【中国】「特許紛争行政裁決と調停弁法」公示(2025年2月1日施行)

国家知識産権局(CNIPA)は、7月に意見募集を実施した、「特許紛争行政裁決と調停弁法(专利纠纷行政裁决和调解办法)」を12月13日の第7回局務会議で決定し、12月30日に公示(局令第81号)した。2025年2月1日に施行する。

2023年9月、国家知識産権局、司法部は、「新時代の特許侵害紛糾行政裁決業務の強化に関する意見」を公示し、法治保障の強化、法定職責の厳格な履行、事件処理の強化、支援システムの整備などの面から特許侵害紛糾行政裁決を具体的に整備した。2024年4月に、国家知識産権局は8部門と共同で「知的財産権保護システム構築プロジェクト実施計画の通知」を公示し、特許、著作権の行政裁決の規範化の構築強化の必要性を指摘した。こうした背景から起草された弁法である。

本弁法は意見募集稿に1条追加、2条削除、43条ほど修正し、以下の通り、5章85条からなる。
 第一章 総則   第1~11条
 第二章 行政裁決 第12~62条
  第1節 事件処理手順
  第2節 権利侵害判断
  第3節 証拠
  第4節 重大特許権侵害紛争の行政裁決
  第5節 医薬品特許紛争の早期解決メカニズムの行政裁決
 第三章 行政調停 第63~79条
  第1節 調停手続き
  第2節 実体基準
 第四章 法的責任 第80~82条
 第五章 附則   第83~85条

 行政裁決では一般的な権利侵害に加え、重大な特許権侵害紛争、医薬品特許紛争の早期解決メカニズム及び特許開放許諾実施紛争を含む。意見募集稿では、「重大特許侵害紛争行政裁決弁法」と「医薬品特許紛争早期解決メカニズム行政裁決弁法」が、付則に廃止されるの記載があったが、削除されてはいるものの事実上、参照されない。
 行政調停では、特許出願権と特許権帰属紛争、発明者と創作者の資格紛争、職務発明創造の発明者と創作者の奨励と報酬紛争、発明特許出願公開による賠償請求権紛争、及びその他の特許紛争が対象となる。
 その他、新たな送達手段、オンライン口頭審理、特許業務管理部門、関係当事者、技術調査官、合議体、技術鑑定などの規定に加え、行政裁決申立ての資格、法定期限(時効3年)、合併審理などが明確にされている。

参照サイト:https://www.cnipa.gov.cn/art/2024/12/30/art_74_196968.html
仮訳

【中国】「特許紛争行政裁決モデル典型事例」第2弾(11月1日)

国家知識産権局(CNIPA)は、11月1日付け、9月27日に省レベルの知識産権局と司法局に通知した「国家知的財産権局弁公室、司法部弁公庁による全国特許侵害紛争行政裁決建設の典型的な経験的事例の紹介に関する通知」(国知弁発保字〔2022〕51号)公示した。この公示では、14次5か年計画で推進している特許紛争の行政裁決に関して、地方政府が推進している行政裁決のための施策やその成功モデルを事例を紹介しており、2021年2月の紹介に続く第2弾である。

今回紹介された成功モデルは以下の通りであるが、行政裁決のプロセス、技術調査官の活用、裁判所による裁決内容の確認に重点を置き、行政裁決手続きの短縮化、品質の向上を狙ったものとなっている。
1.北京市:行政裁決の「開廷前尋問、書面審理、法廷裁決」による迅速高効率モデルを構築
2.河北省石家荘市:行政裁決の集中送達+監督管理適用+裁決結果管理の改革的運用
3.遼寧省:行政裁決関連条項を地方条例に組入れ、行政調停‐行政裁定‐司法確認を構築
4.上海市:行政裁決の簡素化と「三位一体(行政裁決-行政調停-司法確認)」メカニズムを構築
5.江蘇省省:行政裁決のための標準的トレーニングシステムを構築による処理能力の向上
6.江蘇省南京市:行政裁決事件の多様な受付ホットラインでの円滑な処理を構築
7.浙江省:「インターネット+」での行政裁決の立案から裁定までの全面的なデジタルシステムによる運用
8.安徽省:責任部署と品質審査の規範化を組合せた行政裁決制度の建設
9.山東省泰安市:行政裁決の3レベル分業連動処理メカニズムを構築
10.湖北省:「四位一体(任務+連携+手続き+支援)」行政裁決政策協同メカニズムを構築
11.湖南省:122の地区に行政裁決権限を分散する試行を推進
12.広東省広州市:行政裁決の書面審理(書面質疑+裁決前告知)メカニズムによる審理の短縮化を確立
13.重慶市:「迅速調停(2021年特許侵害調停573件)」+「迅速判断(ガイドライン作成)」+「集中見直(技術調査官の活用)」の3レベル行政裁決モデルを構築

