【中国】CNIPA2022年商標異議・無効10大事例(4月26日)

国家知識産権局は、2022年に705.6万件の商標出願を審査し、悪意のある商標先取出願3.5万件、社会公共の利益を損なう悪意商標出願3,192件を却下した。一方、商標異議申立事件17.6万件、商標無効事件41.2万件を審査し、悪意商標出願・登録6,102件を取締った。そして、2022年の典型事例10大事例としてブランドのフリーライドなど、異議と無効それぞれ5件を10大事例として公表した。

●2022年商標異議・評審10大事例

事例1.第43541282号“花满楼”(30類)商標異議申立事件
商標出願人:四川普度茶叶有限責任公司
異議申立人:鄭小龍(引用小説著書の娘)
【概要】異議不成立。当該標章は、小説「陸小鳳伝奇」の登場人物名で「先の権利」(法32条)に違反との異議理由に対し、評審は唐、宋の詩人の作品に登場しており、異議証拠はお茶などの関連商品での誤認混同を立証するには不十分と認定した。先行する合法的権益は保護されるが、不当に自由に制限することは認められない。

事例2.第58141161号“张子憨” (20類)商標異議申立事件
商標出願人:曹雪花
異議申立人:広州市天河区棠下松本喪喪服飾工作室
【概要】異議成立、出願却下。当該標章は、異議申立人が「抖音(中国版TikTok)」で使用しているアカウント名称で「先の権利」(法32条)に違反との異議理由に対し、評審は提出された当該アカウントが称賛されているスクリーンショットなどと総合的な調査により当該アカウント名称が衣料品分野で一定の知名度があること、出願人に一定の悪意があることも認先し、先の権益を侵害するとして出願を却下した。これは新しいメディアのアカウントに民事権益を認めた事例である。

事例3.第54491795号“华莱仕福”(35,42類)商標異議申立事件
商標出願人:唐山米源企業管理諮詢有限公司
異議申立人:上海榕贏品牌管理有限公司
【概要】異議成立、出願却下。当該標章は、先登録第23667026号 (35類)及び第10912752号(43類)の「华莱士」と類似商標との異議理由に対し、本願は第35類広告、第43類レストランを指定し、引用は第35類ホテル、第43類喫茶店と一部類似サービスになるが、出願人の法人登記が2021年に取消されていることから、復審に答弁もなく、主体資格がないため(法4条)、出願を却下した。なお、本件出願に代理人はいない。

事例4.第54053085号“唐妞” (11類)商標異議申立事件
商標出願人:河南広播電視台
異議申立人:陝西歴史博物館(陝西省文物交流中心)
【概要】異議成立、出願却下。当該標章は、先登録第17454729号、第17455036号、第17455700号の同一商標とは第29、30、43類と区分が異なり類似を構成しないが、異議申立人が提出した証拠によると「唐仕女俑」をモデルにし創作された唐文化のイメージ名称で、新聞報道、出版図書、店舗の設立などで宣伝、使用し、すでに全国的に有名となっていることから、復審は出願人は知り得る状況にあると認定し、先行権益を損害するとして(法32条)、出願を却下した。

事例5.第52917720号“惠民南粤家政” (45類)商標異議申立事件
商標出願人:惠州市南粤家政務有限公司
異議申立人:広東省人力資源和社会保障庁
【概要】異議成立、出願却下。当該標章は、広東省委員会、省政府が初めて提案し、複数の政府部門が共同で実施している重要な民生プロジェクトの名称“南粤家政”と類似し社会に欺瞞と悪影響があるとの異議理由に対し、復審は出願人が当該出願に政府の許可を提出していないこと、「恵民」には「人民に利益を与える」という意味があり、それを付加することでサービスの提供元を誤認しやすくするとして(法10条1項(7)、(8)号)、出願を却下した。

事例6.第13571777号“东来顺”(17類)商標無効事件
商標権利者:劉玉志
無効申立人:北京東来順集団有限責任公司
【概要】無効成立。本商標は、中国でレストランの老舗ブランド(老字号)であり、無効宣告請求時は既に除斥期間5年を過ぎていたため、申立人は係争商標の出願日前に既に当該商標が関連公衆に知られている馳名商標の証拠(法13条)に加え、商標権者が事業範囲を超えて出願していること、標章の独創性や知名度の証拠で商標所有者に悪意があったとの理由での無効主張に対し、評審は馳名商標としての証拠により老字号と認定し、商標権者に主観的悪意があり、誤認混同惹起、申立人の権益の損害があるとして(法13条3項)、無効宣告した。

