【欧州】ポルシェ911共同体意匠無効確定(2019年6月6日)

欧州司法裁判所(ECJ)は、ポルシェによる欧州連合知的財産庁(EUIPO)が下したボルシェの共同体意匠登録No.198387-0001(2007.7.4)及び、No. 1230593-0001 (2010.8.20)に AUTEC社の無効請求(2014.7.8)を認めた審決No.9642及びNo.9640(2016.5.10)に再審請求し、審判部が下した却下裁定No.R945及びR941(2018.1.19)対する不服行政訴訟において却下する判決 (CJEU, EU:T:2019:380、377)を下した。

この事件は、ポルシェ社がPorsche911シリーズの複数のモデルに意匠権を引き続き取得しているために、ドイツの玩具メーカーであるAUTEC社がこうした意匠権に対する高額なライセンス料の負担から逃れるために起こした無効請求から始まっている。大きなポイントはポルシェ自身の先登録意匠により新しいモデルに対する意匠権がそれぞれ無効となったことである。

ポルシェ社はAUTEC社の共同体意匠規則No 6/2002の条項25(1)(b)に基づく無効主張に対して、条項6(1)の独自性について、本件意匠は異なる全体的印象をその情報に通じた使用者に与えているため独自性があると主張したが、その主張は裏目に出て失敗に終わった。
 欧州司法裁判所は登録性にかかる独自性に関わる、その情報に通じた使用者(informed user)、創作者の自由度(freedom of the designer)、及び全体的印象(overall impression as a whole)について検討した。
 使用者については、ポルシェ社の主張するポルシェ911の使用者ではなく、一般の乗用車(Passenger car)であるとして、その情報をポルシェ911に特化して使用者を特定し、ポルシェ911シリーズの個別のモデルの違いを見極めることまでは要求されない。例えば、その情報に通じた使用者は商標でいう平均的消費者(Average Consumer)と当業者(skilled person)の間に位置し、一定程度の製品に対する知見が平均的消費者よりあると理解できると判断している。なお、意匠分類や意匠名称まで踏み込んで使用者について解釈している点には注意が必要であろう。
 創作者の自由度については、全体的印象に影響を及ぼすものであるが、従来の意匠設計を改良するのみならず、一から創作する上でも自由度の解釈の対象としなければならない。また、単なる意匠設計上の制約だけでなく、技術的制約や安全面などの法律的制約も自由度の範疇に考えなくてはならない。本件ではポルシェ911という高級車のシリーズとして、大きな変化を自由度として組み込むことは難しく、市場の期待度や象徴となるような設計で小さい差異で十分であるとポルシェ社は主張し、本件意匠ではヘッドランプ、リアランプ、バックミラーといった点がそれに該当し、ポルシェ911シリーズの各モデルの小さな差異が使用者に全体的印象として違いを印象づけるのに十分であると主張した。しかし、裁判所は市場の期待度や象徴となるような設計である必要はなく、自由度とは創作者が新しい形態や線、或いは何か新しいものを現在のトレンドとして創造することで許され、技術的機能による先行意匠との差異までは要求せず、製品の特性や使用される目的や機能から全体的印象に違いがあるとの印象を生じさせることにあると解釈している。
 全体的印象は、使用者に生じる印象であるが、個別の先行意匠の全体的印象を比較されなければならず、全体的な印象の比較は総合的でなければならず、単純に類似点と相違点のリストの分析比較だけに限定することはできない。メーカーがコストを理由に絶えず新しいモデルを開発するよりはモデルの指向性を出すことを好んでおり、知見のある使用者はこれうしたメーカーの意向や動向を知っている。従って、そうしたモデルチェンジでは個別のモデルの特徴を放棄することなく、一般的なトレンドを取り入れる手法が採用され、一部の部品だけに新たな創作が適用される。全体的印象として、この種の製品の意匠の本質的な特徴は非常に似通った一般的構造であるボディの形状によって支配されており、それは形状やシルエットにおいてだいたい同じで、ドアや窓などが全体的な印象に大きな影響を及ぼすのは小さいと考えられるとしている

このような方向性は少し揺り戻しの感があるが、総じて全体手印象はその情報に通じた利用者と創作者の自由度により変化するものであるが、「その情報に通じた」の解釈がリラックスするとこのような判断結果になることは理解できる。今後の意匠権のポートフォリオ構築において、ヨーロッパでは少し方向性を考え直す必要に迫られると言える。なお、欧州では著作権による個別の権利行使が可能である状況もあるので、意匠の有効性判断と侵害問題を同一視することはできない。ご参考まで。

参照先:各判決文 http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf;jsessionid=16A2CA5013B37096911581BE68BEBB1B?text=&docid=214767&pageIndex=0&doclang=de&mode=req&dir=&occ=first&part=1&cid=8637944

http://curia.europa.eu/juris/document/document.jsf;jsessionid=16A2CA5013B37096911581BE68BEBB1B?text=&docid=214771&pageIndex=0&doclang=de&mode=req&dir=&occ=first&part=1&cid=8637944

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