【中国】最高人民法院知識産権法庭2021年度報告(2月28日)

最高人民法院は、2月28日付、知識産権法庭設立3周年の総括と2021年度の年度報告を行った。年度報告は4部13項目からなり、概要は以下の通り。詳細は原文でご確認ください。

1.政治のリーダーシップのもとに強力なチームを形成(省略)
(1)党建設指導チームを構築し裁判の促進堅持
(2)専門的能力開発を積極的に強化
(3)規則を制定し公正で廉潔な司法の確保

2.法執行事件処理に焦点を当て裁判の質と効果を改善
(1)2021年の事件数は持続的に増加
①事件基本データ
 2021年の技術類知的財産権と独占事件の受理5,238件(新規4335件)、審理3,460件(処理率79.8%)。前年比、新規受理+1,158件(+36.4%)、審決+673件(+24.1%)。
 なお、過去3年間の技術類知的財産権事件の受理は9,368件,審理7,625件、独占事件の受理は90件,審理55件。
②裁判官一人当たりの処理件数と審理期間
 2021年の裁判官一人当たりの処理は83.5件(前年比+1.2%)、平均審理期間134日、民事二審は129.4日、行政二審は143.6日。
③事件内容別分布
 民事二審2,569件は、発明特許権侵害576件、実案特許権侵害806件、特許出願権と権利帰属紛争213件、植物新品種権紛争68件、集積回路配置設計紛争2件、営業秘密紛争79件、コンピュータソフトウェア紛争593件、契約紛争153件、独占紛争25件、その他の紛争は54件。発明特許権侵害、コンピュータソフトウェア紛争、特許出願と権利帰属紛争、営業秘密紛争、植物新品種権紛争などの増加が大きい。管轄異議は減少。
 行政二審1,290件は不服再審で、特許出願457件、実案特許出願36件、意匠特許出願3件、発明特許権無効283件、実案特許権無効234件、意匠特許権無効102件、植物新品種申請1件、独占行政紛争2件、行政処罰などその他の行政事件172件を処理。いずれも大幅に増加し、発明特許出願と発明特許権無効の事件が最も増加した。植物新品種登録と独占行政の紛争は初めて受理した。
④審理結果
 審理3,460件での原審維持2,272件(民事1,004件、行政862件)、維持率65.7%(民事49.6%、行政88.8%)、控訴却509件(14.7%)、民事調停198件(5.7%)、却下再審・改審468件、その他13件。
⑤外国、香港台湾澳門の関与事件
 2021年は受理437件(構成比10.1%)で民事176件、行政261件、対前年同期比+16.2%。内、新規382件(構成比8.8%)、香港・台湾・マカオは55件。処理280件(構成比8.1%)と前年と横ばい。
(2)事件種別ごとの特徴
①全体的特徴
 (a) 民事行政ともに増加継続。民事+620件(対前年比+31.8%)、行政+620件(対前年比+92.5%)。
 (b) 最先端技術分野がますます拡大。次世代情報技術、生物医薬、ハイエンド装備製造、省エネ・環境保護、新材料、新エネルギーなどの戦略的新興産業が全体の1/4強。
 (c) 国際的事件、外国企業が関与する事件や外国と中国で訴訟が並行する事件の増加が継続。   
 (d) 事件の地域性はさらに分化。北京、上海、広州の知識産権法院からの控訴第二審が半分以上だが、中西部地区(鄭州、成都、武漢など)の事件が急増。
②特許民事事件
 (a)請求項解釈は依然として主で、技術的特徴、均等、機能的特徴および使用環境特徴(間接侵害)の判定などで審理基準をさらに明確化。
 (b)非侵害の抗弁は主に合法的な出所と公知技術が多く、特許権の有効性が増加。
 (c)証拠規則を柔軟に運用し高額賠償事件が増加、権利侵害行為に対する処罰の効果が向上。
 (d)特許出願権帰属紛争は職務発明紛争の比率が最も多い。元従業員の任務、元会社や部門での物質的技術条件を主に利用した発明かどうかが主な争点。
 (e)民事と行政(特許無効)が交差する事件に協同審理メカニズム(二合一)を整備。国家知識産権局と積極的に事件についての交流メカニズムを確立し、協同審理を効果的に促進。
③特許行政事件
 (a)権利種別は発明特許が主で、発明特許出願の再審と無効の却下再審740件(66.4%)。
 (b)新分野、新業態の事件が増加、主に、医薬(含む漢方薬)、通信分野、インターネット、ビッグデータ、電子商取引、人工知能、ブロックチェーンなど。
 (c)争点は進歩性と新規性。
④営業秘密事件
 (a)事件数は2019年12件、2020年44件、2021年79件と持続的に増加、新技術分野の案件が増加。
 (b)関連法律問題が複雑多様化。手続きでは主に管轄権、権利侵害地、重複起訴状況の認定及び違約責任と権利侵害責任が競合した場合の管轄の確定など。実体審理では、技術秘密の内容と範囲、賠償額の確定、秘密保持措置、営業秘密侵害行為の実質的な貢献、製品技術情報が技術秘密の対象か否かの認定など。
 (c)高額賠償請求事件が増加。2020年の「Cabo」営業秘密侵害事件罰則的賠償5倍の適用で3000万元、「Vanillin」営業秘密侵害事件で1億5900万元の賠償。
⑤植物新品種事件は、主に農作物品種の比率が多く、トウモロコシ、水稲、小麦、綿花など。
⑥コンピュータソフトウェア事件は、主に著作権侵害紛争と開発契約紛争の2種類。
⑦独占禁止事件
 (a)独占協定紛争民事事件は、特に横独占の比率が増加、情報通信技術、運転訓練サービス、消防検査サービスなどの分野。
 (b)独占行政事件は2件、それぞれ反独占法第46条の適用と行政不作為行為の起訴期限の確定。
 (c)外国関連独占民事事件が増加、国外で発生し中国国内市場での競争制限行為に対する訴訟。
 (d)独占禁止と知的財産権が絡む状況が増加。特許権の市場での支配地位行為の乱用、医薬品特許の横独占協定などますます複雑化。