事例7.第33194676号“正泉茂”(30類)など商標無効事件
商標権利者:林紅紅
無効申立人:泉州市鯉城鯉中泉茂糕点店
【概要】和解成立。本事件は、第25908980号“泉茂”、第33187494号“林记正泉茂”、第33194676号“正泉茂”の商標無効及び第26373585号“泉茂世家 QUANMAO PASTRY”出願拒絶再審事件などに関し、当事者は叔父と甥の関係で、「正泉茂」標識はその家族が伝承使用している屋号や商標で、主に緑豆餅に使用され、泉州地区で比較的高い知名度があるが、当事者双方は10年以上にわたり、20件以上の商標出願事件を起こしている。合議体は現地での巡回口頭審理を行い和解に導いた。

事例8.第44714668号“叁零叁”(19類)商標無効事件
商標権利者:天津市参零参物流有限公司
無効申立人:天津市万栄化工工業公司
【概要】無効成立。申立人はグループ企業傘下の会社であり、その元法定代表者が職務中に無断で53件の登録商標を上記商標権者に譲渡し、その後の民事訴訟により返還命令が下された((2021)津01民終131号)が処理未完了、一方、商標権者は違法譲受した商標の類似商標を出願登録したことから、信義誠実の原則違反など(法4条、7条、10条1項(7)、(8)号、44条)を理由とした無効主張に対し、評審は主張の一部は立証が不十分であるが、裁判の通り申立人に不利益となる譲渡がある情況で、本登録出願に正当化されず、信義誠実の原則違反し、不正な手段によるものとして(法44条1項)、無効宣告した。

事例9.第16038591号“伍连德医疗及図” (41,42,43,44,類)商標無効事件
商標権利者:伍連德国際医療管理中心有限責任公司
無効申立人:黄建堃
【概要】無効成立。本商標の「伍连德(伍連德)」は、中国での衛生、防疫、検疫事業の創始者、この分野の先駆者であり、中華医学会の初代会長でもあるところ姓名権を侵害する理由での無効主張に対して、評審は当該登録商標の顕著な識別部分は「伍連徳」であり、登録されたサービスに使用すると、同氏と何らかの特定の関連がある、またサービスの提供元を誤認混同させるとして法10条1項(7)号」、無効宣告した。

事例10.第48720058号“莱迩” (43,類)商標無効事件
商標権利者:郝磊
無効申立人:上海莱迩酒店管理有限公司
【概要】無効成立。本商標の「莱迩」は、申立人がホテル事業に使用している屋号であり、商標権者は元従業員が宿泊、託児所、老人ホームなどのサービスに登録したことから主観的悪意を理由とした(法7、9、10、32条ほか、不競法など)無効主張に対して、評審は申立人の先の使用、元従業員の職歴、商標権者の他の類似商標出願などから当該商標を知っていたことを合理的に認定でき、正当な出願とは言えないとして(法15条2項)、無効宣告した。

参照サイト:https://www.cnipa.gov.cn/art/2023/4/26/art_3207_184727.html

【中国】北京法院2022年知的財産権10大事例と商標登録行政10大事例(4月25日)

北京高級人民法院は、4月25日に記者会見を行い、北京法院の2022年知的財産権10大事例と商標登録行政10大事例を発表した。2022年に北京市の裁判所が受理した知的財産権にまつわる民事と行政訴訟事件は72,778件、審理が終結した事件は74,506件である。その終結事件の知的財産権民事事件は51,458件、行政事件23,048件であった。新しい産業で新しい業態やビジネスモデルの出現が知的財産権に対する司法での保護により高いレベルの要求が求められており、今回選定された事例は関連公衆に対する司法保護、新しい知的財産権客体の保護、新しい市場競争行為の規範化など最前線の問題を取り上げている。今回、初めて商標登録行政事件を発表することで、正常な商標登録管理や公平な競争秩序の維持を意図したようである。こうしたことを受けて、北京高級人民法院は2022年に商標却下再審行政事件審判チームを設立し、商標再審行政事件の二審の平均処理期間を35日まで短縮している。また、一審の北京知識産権法院も処理期間短縮のために事件の90%に電子送達、20%に簡易手続きを導入している。

