最高知識産権法廷は、2月26日付、以下の2020年度十大技術類知的財産権典型事例を公示した。これらは今後各法院での参照判例となる。
1.無線通信標準必須特許「禁訴令(訴訟差止命令)」3件
(2019)最高法知民终732、733、734号
Conversant(康文森)社と華為(Huawei)社の間での無線通信技術に関する標準特許に関する国際的紛争において、華為が南京中級人民法院に非侵害確認訴訟を提起し、一方、Conversant社はデュッセルドルフで侵害訴訟を提起し、中国での第二審中に、ドイツの裁判所が侵害と差止の決定を下し、仮差止を認める判断を下したところ、華為は最高知識産権法廷にConversant社が最高知識産権法廷の判決前に仮差止を申立てない行為保全を申立てた事件で、中国での初めての訴訟差止命令の事件である。
2.「バニリン(Vanillin、香兰素)」営業秘密侵害高額賠償事件
(2020)最高法知民终1667号
嘉興中華化工社と上海欣晨社が共同開発したグリオキシル酸法によるバニリンの製造プロセスの技術秘密を王龍集団や伝氏など個人が許可なく使用したとして、浙江高級人民法院に提訴した。侵害差止と350万元の賠償命令が下されたが、侵害行為を停止せず、また判決に不服で控訴したことを受けて、最高知識産権法廷は侵害期間や悪質な対応などを総合的に考慮し、過去最高の1.59億元(約25.4億円)の賠償を命じるとともに、刑事事件として移送した。
3.「カーボポール(Carbopol、卡波)」技術秘密侵害懲罰的賠償事件
(2019)最高法知民终562号
広州天賜社と九江天賜社は自社のカーボポールの製造プロセス技術の技術秘密を安徽紐曼社と華慢氏、劉宏氏など個人が侵害したとして、広州知識産権法院に提訴し、故意侵害と権利侵害の情状を考慮し、首謀者の劉宏氏に2.5倍の懲罰的賠を命じたが、双方が控訴し、最高知識産権法廷は技術秘密の貢献度、処罰賠償を確定する際の被告の主観的悪意の程度や立証妨害行為などを考慮し、懲罰的賠償の上限5倍を適用する判断を下し、被告の安徽紐曼社には前審の5倍の3000万元(技術的貢献度の確定があり金額は同じ)+合理的支出の40万元(4870万円)、劉宏氏にも5倍の3000万元の懲罰的賠償のを命じた。その他の関係者の賠償額は500万元と100万元に維持された。なお、Carbopolは水溶性ビニルポリマーであり、Lubrizol社の登録商標である。
4.NXコンピュータソフトウェア著作権侵害事件
(2020)最高法知民终155号
シーメンス(西門子)社のNXソフトウェアは品の設計、エンジニアリング、製造を統合して、製品の品質を向上させるソリューションであり、沃福社が許可なく使用し権利侵害したとして広州知識産権法院に提訴した。証拠保全中に被告が保全措置を妨害したので、侵害停止、法定賠償上限の50万元(800万円)と合理的支出10万元の賠償を命じた。最高知識産権法廷は被告の侵害数、係争ソフトウェア価格、証拠保全での妨害状況などを総合的に考慮し、賠償額261万元(4,200万円)と合理的な支出10万元に判決を改めた。
5.「自撮り棒」実用新案特許の大口権利維持シリーズ事件
(2020)最高法知民终357、376号
源德盛社は「自撮り棒」の実用新案特許2014205227290の権利者で全国のメーカーや販売店を相手に大量の特許権侵害訴訟を起こしている。品創社を被告とする事件では広州知識産権法院は被告が侵害製品のメーカーであり、以前の事件後もその製造、販売を続けていることから差止と100万元の賠償を命じ、最高知識産権法廷での控訴審も原審維持とした。一方、源德盛社が晨曦通信部を銀川中級人民法院に提訴した事件では源德盛社が侵害損害額の証拠を提出せず、被告が個人の販売店で経営規模が小さく、侵害額が法定賠償額の下限を下回るという状況から法院は2000元(3.2万円)の賠償を命じたが、源德盛社が不服で控訴したが、最高知識産権法廷は控訴を却下し、原判決を維持した。このように事情に応じて適宜賠償額を確定する方針を示した。
