【中国】上海法院2022年知的財産権10大事例(4月25日)

上海高級人民法院は、4月25日に記者会見を行い、「2022年上海法院知識産権裁判白書」及び「上海知的財産権法院知的財産権司法保護状況(2022)」を公表するとともに、上海法院の「2022年度知的財産権10大事例」と「知的財産権保護レベル強化典型事例」を発表した。2022年に上海市の裁判所が受理した知的財産権訴訟事件は42,150件、審決42,763件と前年比▲20.9%、▲12.9%それぞれ減少した。一審受理事件のうち、特許、コンピュータソフトウェア、営業秘密などの技術系事件が4,288件と98.8%を占めており、半導体チップ、新材料などの重点分野や重要なコア技術に関する事件が少なくない。また、懲罰的賠償請求事件が22件受理され、15件が処理された。

●2022年知的財産権10大事例

事例1:動的GUI意匠特許侵害事件 (2019)沪73民初399号
 北京金山安全软件有限公司vs上海触宝信息技术有限公司ほか
 【原告は保有する意匠特許ZL201830455426.5、「移動通信端末用グラフィカルユーザーインターフェイス」を被告ソフトウェアの動的GUIが侵害したと提訴、裁判所は動的GUIにおいて最初のインタフェース全体設計とその動的変化の全ての変化過程が全体的視覚効果に及ぼす差異の程度を同時に考慮すると両者の全体的視覚効果に実質的差異がない、一方、製造販売行為が実質的な侵害行為と認定し、侵害の停止、35万元の損害賠償を命令。】

事例2:“十万个为什么(10万のなぜ)”商標権侵害及び不正競争事件 (2020)沪0107民初2585号、(2021)沪73民终600号
 上海少年儿童出版社有限公司vs四川天地出版社有限公司ほか
 【原告の「十万のなぜ」は1961年に出版されて以来、現在まで続く一連の児童科学図書で高い知名度があり、その商標権(17085619)取得後、被告の同一名や類似名称の図書出版物、ウェブサイトでの使用を商標権侵害と不正競争で提訴、裁判所は、「十万のなぜ」は問答式の図書の一般名ではなく長期の使用による知名度と識別力があり他人の使用は誤認混同が生じると商標権侵害を認定、被告のその使用は同業者として誤認混同惹起、他人の商品の固有の名称を無断で使用する不正競争行為を構成するとし、侵害停止、影響の除去、60万元の損害賠償を命令。控訴は原審維持。】

事例3:“天地华宇(天地華宇)” 商標権侵害及び不正競争事件 (2019)沪73民初401号、(2021)沪民终269号
 上海华振物流有限公司ほかvs天地华宇集团有限公司ほか
 【原告は「天地华宇」に36類の物流をカバーする登録商標4707630などを保有し、2007年には一定の知名度があるところ、2008年に無錫市に物流会社として設立された被告は2017年からグループ会社含め社名に「天地华宇」含めるように変更し、SNSやウェブサイトで当該商標を使用しているとして提訴、裁判所は商標権侵害と不正競争行為(同じ名称の使用)を認定し、侵害停止、企業名称の変更、影響の除去、60万元の損害賠償を命令。争点は、共同被告の一つが実際に社名を使用していない事実があり、二審ではその発生のリスクを認定した。】

事例4:“琅琊榜(狼牙榜、Nirvana in Fire)”密室ゲーム著作権侵害及び不正競争事件 (2021)沪0110民初17435号
 东阳正午阳光影视有限公司vs北京叁零壹文化传播有限公司ほか
 【原告は、人気のある原本小説の作家の許諾のもとにゲーム及び派生作品の開発の独占的権利を保有し、被告の提供する「狼牙榜の権謀天下」と題する密室ゲームは著作物を改変したもので、かつ商品名として一定の知名度のある「狼牙榜」を大量に宣伝などで使用しているとして提訴、裁判所は被告ゲームのストーリーはオリジナルから離れているがゲームで展開されるプロセスは改変にあり、「狼牙榜」は高い知名度と栄誉を持ち一定の影響を持つ商品名と認定し、侵害停止、105万元の損害賠償を命令。共同被告のプラットフォーム事業者は非侵害判断。】