●2022年度知的財産権10大事例

事例1.「ED-71製剤」発明特許侵害事件 (2022)最高法知民终905号、(2021)京73 民初1438 号
 中外製薬株式会社vs温州海鹤药业有限公司
 【2020年特許法改正で導入された医薬品特許リンケージ制度導入後の最初の事件、裁判所は対象特許ZL2005800098777.6の保護範囲に係争ジェネリック医薬品が入らないと確認。上訴棄却。最高人民法院も10大事例に選出。】

事例2.音楽著作権使用許諾契約紛争事件 (2021)京民终929号、(2018)京73民初904号
 中国音像著作权集体管理协会vs天合文化集团有限公司ほか多数
 【AV著作権管理協会は被告にカラオケ事業者からの著作料徴収業務を委託したが、被告と被告が設立した子会社に違約行為や横領が発生し、契約解除と損害賠償を請求し提訴、裁判所は事実確認、全体で9,900万元の損害賠償命令。控訴棄却。】

事例3.“Merck”商標権侵害及び不正競争事件 (2021)京73民终1625号、(2018)京0105民初73620号
 Merck KGAA(默克股份两合公司)vs MSD Animal Health Products Shanghai(默沙东动物保健品(上海)有限公司)
 【ドイツのMerck社とアメリカのMSD社は長い関係にあり、1970年代にMerck商標の全世界での使用に合意し、中国はMerck社に帰属し、5類や44類などに登録商標を保有している。MSD社は中国で動物用耳洗浄剤をMerckブランドで販売し、従業員のメールアドレスのドメイン名も@merck.comであることから、不正競争と商標権侵害で提訴された。消費者に誤認混同を惹起させ、会社名の無断使用となることを認定し、侵害行為の停止、65万元の損害賠償を命令。控訴棄却。】

事例4.“无障碍电影(障害のないAV)”APP情報ネットワーク送信権侵害事件 (2021)京73民终2496号、(2020)京0491民初14935号
 北京爱奇艺科技有限公司vs上海俏佳人文化传媒有限公司
 【「我不是潘金(私は潘金蓮ではない)」映画作品の独占的情報ネットワーク送信権を有する原告が被告の運営する“无障碍影视(障害のないAV)”APPがネット放送することは権利侵害と提訴し、裁判所は適切な検証プロセスを経ていないと侵害認定し、侵害停止と1万元の賠償命令。二審では著作権法24条1項12号の例外規定の「視覚障害者が知覚できる障害のない方法」の条件を満足していないと侵害認定し、侵害行為の停止、1万元の損害賠償を命令。控訴棄却】

事例5.虚偽SNSユーザーインターフェース不正競争事件 (2021)京73 民终2963 号、(2020)京0108 民初8661 号
 深圳市腾讯计算机系统有限公司(テンセント)vs郴州七啸网络科技有限公司ほか
 【原告の運営するWeChatなどのインターフェースのテンプレートや素材などをコピーしユーザーに偽造、不正行為のツールとして不正に提供していると提訴し、裁判所は信義誠実の原則や商業道徳に違反する「黒灰産(ブラックマーケット、ネット詐欺)」行為と認定し、528万元の損害賠償を命令。控訴棄却。最高人民法院も10大事例に選出。】

事例6.“聚丰园(聚豊園)”商標無効宣告行政事件 (2022)京行终3410号
 无锡市聚丰园大酒店有限责任公司vs国家知識産権局、第三者:无锡产业发展集团有限公司
 【「聚丰园」は清朝時代からレストランやホテル事業での知名ないわゆる老字号(老舗)商標であるが不使用などで無権状況になり、元経営者が無断で商標登録したために、継承会社の商標法15条1項(会社代表者の自己名義での出願は無効)に基づく無効宣告の申立てを受けて、無効審決。行政不服訴訟一審は、係争商標が既に登録になっていることから同条の適用を否定、代理代表権の立証も不十分として審決取消、差戻判決。控訴審では代理代表権の存在を認定するとともに、主観的悪意の存在の場合、同条が適用できると裁定。】

事例7.“百灵鸟QQ 营销(ヒバリQQマーケティング)”不正競争事件 (2019)京0107民初23101号
 深圳市腾讯计算机系统有限公司(テンセント)ほかvs北京任网行科技有限公司ほか
 【原告のQQシリーズはSNSプラットフォームとして高い評価を受けており、9類、42類に登録商標を保有している。被告サイトはQQシリーズソフトウェアのダウンロード、ユーザー情報の取得と利用など可能なサービスを提供しているため、商標権侵害と不正競争で提訴。裁判所は誤認混同惹起で商標権侵害、技術的手段を利用した原告の技術保護措置の破壊、情報収集は正常な事業の運行秩序を阻害し、権益を害したと(反不正当競争法12条2項4号)認定し、侵害停止、影響除去、296万元の損害賠償を命令。】