参照サイト:http://www.cnipa.gov.cn/art/2022/11/1/art_75_180064.html

【中国】医薬品特許行政裁決事件の公表(8月19日)

国家知識産権局(CNIPA)は、8月19日付、5月から7月に裁定が出された医薬品特許行政裁決事件の結果を23件公表した。

事件番号対象特許/薬剤請求人被請求人結果裁定日
(2021)国知药裁0009号
(2021)国知药裁0010号
(2021)国知药裁0011号
201410468293.6(抗血液凝固剤)
エドキサバントシレート錠
第一三共株式会社南京正大天晴制药有限公司侵害6月30日
(2021)国知药裁0012号
(2021)国知药裁0013号
200580044703.3(線維性疾患治療薬)
ニンテダニブエトサルフェート軟膏
ベリンガー・インゲルハイム江苏豪森药业集团有限公司非侵害5月31日
(2021)国知药裁0018号
(2021)国知药裁0019号
(2021)国知药裁0020号
200580033600.7(抗炎症薬)
注射用カーフィルゾミブ
アムジェンバイオファーマ(上海)有限公司江苏豪森药业集团有限公司侵害5月27日
(2021)国知药裁0031号
(2021)国知药裁0032号
(2021)国知药裁0033号
201080051819.0(腫瘍治療薬)
ニロチニブカプセル
ノバルティス苏州特瑞药业股份有限公司取下5月30日
(2021)国知药裁0036号
(2021)国知药裁0037号
(2021)国知药裁0038号
(2021)国知药裁0039号
(2021)国知药裁0040号
(2021)国知药裁0041号
200480011401.1(免疫抑制剤)
トシリズマブ(遺伝子組換え)注射液
中外製薬株式会社百奥泰生物制药股份有限公司取下7月26日
(2022)国知药裁0003号200880016902.7(糖尿病治療薬)
ダパグリフロジン錠
アストラゼネカ(スウェーデン)四川国为制药有限公司取下8月8日
(2022)国知药裁0006号200380102889.4(頻尿治療薬)
ミラベグロン徐放錠
アステラス製薬株式会社齐鲁制药有限公司特許無効5月30日
(2022)国知药裁0007号201210201489.X(糖尿病治療薬)
ダパグリフロジン錠
アストラゼネカ(スウェーデン)四川国为制药有限公司取下8月8日
(2022)国知药裁0010号02821212.6(気管支喘息薬)
モンテルカスト顆粒
メルク・フロスト・カナダ江苏万高药业股份有限公司侵害7月8日
(2022)国知药裁0013号200380102889.4(頻尿治療薬)
ミラベグロン徐放錠
アステラス製薬株式会社石药集团中诺药业(石家庄)有限公司特許無効5月30日
(2022)国知药裁0015号200880118789.3(癌治療薬)
マレイン酸ネラチニブ錠
美狮生物制药公司上海创诺制药有限公司却下7月11日

技術的に了解していないため詳細は記載しませんので各裁定書でご確認ください。今後は特に注目する事案以外はこの種の裁定結果を掲載しません。なお、CNIPAの裁定書のリンク先が安定したため接続しましたが、安全性にはご留意ください(8月23日)。

【中国】「重大特許紛争事件」の初の行政裁決を公示(8月5日)

国家知識産権局(CNIPA)は、8月5日付、改正特許法70条に新設された「全国的に重大な影響を与える特許侵害紛争」に基づく初めての行政事件の裁決が2件下されたことを公示した。

特許法 第70条第1項
 国務院専利行政部門は、特許権者或いは利害関係者の申立により、全国的に重大な影響を与える特許侵害紛争を処理することができる。

重大な特許権侵害紛争行政裁決弁法
第3 条 以下に掲げる情況いずれかがある場合、重大な特許権侵害紛争に属する:
(1)重大な公共利益に及ぼす場合;
(2)業界の発展に深刻な影響がある場合;
(3)省クラスの行政区域を跨ぐ重大な事件;
(4)その他の重大な影響を及ぼす可能性のある特許権侵害紛争。
第22 条 国家知識産権局が特許権侵害紛争を処理する場合、立案日を起算して3 か月以内に事件を結審しなければならない。事件が複雑或いはその他の原因により、規定期限内に事件を結審できない場合、承認を経て、1 か月延長することができる。(以下省略)