3.イノベーションを保護しその活力を刺激
(1)科学技術イノベーションの進歩を保護
①重点分野の保護、特に、植物新品種、漢方薬などの知的財産権の保護、イノベーション主体の合法的権益の保護(権利帰属、権利譲渡、利益分配)、及び関連成果を司法解釈、司法政策、裁判規則に転化した。
②保護措置の強化、特に、厳格な保護、権利濫用の効果的防止、「立証難、周期長、賠償低、コスト高」などの難題を継続的に解決。立証難には証拠規則の適用、立証責任の転換、立証妨害の排除による権利者の負担軽減し、権利者に有利な事実推定の実施。周期長には仮差止措置を積極的に運用し、技術秘密侵害事件で初めて「再審+仮差止」裁判方式で侵害行為をタイムリー効果的に制止。低賠償には損害賠償と合理的支出の支持を強化し、「Vanillin」営業秘密侵害事件では過去最高の1億5900万元の賠償、「ディーゼルエンジン」技術秘密使用許諾契約事件では虚偽の意思表示に基づいて2億元の資金返還を命令。
③不誠実な訴訟行為制止の強化、特に、司法懲戒を積極的に運用し、証言などで民事訴訟を妨害することに対する処罰、大量に中小企業を少額賠償額で提訴した事件で賠償額を合理的に一定範囲内に確定し中小企業の存続発展を支援。
(2)市場における公平な競争を効果的に維持
 プラットフォームビジネス、核心技術、医薬、通信などの重点分野の独占と不正競争事件の指導と営業秘密の司法保護を強化し、司法による科学技術のイノベーションと公平な競争に有利な審理を行った。営業秘密侵害事件では、立証責任の合理的な分配と当事者の秘密保持義務の明確化を通じて、権利者の立証負担を軽減し、不正競争行為を効果的に抑制し、市場の公平な競争を維持した。
(3)法に基づく行政行為を監督・支持
 知的財産権と独占禁止行為に対する司法審理を強化し、行政法執行基準と司法裁判基準の統一を推進する。知的財産権と独占禁止行政処罰、行政裁決事件を適切に審理し、法に基づき権益の保護、行政機関の法治監督を促進した。
(4)対外開放の全体的情況により良いサービスを提供
 外国が関与する知的財産権と独占事件を平等、公平かつ公正に審理し、国際的に一流のビジネス環境の構築に努力した。2021年に382件の外国関連事件を受理(約8.8%)し、246件を審理した。鎖髄内釘の連動に関する発明特許侵害事件では、被告が帳簿の提出を拒否したため権利者の主張を全額支持し2000万元の損害賠償を命じた。

4.改革の深化を推進力とし、審理メカニズムを改善
(1)統一審判基準システムプロセスの推進
 専門裁判官会議制度を設け法廷内の法律適用の統一を確保した。特に、「最高人民法院知識産権法法廷審判指導と参考」の出版や典型的事例を共有した。
(2)新しいタイプの事件の審理メカニズムの健全な模索
 技術調査官制度を基礎とし、多様な専門人材による「全国法院技術調査人材バンク」を充実させ、全国的な適材人材の派遣を強化した。特許民事と行政事件の集中審理、二合一審理を推進し紛争解決を効果的に短縮した。
(3)積極的に大規模な保護活動のパターンを構築
 知的財産権保護システムの建設プロジェクトに積極的に参加し、定期的に農業農村部、国家知的財産権局、国家独占禁止局などの部門と業務交流を行い、情報資源共有メカニズムの確立を促進し、知的財産権の行政保護と司法保護、独占行政法執行および司法業務の間の連携メカニズムを改善した。
(4)スマート裁判所建設の成果を十分に活用
 司法データの積極的活用を推進するために「知己」裁判規則ライブラリを継続敵に整備し、技術類知的財産権事件判決を分類・編纂した。オンライン訴訟の活用を推進し、「中国移動微法院(モバイルマイクロ裁判所)」は「知財法廷クラウド」の構築を模索し、3000件以上の事件を審理した。実物証拠の立体イメージをオンラインで活用、電子送達、第一審訴訟記録の移送など司法手続きの向上を模索している。

参照サイト:https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-347361.html