事例8.“古北水镇”不正競争事件 (2021)京73民终4553号、(2020)京0101民初6263号
 北京古北水镇旅游有限公司vs北京小壕科技有限公司
 【原告は観光及び飲食サービスを提供し、社名やその酒類の販売では一定の知名度があるところ、被告は同地域に法人登記し、「古北水镇」を33類、25類に商標登録するとともに、原告に当該商標の使用停止を行政投訴などにより使用停止を要求した。原告は当該商標の無効宣告に成功するとともに、当該社名の知名度や商標未登録を知りながら権利行使をしたとして不正競争で提訴。裁判所は、商号の一定の知名度、先の権利、被告の回避義務、及び原告の権益損害、信義誠実の原則違反(反不正当競争法2条)を認定し、31.5万元の損害賠償を命令。控訴棄却。】

事例9.“冒名顶替(なりすまし)”による営業秘密侵害事件 (2021)京73民终3593号、(2021)京0102民初6218号
 北京心果科技有限公司vs解某氏、万源汇康科技(北京)有限公司
 【元従業員は担当した顧客のプロジェクトが中止されると報告し、退職後に、友人と共同経営する会社を関係会社と顧客に虚偽報告し同プロジェクトを受託契約した。原告は特定顧客情報の開示と使用は営業秘密侵害にあたるとして提訴、裁判所は原告の主張する当該プロジェクトの契約内容や顧客情報は営業秘密に属し、連帯被告は営業秘密と知り得る立場にあると認定し、不正競争行為の停止、影響の除去、355万元の損害賠償を命令。控訴棄却。】

事例10.“冬奥会吉祥物(冬季五輪マスコット)”著作権侵害刑事事件 (2022)京0106 刑初86 号
 北京市丰台区人民检察院vs任某
 【被告は、北京2022年冬季五輪と冬パラリンピック組織委員会の保有するマスコットキャラクターの美術作品の著作権を侵害する人形を自作し、期間中にネットショップを通じ販売し6万元余り売上げ、北京市公安局豊台支局六里橋派出所に逮捕された。刑事一審で被告は自発的に犯罪事実などを供述したことから刑法217条1項に基づき、処罰を懲役1年罰金4万元に軽減、在庫や製造素材を没収廃棄。】

商標登録行政10大事例
事例1:“新浪大眼睛” 第10665413号図形商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终4207号、(2021)京73行初9626号 悪意出願典型事例
事例2:“梅赛德斯” 第25239475号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终4971号、(2021)京73行初2430号 悪意先取出願典型事例
事例3:“新神榜 杨戬” 第53131550号商標出願却下再審行政訴訟事件 (2022)京行终6309号、(2022)京73行初4131号 烈士名商標保護典型事例
事例4:“哔哩哔哩BILIBILI” 第26264549号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终2944号、(2021)京73行初12721号 インターネット馳名商標認定典型事例
事例5:“百威” 第11381396号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终4298号、(2021)京73行初13816号 馳名商標悪意先取登録無効典型事例
事例6:“宅电舍” 第14076256号商標無効宣告行政訴訟事件 (2021)京行终9516号、(2021)京73行初5825号 商標代理人による不正登録典型事例
事例7:“永安堂” 第12017052号商標無効宣告行政訴訟事件 (2022)京行终1884号、(2021)京73行初3940号 “老字号”(老舗)商号の善意の先使用と共存の典型事例
事例8:“鞋面缝线” 第31447132号立体商標出願却下再審行政訴訟事件 (2021)京行终5797号、(2020)京73行初14440号 靴の位置商標の識別力判断の典型事例
事例9:“晨光笔” 第36939797号立体商標出願却下再審行政訴訟事件 (2021)京行终8370号、(2021)京73行初2129号 立体商標の機能性判断典型的な事例
事例10:“千页豆腐” 第9943225号商標取消再審請求行政訴訟事件 (2022)京行终51号、(2020)京73行初18107号 登録商標の希釈化(一般名称化)判断の典型事例

参照サイト:https://bjgy.bjcourt.gov.cn/article/detail/2023/04/id/7262200.shtml