公示された裁決は国知保裁字[2021]1号と2号で、対象特許はドイツのベーリンガーインゲルハイム社が保有する発明特許ZL 2015102999950.X(8-[3-アミノ-ピペリジン-1-イル]-キサンチン、その製造方法および医薬品としての使用)、被請求人は広東東陽光薬業有限公司と宜昌東陽光長江薬業股份有限公司で、被請求人の複数の地区でのインターネットによる販売の申し出が受理条件に適合するかどうか、特許法でいう権利侵害の例外の条件に適合するかどうかなどが審理対象となり、受理日は2021年11月5日であるが、無効取消請求などの経緯があり、最終的に法定期限内に審決が下された。なお、対象の医薬品はジェネリック薬として申請がされていた(H2020324)。

裁決書によると、2つの事件は対象特許や被疑侵害行為の対象が同じであり、無効取消請求も起こされていたことから合併審理がなされ、対象特許有効、被申立人による製造、販売、販売の申し出は侵害行為になるとして、侵害停止の裁定が下された。インターネットの掲載は既に削除されていた。損害賠償などの言及はない。

参照サイト:http://www.cnipa.gov.cn/art/2022/8/5/art_53_177018.html


【中国】最初の医薬品特許行政裁決事件の公表(4月25日)

国家知識産権局(CNIPA)は、4月25日付、国家知的財産権局医薬品特許紛争早期解決メカニズム行政裁決初回審決事件(国家知识产权局审结首批药品专利纠纷早期解决机制行政裁决案件)を公表した。

初回の対象特許は、アメリカのPurdue Pharma社の 次の2件と
ZL201210135209.X オピオイド鎮痛薬を含む不正開封防止経口剤形
ZL201510599477.0 オピオイド鎮痛薬の固形経口徐放性剤形
ルクセンブルクのEuropean Celtic社の次の1件
ZL201010151552.4 25ppm未満の14-ヒドロキシコデイノンを含む塩酸オキシコドンを調製方法

Purdue Pharma社の特許はオキシコドン塩酸塩徐放性錠剤に関し、宜昌人福薬業有限責任会社のジェネリック薬が当該特許権の保護範囲に入ることの確認を申立て、CNIPAの合議体は審理を経て特許権の保護範囲に入らないことを確認した。European Celtic社の申立について、合議体は宜昌人福薬業有限責任公司が提出した特許登録錯誤の抗弁を審理し、当該抗弁事由が成立しないことを認定した。

CNIPAは、5人による合議体を設置し約6か月で裁定を下している。2021年10月に最初の医薬品特許紛争早期解決メカニズムの行政裁決事件を受理し、現在までに59件の申立てがあり、受理条件に合う39件を立件している。

参照サイト:https://www.cnipa.gov.cn/art/2022/4/25/art_53_175126.html

【中国】特許権侵害紛争行政裁決模範確立業務通知の解釈(12月11日)

国家知識産権局は、12月11日付で11月19日公示した各地方政府の知識産権局に対する「特許権侵害紛争行政裁決模範確立業務通知(关于开展专利侵权纠纷行政裁决示范建设工作的通知)」 のポイントを押さえた解釈を公示したので、仮訳で紹介する。地方政府の知識産権局の特許権侵害紛争行政裁決については12月27日にガイドラインである「 特許権侵害紛争行政裁決指南 」が公示されており、増加の続いている特許権侵害紛争に対して、今後は地方の知識産権局が積極的に地方条例を作るなどして特許権侵害紛争に取り組むことが予想される。

以下は本解釈の部分仮訳である。

(1)制度の基礎を堅固にする。
 地方政府の立法部門が関連する地方条例に特許権侵害紛争の行政裁決に関連する手続きと実体的条項を加えることを奨励、支持する。関連する地方の法規を起草、改訂するときに特許権侵害紛争に関わる場合は、「処理する」、「決定を下す」などの表現を「行政裁決を下す」に調整しなければならない。

(2)受理ルートをスムーズにする。
 法律法規と法定手続きに厳格に従い特許侵害紛争行政裁決の職責を履行する。担当組織は特許権侵害紛争の行政裁決業務の根拠、法定職責及び案件の受理範囲を積極的に公開し、事件の処理手順と進行を公開する。人民裁判所、人民調停委員会及び専門調停組織の設立を推進するとともに行政裁決告知制度を実施し、弁護士と末端の法律サービス従事者を指導し、積極的に行政裁決ルートを知らせる。「誰が法を執行するか」の法律普及責任制を真剣に実施し、様々な方法で特許権侵害紛争行政裁決の優位性、業務効果と典型的な判例を宣伝し、関連権利者が行政裁決を通じて特許権侵害紛争を解決するよう奨励する。