事例5:外国貿易顧客情報営業秘密侵害事件 (2020)沪0104民初2330号、(2021)沪73民终805号
 容重实业(上海)有限公司vs上海路漫实业有限公司など
 【原告は2015年からドミニカ、パキスタンなどの顧客と金属材料の輸出入業務に従事しており、顧客ごとの理引き条件や仕様を「Top Secret」と記載し管理するとともに従業員にも守秘義務を課している。被告は同社の外販部に勤務後退社し、妻と被告会社を設立し、 前出顧客と取引を行っていた。これを知った原告は当該顧客情報の使用が営業秘密侵害を構成するとして提訴、一審裁判所は当該ビジネス情報が営業秘密であること、被告在職中に営業秘密を取得したことを認定し、侵害停止と475万元の損害賠償を命令。二審では顧客開拓過程の事実認定となったが立証不十分で一審判決維持。】

事例6:“支付宝(AliPay)”携帯アプリに注意喚起戦略不正競争事件 (2020)沪0115民初87715号、(2021)沪73民终852号
 支付宝(中国)网络技术有限公司vs江苏斑马软件技术有限公司
 【原告の決済アプリは大きな利用者と取引量があり携帯電話で利用されている。被告のアプリはアップルiOSで動作する携帯電話にインストールされると、利用者のECサイト出決済時に被告の決済アプリにジャンプするかどうか確認するポップアップが割り込み表示され、そのまま開くを選択すると被告サイトでの決済を実現する。原告は利用者から苦情、協力事業者から安全性の警告を受けたことから不正競争行為と提訴、裁判所は携帯アプリの正確な運用の慣行、アプリ決済機能の事業モデルの妨害、無秩序の決済スキームの導入による利便性や安全性に深刻な影響があり、利用者だけでなく公共の利益にも損害が及ぶと認定し、影響の除去、48.5万元の損害賠償を命令。控訴棄却。なお、本件では訴訟前仮差止が認められている。】

事例7:中国サッカースーパーリーグ写真独占使用許諾での市場での支配的地位の濫用事件 (2020)沪73知民初736号、(2021)最高法知民终1790号
 体娱(北京)文化传媒股份有限公司vs中超联赛有限责任公司、上海映脉文化传播有限公司
 【中国サッカー協会からスーパーリーグの無形資産の開発運営の委託を受けた被告の中超联赛社は中国スーパーリーグ公式画像協力機構の運営者の公開入札を行い、上海映脉社が落札し、同機構の名称の使用権や撮影した画像の独占権を獲得した。原告は応札したが失注した。その後、リーグの写真の使用者や報道機会などの使用に制限が発表され、商業的使用が難しくなったため、原告は被告の市場での支配的地位を濫用し市場の競争を排除し、原告及びその他の取引相手の合法的利益を損害したとして提訴、裁判所は入札による参入障壁の不存在、上海映脉社の民事権益などに合理的理由があり、市場に対して排除または制限競争の効果を生んだ証拠がないとして、提訴棄却。二審では市場シェアから支配的地位にあることは認定したものの、一審判決維持、控訴棄却。】

事例8:“龙井茶(龍井茶)”地理表示商標侵害行政処罰不服事件 (2021)沪0115行初399号、(2022)沪73行终1号
 特威茶餐饮管理(上海)有限公司vs上海市浦东新区知识产权局
 【第三者の浙江省農業技術普及センターは「龙井茶Longjing Tea」の登録証明商標5612284を30類に保有している。原告は、シンガポールから茶葉を輸入し、「盛玺龙井茶」や「龙井茶」をパッケージに無断で表示し国内で販売した。被告知識産権局は商標法57条2項に該当する侵害行為として、侵害停止、侵害品没収、54.5万元の罰金を科した。行政不服再審も処分を維持したため、被告は取消を求めて提訴。裁判所は、原告の立証不十分、被告の処分は合法的として請求棄却。控訴棄却。】

事例9:レーザー加工海賊版ソフトウェア販売による著作権侵害刑事事件 (2022)沪0112刑初577号
 被告 王某氏
 【上海柏楚電子科技股份有限公司が販売するレーザー切断ソフトウェア(CypNest)の海賊版を第三者から入手し、当該ソフトを複製しTaobaoやWeChatを通じて34.4万元売上げた。公安局は逮捕、被告も犯罪事実を認めた、当該ソフトウェアの鑑定をしたところ90%以上の類似度があり、告訴した。裁判所は、著作権侵害罪を認定したが、被告が自白するなどの贖罪の行動が見られるため処罰を軽減し、懲役3年、罰金20万元、被害者への賠償を命令。本件ではソフトウェアプログラムの実質的な類似で比較方法、複製比率、除外事項に基づく判定である。】