6.「二次リチウムイオン電池」発明特許無効事件
(2020)最高法知行终406、407号
アップル上海社、アップル北京社が任暁平と孫杰、保有の発明特許011416157に無効取消をかけた事件で、国家知識産権局では一部を除き有効、北京知識産権法院は明細書のサポートがないことを理由に無効で差戻、特許権者が不服で控訴し、最高知識産権法廷は明細書のサポートがあると判決を戻した。この判決では2つ以上の異なる数値で範囲を限定する請求項が明細書でサポートされているか否かの判断基準を明確にした。
7.「ポータルサイトへのアクセス方法」特許民行合一事件
(2020)最高法知行终282号、(2019)最高法知民终725号
敦駿社は、「インターネット事業者のポータルサイトに簡易アクセスする方法」という名称の特許権者で、維盟社と冠峰者が許可なく、その特許権を侵害しているとして泉州中級人民法院に提訴した。泉州法院は冠峰社による合法的出所の抗弁が成立するとして、維盟社に差止と1,000万元の賠償を命じたが、被告は不服で最高知識産権法廷に控訴した。一方、被告は国家知識産権局で無効取消を申立てたが特許権が維持され、行政不服訴訟を起こした。最高知識産権法廷は、上述の同一特許に係る行政、民事控訴事件を統括的に審理し、2020年12月23日に行政二審判決で特許権を維持し、12月30日に民事二審判決で侵害の認定と賠償額を維持した。
8.「リチウム電池保護チップ」集積回路配置設計侵害事件
(2019)最高法知民终490号
賽芯社は2012年4月22日に「統合コントローラとスイッチ管の単チップ負極保護リチウム電池保護チップ」という名称の集積回路配置設計を登録し、現在も有効である。賽芯公司は裕昇社及び戸氏など個人が販売するチップは当該集積回路配置設計と実質的に同じで専有権を侵害するとして、深圳中級人民法院に提訴した。法院は設計の独創的な部分が実質的に同一で権利侵害を構成するとして50万元の賠償を命じた。裕昇社及び戸氏など個人などはこれに不服で控訴し、最高知識産権法廷は原判決を維持した。
9.「天猫」逆仮差止事件
(2020)最高法知民终993号
博生社は「新型のバレル構造を持つフラットパネルモップクリーナー」の実用新案特許権者で、聯悦社がTmallで販売しているモップがその特許権を侵害しているとして寧波中級人民法院に提訴した。法院は侵害を認定し、天猫社に直ちに被疑侵害品の販売リンクを削除、遮断するよう命じ、天猫社はTmallでのリンクを削除した。聯悦社などは控訴した。第二審中に、係争特実用新案特許権は国家知識産権局により全部無効と宣告された。これを受けて、聯悦社は最高人民法院に行為保全を申立て、天猫社に直ちに聯悦社の製品のTmallでの販売リンクを回復させるよう申立てた。最高知識産権法廷は受理後26時間以内に決定を下し、「固定+動態」担保金の形式(売上高に基づく動的保証)を採用して申立人の保護されるように、その保全申請を支持した。この行為保全の決定が下された後、各当事者は和解に達した。
10.「煉瓦協会」独占事件
(2020)最高法知民终1382号
宜賓市煉瓦協会の発起人である呉橋社、四和社、曹氏などは広範にこの煉瓦協会に加入する「生産停止整理契約」を締結することで、煉瓦の供給量を減らし、煉瓦の価格を引き上げ不当な利益を得た。こうした契約を締結した張氏はこのために生産を中止させられたとして、成都中級人民法院に提訴し、競争に参加することを排除されたため独占禁止法に違反し、宜賓市煉瓦協会などによる賠償33.6万元と合理的支出8万元の支払いを申立てた。法院は被訴行為が独占禁止法に違反するとして、連帯賠償33.6万元と合理的支出5000元の支払いを命じた。被告は不服で控訴した。最高知識産権法廷は、張氏は自発的に本件独占協議に参加し、実施者の一人として、当該独占契約の実施による経済損失を賠償を求めることは、実質的に独占利益の分割を要求することであり、独占禁止法による救済の対象に当たらないと判断し、原審判決を破棄し、張氏のすべての訴訟請求を却下した。