(3)業務手法を革新する。
 特許権侵害紛争事件の立案登録制度を推進し、立案手続きを簡略化する。事件送達情報ネット公告制度を確立し、事件の送達の便宜を図る。立案時に請求人が意匠や実用新案特許の事件で特許権評価報告書を提出した場合、当事者の陳述と尋問を経て、特許権侵害紛争事件の書面審理メカニズムを進める。審理前に十分な準備ができ、証拠収集が全面的で、審理の調査で明確な事件である場合、口頭審理後裁決を下すことを奨励する。専門技術者として招聘された技術調査員は、事件処理に参加し、技術の事実の究明に協力し、鑑定意見を提供する。特許行政裁決と特許権確認手続きの連動メカニズムを確立し、係争中の特許が無効宣告請求を受けた場合、権利侵害紛争受理地の省(区、市)の知識産権局は、国家知識産権局知識産権保護司と専利局復審と無効審理部と共同で審理を行うことができる。

(4)連携調整を成し遂げる。
 地方政府の知識産権局が特許権侵害紛争を裁決する場合はまず調停するとともに、行政指導などの方法を十分に運用し、事実調査結果、専門鑑定或いは法律意見を提供することによって、当事者の紛争解決の協議を推進しなければならない。当事者が調停を経て合意に達した場合、地方政府の知識産権局は速やかに調停合意書を作成するとともに、当事者が法に基づき司法による確認を請求するよう誘導しなければならない。調停による合意が不調の場合、地方政府の知識産権局は速やかに裁決を下さなければならない。争いのない事実記載制度を確立し、調停過程に確認された争いのない事実については、行政裁決過程において当事者は改めて立証する必要はない。但し、国家の利益、公共の利益及び他人の合法的権益に関わる場合、或いは相反する証拠があり元の確認事実を覆すのに十分である場合、当事者に改めて立証を求めなければならない。

(5)作業メカニズムを健全化する。
 省クラスの知的財産権局と案件量の比較的多い市クラスの知識産権局は、具体的に業務を担当する専門部署或いは専門担当者を明確にする必要があり、行政判断業務と社会の両ニーズを満足することを確保する。特許権侵害紛争行政裁決事件の各クラスの行政部門における監督、移管、移送などの手順を完成させ、職責の明確化、権限の平等、効率的な活動体制メカニズムの構築を加速させる。事件等級指導システムを確立し、省或いは市をまたがり全国的に影響のある事件は国家知識産権局が指導或いは監督し、市クラスをまたがる事件は省(区、市)の知識産権局が指導または監督する。上級機関の委託或いは地方法規の授権方法を通じ、法に基づき条件のある県クラスの知識産権局が特許権侵害紛争行政裁決業務を展開することを推進する。省(区、市)の知識産権局は管轄区内の法律執行処理基幹を法により集中組織し、管轄区内の重大、難事件を速やかに処理することができる。

(6)能力確立を強化する。
 各地方政府の知識産権局は特許権侵害紛争行政裁決チームの確立を強化し、強力なスタッフを配置し、国家統一法律職業資格を取得した人員を優先的に配置し、行政裁決に従事させる。集中教育、業務指導、判例講座、評価の審査などを通じて、行政裁決担当者の専門的能力と業務水準を向上させる。行政裁決チームの専門化、職業化発展モデルを積極的に模索し、事件の解決に役立つ特許権侵害紛争行政裁決専門チームを育成する。特許権侵害紛争検証鑑定技術サポートシステムの建設活動を積極的に展開し、地方での知的財産権侵害判定専門家バンクの確立を推進し、法律顧問と公務弁護士の役割を発揮し、さらに行政裁決の処理能力及び事件の処理の専門性を向上させる。

 知的財産権侵害紛争行政裁決業務を展開することは、党中央、国務院の知的財産権保護の全面的強化に関する重要な取組みを深く貫徹することになり、中国の「知的財産権保護強化に関する意見」の重要な実施を推進することでもあり、特許権侵害紛争行政裁決モデルの建設を展開することは、知的財産権侵害紛争行政裁決業務を推進する具体的な措置である。国家知識産権局は引き続き党中央、国務院の知的財産権保護強化に関する重要な配置と要求を真剣に貫徹し、関連部門と共同し、地方政府の知的財産権管理部門を指導し、特許侵害紛争行政裁決モデル建設業務を真剣に組織し、より大きな力で知的財産権保護を強化し、事業者環境を最適化する。

参照サイト:
12月11日  https://www.cnipa.gov.cn/art/2019/12/11/art_2432_170429.html
11月19日  https://www.cnipa.gov.cn/art/2019/11/19/art_75_132022.html