事例10:中芯国际公司の営業秘密侵害刑事事件 (2022)沪03刑初67号
 被告:周某某氏
 【被告は中芯国際集成電路制造(上海)有限公司の従業員であり、労働契約や秘密保持契約に違反し、会社のプロセスセンサー半導体回路技術情報を持ち出した。被告は逮捕され、告訴された。裁判所は、被告は会社との約定に違反し、不正な手段で営業秘密を入手し、重大な損害を与えた営業秘密侵害罪を認定したが、被告が自発的に供述したことを自首と判断したため処罰を軽減し、懲役1年、執行猶予1年、罰金6万元を科し、関連機材を没収。】

●2022年上海法院知的財産権保護レベル強化典型事例
事例1:“怡宝”商標権侵害と不正競争事件 (2020)沪73民初787号、(2022)沪民终73号
 华润怡宝饮料(中国)有限公司vs上海洁士宝日化集团有限公司
事例2:“百强家具”商標権侵害と不正競争事件 (2018)沪73民初515号、(2020)沪民终256号
 北京世纪百强家具有限责任公司vs上海朗聚实业有限公司ほか 
事例3:“威乐”商標権侵害と不正競争事件 (2019)沪0104民初19337号、(2021)沪73民终744号
 威乐(中国)水泵系统有限公司vs威乐水泵(上海)有限公司
事例4:“华为”商標権侵害事件 (2022)沪0116民初11663号
 华为技术有限公司vs暨奢服饰(上海)有限公司
事例5:“N”標識模倣商品不正競争事件 (2017)沪0115民初1798号、(2020)沪73民终327号
 新百伦贸易(中国)有限公司vs纽巴伦(中国)有限公司、赵某某
事例6:假冒“美心”模倣月餅登録商標侵害刑事事件 (2021)沪03刑初113号、(2021)沪刑终122号
 被告:庄某某など
事例7:児童書の海賊版製造販売による著作権侵害刑事事件 (2021)沪0110刑初517号
 被告:张某某など
事例8:従業員の転職による生産ライン図面営業秘密侵害刑事事件 (2021)沪03刑初167号
 被告:黄山富田精工智造有限公司、方某某など
事例9  北京冬季五輪関連番組の著作権侵害提訴前仮差止事件 (2022)沪0115行保1号
 央视国际网络有限公司vs珠海创嗨新网络科技有限公司
事例10 “剧本杀(殺人ミステリー)”商標権侵害の提訴前仮差止事件 (2021)沪0107行保1号
 湖南快乐阳光互动娱乐传媒有限公司vs上海新革文化传播有限公司ほか

参照サイト:上海高級人民法院

【中国】最高人民法院は「新時代の知的財産権審判業務の意見」を公布(10月29日)

最高人民法院は、10月29日に新聞発表会を開催し、9月24日作成された司法意見、「最高人民法院による新時代の知的財産権審判業務を強化し、強大な知的財産権国家の建設のために強力な司法サービスと保障を提供することに関する意見(最高人民法院关于加强新时代知识产权审判工作为知识产权强国建设提供有力司法服务和保障的意见)」(法発(2021)29号)を発表した。

この意見は、政府が「十四五(第14次5五か年)計画」と「知的財産権強国建設要綱(2021-2035年)」による中国の知的財産権事業の今後の15年の発展に向け、公平で効率的、科学的管轄、明確な権限、完備したシステムによる知的財産権の司法保護制度に改善することを明確に出したことを受け、政府の知的財産権強国建設に関する重大な方策・配置を徹底させるため、最高人民法院は十分な調査と幅広い意見募集を基礎に、人民法院の実務と結びつけて、本意見を制定したものである。

意見では、新発展段階に立脚し、新発展理念を貫徹し、新発展パターンを構築し、高品質の発展を推進する高度な戦略から出発し、「知的財産権保護はイノベーションを保護すること」の理念を堅持し、新時代の知的財産権司法保護のニーズと社会的関心に積極的に応え、業務業務に対する要求、公正な司法、効率の向上、改革の推進について、4分野20施策をまとめており、新時代の知的財産権審判の全面的な強化を行うとしている。その概要は以下の通り:

1.「国之大者(国家における大事なもの)」を念頭に、新時代の知的財産権審判の全体的な要求を強化(3項目)
 人民法院は新時代の知的財産権審判のあり方を理解し、司法保護体制の改善と審理に対する責任感と使命感を強化し、「すべての司法事件で国民が公平・公正を感じられるよう努力する」という目標を持って、人民利益至上主義、厳格平等な保護の堅持、公正合理的保護の堅持、相互協力の堅持、社会的公平公正と知的財産権者の合法的権益の確保を着実に行う。

