380、377)を下した。

この事件は、ポルシェ社がPorsche911シリーズの複数のモデルに意匠権を引き続き取得しているために、ドイツの玩具メーカーであるAUTEC社がこうした意匠権に対する高額なライセンス料の負担から逃れるために起こした無効請求から始まっている。大きなポイントはポルシェ自身の先登録意匠により新しいモデルに対する意匠権がそれぞれ無効となったことである。

ポルシェ社はAUTEC社の共同体意匠規則No 6/2002の条項25(1)(b)に基づく無効主張に対して、条項6(1)の独自性について、本件意匠は異なる全体的印象をその情報に通じた使用者に与えているため独自性があると主張したが、その主張は裏目に出て失敗に終わった。
 欧州司法裁判所は登録性にかかる独自性に関わる、その情報に通じた使用者(informed user)、創作者の自由度(freedom of the designer)、及び全体的印象(overall impression as a whole)について検討した。
 使用者については、ポルシェ社の主張するポルシェ911の使用者ではなく、一般の乗用車(Passenger car)であるとして、その情報をポルシェ911に特化して使用者を特定し、ポルシェ911シリーズの個別のモデルの違いを見極めることまでは要求されない。例えば、その情報に通じた使用者は商標でいう平均的消費者(Average Consumer)と当業者(skilled person)の間に位置し、一定程度の製品に対する知見が平均的消費者よりあると理解できると判断している。なお、意匠分類や意匠名称まで踏み込んで使用者について解釈している点には注意が必要であろう。
 創作者の自由度については、全体的印象に影響を及ぼすものであるが、従来の意匠設計を改良するのみならず、一から創作する上でも自由度の解釈の対象としなければならない。また、単なる意匠設計上の制約だけでなく、技術的制約や安全面などの法律的制約も自由度の範疇に考えなくてはならない。本件ではポルシェ911という高級車のシリーズとして、大きな変化を自由度として組み込むことは難しく、市場の期待度や象徴となるような設計で小さい差異で十分であるとポルシェ社は主張し、本件意匠ではヘッドランプ、リアランプ、バックミラーといった点がそれに該当し、ポルシェ911シリーズの各モデルの小さな差異が使用者に全体的印象として違いを印象づけるのに十分であると主張した。しかし、裁判所は市場の期待度や象徴となるような設計である必要はなく、自由度とは創作者が新しい形態や線、或いは何か新しいものを現在のトレンドとして創造することで許され、技術的機能による先行意匠との差異までは要求せず、製品の特性や使用される目的や機能から全体的印象に違いがあるとの印象を生じさせることにあると解釈している。
 全体的印象は、使用者に生じる印象であるが、個別の先行意匠の全体的印象を比較されなければならず、全体的な印象の比較は総合的でなければならず、単純に類似点と相違点のリストの分析比較だけに限定することはできない。メーカーがコストを理由に絶えず新しいモデルを開発するよりはモデルの指向性を出すことを好んでおり、知見のある使用者はこれうしたメーカーの意向や動向を知っている。従って、そうしたモデルチェンジでは個別のモデルの特徴を放棄することなく、一般的なトレンドを取り入れる手法が採用され、一部の部品だけに新たな創作が適用される。全体的印象として、この種の製品の意匠の本質的な特徴は非常に似通った一般的構造であるボディの形状によって支配されており、それは形状やシルエットにおいてだいたい同じで、ドアや窓などが全体的な印象に大きな影響を及ぼすのは小さいと考えられるとしている

このような方向性は少し揺り戻しの感があるが、総じて全体手印象はその情報に通じた利用者と創作者の自由度により変化するものであるが、「その情報に通じた」の解釈がリラックスするとこのような判断結果になることは理解できる。今後の意匠権のポートフォリオ構築において、ヨーロッパでは少し方向性を考え直す必要に迫られると言える。なお、欧州では著作権による個別の権利行使が可能である状況もあるので、意匠の有効性判断と侵害問題を同一視することはできない。ご参考まで。

参照先:各判決文 http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf;jsessionid=16A2CA5013B37096911581BE68BEBB1B?text=&docid=214767&pageIndex=0&doclang=de&mode=req&dir=&occ=first&part=1&cid=8637944

http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf;jsessionid=16A2CA5013B37096911581BE68BEBB1B?text=&docid=214771&pageIndex=0&doclang=de&mode=req&dir=&occ=first&part=1&cid=8637944