2.法により9分野の事件を公正かつ効率的に審理し、知的財産権審判職能の十分な発揮(9項目)
 知的財産権司法保護強化分野を科学技術のイノベーション成果、著作権と隣接権、商標、新分野の知的財産権、農業の科学技術成果、漢方医薬の知的財産権、営業秘密、独占禁止と不正競争防止、科学技術イノベーション主体の合法的な権益など9分野とし、審判職能を十分に発揮し、イノベーションと創造の活力を支援する。

3.知的財産権司法保護全体の機能を向上させ、イノベーションと創造のために法治環境の構築(5項目)
 法による懲罰賠償の適用した損害賠償と処罰の強化、虚偽訴訟や悪意訴訟などに対する規制を強化、知的財産権濫用の防止などによる信義誠実のメカニズム建設を推進する。知的財産権紛争解決に行政調停、行政と司法の連携強化などに改善する。国際的な知的財産権紛争での影響力を強化し、国内外の当事者の合法的権益の平等な保護環境の構築、国際影響力の向上、国際的訴訟優先地の構築など影響力を強化する。法治宣伝教育や法治環境を構築する。

4.知的財産権審判のイノベーションの推進、審判メカニズムと能力の現代化を推進(3項目)
 高レベルに専門化した審判メカニズム、審判チーム設置による専門家や国際化の推進及び情報技術を活用したインテリジェンス裁判所の建設を強化する。

参照サイト:http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-329181.html

【中国】最高人民法院によるインターネットネット知的財産権侵害紛争での法律問題の回答の施行(2020年9月14日)

最高人民法院は、9月12日付、6月に意見募集した「最高人民法院によるインターネットでの知的財産権侵害紛争に関するいくつかの法律適用問題に対する回答(最高人民法院关于涉网络知识产权侵权纠纷几个法律适用问题的批复)」(法釈2020-9号)が2020年8月24日に最高人民法院審判委員会第1810回会議を通過したことを9月12付公示し、9月14日から施行した。

本回答は全6項目からなり、知的財産権者、インターネット事業者や経営者の事件対応に対する判断基準を示している。

仮訳
最高人民法院によるインターネットでの知的財産権侵害紛争に関するいくつかの法律適用問題に対する回答(法釈2020-9号)
各省、自治区、直轄市高級人民法院、解放軍軍事法院、新疆ウイグル自治区高級人民法院生産建設兵団分院:
最近、一部の高級人民法院がインターネットでの知的財産権侵害紛争に関連する法律適用に関するいくつかの問題について本院に指示を求めた。研究の結果、以下のように回答した。

1.知的財産権権利者がその権利が侵害されたと主張するとともに保全申立を提出し、ネットワークサービス事業者、電子商取引プラットフォーム経営者に速やかに削除、遮蔽、リンク遮断などの掲載取下げ措置を講じるよう要求した場合、人民法院は法により審査するとともに裁定を下さなければならない。
2.インターネットサービス事業者、電子商取引プラットフォーム経営者は知的財産権者が法に基づき発信した通知を受領後、速やかに権利者の通知を関連インターネット利用者、プラットフォーム内経営者に転送するとともに、権利侵害を構成する初歩的証拠とサービスのタイプに基づき必要な措置を講じなければならない。必要な措置を講じなかった場合、権利者がインターネットサービス事業者、電子商取引プラットフォーム経営者が損害の拡大部分に対してインターネット利用者或いは電子商取引プラットフォーム内の経営者と連帯責任を負うことを主張した場合、人民法院は法によりこれを支持することができる。
3.法により転送された権利侵害行為不存在の声明が知的財産権利者に到達後の合理的な期限内に、インターネットサービス事業者、電子商取引プラットフォーム経営者は権利者からすでに投訴或いは訴訟起訴の通知をまだ受け取っていない場合、速やかに削除、遮蔽、リンク遮断などの掲載取下げ措置を講じなければならない。公証、認証手続きなど権利者が制御できない特殊事情による遅延は、上記の期限に算入しない。但し、当該期間は最長20営業日を超えない。
4.悪意のある声明が提出され電子商取引プラットフォーム経営者が必要な措置を中止するとともに、知的財産権権利者に損害をもたらし、権利者が関連法律の規定に基づき相応の懲罰的賠償を申立てた場合、人民法院は法によりこれを支持することができる。
5.知的財産権利者が発信した通知内容は客観的事実と一致しないが、但しその訴訟中に当該通知が善意によるものと免責申立を主張するとともに立証できる場合、人民法院は法により審査し事実確認後これを支持しなければならない。
6.本回答を出した時に未終結の事件には、本回答を適用する。本回答が出された時に既に審理が終了している場合、当事者は再審申立或いは審判監督手続き従う再審決定事件に本回答は適用しない。

参照サイト:http://www.court.gov.cn/fabu-xiangqing-254921.html